第4章 ベルの恋模様

第32話 裏腹なこころ

「……ック…ック……………ウェ…――ン…………ファ…グッスン…」

「ベルちゃん……そんなに心配したの?」

 めぐみが、いつまでも泣き止まない彼女を抱き寄せながらやさしく聞いた。


「……ン……っうん……」

 ベルフィールの涙は、止まりそうもなかった。


「総司、お前がベルちゃんを負ぶって保健室へ連れて行け!もう敵もいなくなったし、これで今日の運動会は無事にできるだろう………校長には、わしがうまいこと言っておくから、しばらくお前はベルちゃんと一緒にいてやれ」

「でも……今日の運動会が……」

 教頭は、泣いているベルフィールを心配そうに見ながらも、自分の仕事が気になっていた。

「大丈夫だってば、学校の方は、教務主任の先生もいるし、いざとなれば校長先生が何とかしてくれるわよ…………教頭先生は、お弁当にさえ間に合えばいいからさ、ね!……さあ、ベルちゃんをお願いよ!!」

 栄養教諭で、防衛隊の仲間である植野めぐみは、急いでベルフィールを岸川教頭の背中に乗せて、保健室へ向かわせた。

「ベルちゃん、頑張ってねー」

 見送っためぐみは、内心嬉しさで舞い踊りそうなのだが、そこはじっとこらえて、笑顔で手を振るだけにした。


 岸川教頭に背負われた彼女は、涙をすすりながらも、力いっぱいしがみつき、彼の無事を確かめて、喜びを味わっていた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「少し眠った方がいいよ……、今回の戦いは、君にしても大変だったんだろう?」

「うん……強かったわ、それに、ドローンの爆弾は、すごかったの……」

 保健室のベッドに寝ているベルフィールは、枕元の椅子に座っている岸川教頭の方を見ていた。


「さあ、お休み………」

「ねえ……」

と、ベルフィールが、眠らずにじーっと岸川教頭の方を見つめたまま、何か言いたそうにしていた。


「どうした?」

「……………なぜ、聞かないの?……」

 ベルフィールは、ちょっと岸川教頭から目を逸らせ、思い切ったように言い出した。


「ん?……何をだい?……」

 教頭は、何を言われているか、まったくわからなかった。


「……わ、わた、わたしが、泣いたことよ!……」

 彼女は、照れながら話した。

「ああー、僕もびっくりしたけど、ベルもびっくりしたんじゃないかい?……ドローンなんかぶつかりそうになるからね~」

 教頭は、気にもせず答えた。


「…………。…………私は、総司が心配だったの!!!」

 最初、彼女は無言だったが、しばらくして、突然、大きな声で言い放った。


「ああ、そっか。僕の弁当が心配だったのか……そうだよなあ……zz……僕が怪我したら……弁当が……食べられなく……なるからなあ~zzzz」

 岸川教頭は、笑いながら答えた。

 

「もう………総司ったら…………!?」

と、ベルフィールが、文句を言いかけた時、彼女の言葉が急に止まった。

 彼女は、ベッドから起き上がり、岸川教頭の顔をよーく見た。


「どうしたんだよ?……ベル?……何かついてるのか……僕の顔に……」


 そういう岸川教頭の顔を見ていたベルフィールだったが、静かに手を出して彼の方へ差し出すと、彼もまたその手を静かに握り返していた。


「総司も……っぐ……目から……っわ……水が……うぇ……あれ?……」

「なに……ぐっ……言って……くっす……んだよ……zzz……水なん……」


 2人は、しばらく保健室で、楽しいののしり合いを続けたのでした。







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【悪の組織 そのアジトでは】



「俺達も帰るか、後の始末は明日にしよう」

「はい、キング指令」

 だいぶ夜も遅くなり、2人はアジトを引き上げようと玄関まできたが、そこには意外な人物がいた。


「どうした?……まだ、帰らなかったのか?」

 玄関でジョセフィーヌを見つけたキング指令は、驚いた。

「申し訳ありません……どうしても、このまま帰るわけには……」

「ひょっとして、今の話も聞こえたか?」

「はい………重ね重ね、本当にもしわけありません……」


「いいか、失敗など気にするな………俺らなどはな、ジョンに比べたら、何百倍も失敗しているんだ………」

 キング指令の言葉に続けて、部下のトールが続けた。

「自慢じゃないが、僕らなんか、一度も成功したことがないんだぜ!すごいだろう!」

「ぷっ!」

「あ!ジョンが笑った!」

「そうだ、それでいいんだ。失敗なんか、笑い飛ばしてしまえ!次にまた頑張ればいいだよ」

 キング指令が、笑顔でジョセフィーヌにエールを送った。


「………私、話しておかなければ………」

 また、真面目な顔に戻った彼女は、言いにくそうなことを自分の気持ちにケリをつけるような感じに切り出した。


「その方が、すっきりするなら、言ってごらん」

 キング指令は、静かに言った。


「ありがとうございます。……敵の中に、私の知り合いがいるんです」


「やっぱりそうなのか………ひょっとして、それは、仲良しだったのか?」

 キング指令の言葉を聞いて、部下のトールは、

「え?僕は、てっきり嫌なやつで、大嫌いな相手だから、あんなにムキになって戦ったと思ったんだけどなあ~」

と、不思議がった。


「えっと………

実は、両方当たっています。

ベルちゃんは、幼馴染で、いつも私の邪魔ばかりしていた、私の親友なんです。

つい最近まで、勤めていた会社も一緒だったんです…………

でも、彼女ったら、私に黙って、こっちの世界に出向しちゃって…………

私には、何にも言わないで………」

 ジョセフィーヌは、少し涙を浮かべていた。


「まあ、彼女にも何か、理由があるのかもしれないぞ…………

たぶんこれから、長い戦いになるから、じっくり調べていけばいいさ………

気長にやろう」

 キング指令は、悪の組織にしては、やさしい態度で接していた。


部下のトールは、真っ暗な窓の外を見つめながら、

「それに、タンクもきっと協力してくれるはずだ……あいつならきっと」

と、何度もつぶやくように繰り返していた。

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