第39話 がんばれ!宿泊の攻防戦💛7 (優しさのパンチ)

「さあ!みんな、覚悟はいいかな?」

「え?…今日の予定はこれで、終わりじゃ……」

 岸川教頭は、あわてて“旅のしおり”をめくったが、花火の後に何も予定は書かれていなかった。


「ブンちゃんったら、また何か秘密で計画したのね!」

 鈴木先生が、クスクス笑いながら細谷先生をクスグリに近づいた。

「あーあ、ごめん、ごめん。……今、言うから、待って待って」

と、慌てて、計画を白状した。


「えー、これら、大人肝試しを行います!!」

「えー?ほんとにやるの?」

「まじか?」

「先生達で、肝試し?」

 細谷先生の悪乗りで、5年団の先生達は、ザワついた。


 ところが、ベルフィールだけは、

「ねえ、教頭……肝試しって、何だ?……おいしいのか?」

と、とぼけたことを聞いていた。


「ああ、ええっっとだな~、肝試しか?……そうだな~」


 岸川教頭が説明に困っていると、細谷先生が、

「私が教えてやる、ベルちゃん、いいか?肝試しって言うのはな………………

………優しさを計る秘密の儀式なんだ!………

 肝試しをするとな、相手がどれだけ優しいかが、すぐにわかるんだ

 ベルちゃんもやってみたいだろう?」


「うん、そんなすごい儀式があるんだな、こっちの世界には……」


「ただしだ、この儀式には、魔法は禁止だから、覚えておけよ!……もし、魔法を使ったら、儀式の神様が怒るんだ!いいか?」

「うん、わかった!……わたし、頑張るぞ!」


「おいおい!細谷先生、そんないい加減な説明を」

「し!……黙れ!教頭!神聖な儀式の前だぞ!!……静かに!!!」

 細谷先生は、益々悪乗りして、岸川教頭の言葉を遮り、肝試しの説明に入った。


「えーと、小田先生と園部先生は、先にコースの下見に行ってください。

ここは、子ども達も肝試しを行いますので、よろしく!

……鈴木先生は、このテントをスタートにするので、私が合図を出したら、体験者をスタートさせてください。

私と松田先生は、折り返しにする林の向こう側の木の所にいて、このカードを渡します。いいですね!じゃあ……」


「おいおい、誰が、肝試しを体験するんだよ……」

 少し、青くなりながら岸川教頭が尋ねた。


「そんなの、残った教頭先生とベルちゃんだから、よろしくね……これも子ども達のためよ!体験、体験……いいわね!!」

 

細谷先生は、2人を見て、ニッコリ笑って、松田先生と林の中へ消えて行った。




 何気なく鈴木先生が、2人に

「あのね~手を繋ぐといいわよ、怖くないから……」

と、言った。


すると、ベルフィールは、

「大丈夫よ、こんなの、ちっとも怖くないわよ……あっちの世界は魔物がいっぱいいたのよ」

と、言った。

「ふーん、でもね……あれ」

と、鈴木先生は、彼女だけに見えるように岸川教頭を指さした。


 彼は、暗闇の林を見つめて、肩が丸まり、小刻みに手が震えていた。


 細谷先生から、携帯電話が入り、鈴木先生は、スタートの合図を出した。


「行くよ……総司」

 ベルフィールは、岸川教頭に近づき、右手で彼の左手を掴んで、歩き出した。


「べ、ベル!……あ、ああ……いや……これ……」

「いいから、黙って。任せて!」

 落ち着いたベルフィールと慌てる岸川教頭は、暗闇の林を懐中電灯1本で進んだ。


 しばらく歩いて行くと、大きな木の陰から、白い着物を着た人影が見えた。

「だ、誰か、いるぞ!ベル…………」

「大丈夫だって……」


 そう言って懐中電灯を照らした瞬間

「わああああーーーーー」

と、おかしな声を上げて、2つの白い影が近づいて来た。


「ぎゃあああああああああ」

と、叫んだのは、岸川教頭だった。目をまん丸くして、口を大きく開けて、思いっきり大声を上げた。


「総司、総司……大丈夫だよ……小田先生と園部先生だから、心配いらないよ!」

 ベルフィールは、いたって落ち着いて、お化けの正体をすぐに見破っていた。


「…………な、な、なんだ…………そ、そうか………」

「総司、落ち着いた?………うふっ!……ありがとう……」

 ベルフールは、暗闇の中で、少し顔を赤らめて微笑んでいた。


「え?……何がだよ……こっちは、変なところで叫んで、カッコ悪いし……」


「だって、あんな時でも、手をしっかり握って……」


「……それは、思わず……力が……」


「あのーーー、オレらは、これで帰るっすけど………イチャイチャは後でやるっすよ……」

「ああ……いいから、早く行きなさい」

「へーい」


「じゃあー先へ行こうか」

「うん💛」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「やれやれ……お2人さん、お化けも怖くなかったようですね……」

「まったく……びっくりしったぞ……」

「えへっ!」

「おや、ベルちゃんは、楽しかったようですね……よかったですね~……はい、仲良し証明カードです、大切にしてね」

「「はい」」


「帰りは、何も無いから、一緒に帰ろう」

「うん」

 ベルフィール達4人は、来た道をテントに向かって戻った。すると、途中まで来た時、また白い影が4人に迫ってきた。


「小田先生、もういいよ、おどかすのは終わりにしよ」

 細谷先生が呼びかけた。


 ところが、白い影は、まだ4人めがけて幾度も迫ってきた。

「みんな、おかしいよ?あれは、先生達じゃない!危ないから気を付けて!」


 白い影が、岸川教頭めがけて突進してきた。手を繋いでいたベルフィールは、教頭を自分の胸元に引き寄せ影の攻撃を避けた。

そして、繋いでいない手を前に伸ばし魔法の言葉を唱えた。


≪……万物の精霊達よ!我に力を与え給え!

月の光で影を照らせよーーー!!≫


 すると、その夜の月光がなん百倍にも集約され、白い影に当てられた。すると、影の本体が薄っすらと見え出した。

 ベルフィールは、すかさずその本体めがけて、グーパンチを1発お見舞いした。影の本体は、そのまま遥か遠くへと飛んで消えていった。


「ふうー、終わったわー」

 ベルフィールは、安堵のため息をついた。

 

岸川教頭は、不思議に思って尋ねた。

「ベル、あのくらいの敵なら、最初から魔法でやっつけられたろうに……どうしてわざわざ、パンチなんかしたんだ?手は、痛くなかったか?」

 

「……だって……この儀式は……魔法禁止なんだぞ!……魔法を使ったら、お前の優しさがわからなくなるだろ?」


「「おおおおーーー」」

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