第31話 運動会危機一髪 8 (大決戦)

「総司、今日こそは、楽しい本当のお弁当にしような!」

 まだ、日の出前の薄暗いグラウンドで、ベルフィールは1人意気揚々と張り切っていた。戦闘スーツも夏用に新調した。スカイブルーを基調に白と黒のピンポイントのイニシャルマークが入った行動力重視のスーツは、体にフィットした短パン型のスポーツウェアのような感じだった。

 同系色のロングブーツと肘までの保護手袋は、見た目にも戦闘力の高さを感じさせた。


「ああ、わかってるよ…………それにしても、ベル、なんか自分だけ、カッコよくない?」

「えっと、これはね~、鎌田のおっちゃんがね~………」

 急にベルフィールのテンションが、下がってしまった。


「まあまあ総司、細かいこと言わないで、そのうちお前にも作ってやるから」

と、鎌田技師がなだめたが、


「えーーー、おっちゃん、教頭先生より、私に作ってくださいよーー」

と、めぐみが駄々をこねだした。

「ああ、メグちゃんね~、今日はこれで勘弁してね~」

と、ポケットから何やら取り出して渡した。

「何ですか?これ」

「これはな、何でもすくえる“オタマ”じゃ」

「“オタマ?”あの料理で使う?」

「そうじゃ、気に入ったか?」

「え、う、うん……まあ……」

 何とも言えない顔をしためぐみだったが、とりあえずもらっておくことにした。


「じゃあ、予定通り、僕と技師長は花火を上げるから、ベルとめぐみは学校の屋上へ行って見張っていていれ。僕達もすぐに行くから、無茶はするなよ!」

 岸川教頭が、指示をした後、それぞれが目的の場所に移動して、準備を進めた。


 運動会が順延になって6日目、今日は土曜日で空はやっぱり晴天である。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

【校舎の屋上  花火の音がこだまして聞こえる】


ヒュウウーンン…………ドーーン、

   ドドンン………バンバン………バンバン………ドンドン………バアアアン



「よし、トール!今日もドローン発進だ!」

 キング指令が、いつものように命令をしようとした時、


「待ちなさーーーーーい!そのドローン!」

 物陰から強い口調の声が響いた。

「誰だ!どこに隠れている!出てこい………」

 あたりを見渡しながら、トールは校舎の屋上で力いっぱい叫んだ。


 トールは、ドローンを浮上させ、屋上にある浄化水槽のタンクめがけて、照準をセットした。

「ふぁははは……お前たちが、そこに隠れているのは、わかっているんだ。今、このドライアイス爆弾をお見舞いしてやる………」

 そう言って、操縦桿のスロットルに付いている赤いボタンを押した。


 雨雲を作るためにドローンに積載していたドライアイス。

それを小球体に分解し、レーザー光線と同時照射することで、驚異的な破壊力を生み出す“ドライアイス爆弾”。

トールは、今、それを浄化水槽タンクめがけて発射した。


≪ガッコーーーーーン グシャ プシューーー≫


 浄化水槽に大きな穴が開き、大量の水が漏れだした。


「……フッ、お見事ね!……でも、そんな武器じゃ、動かないタンクには穴が開いても、この私にはかすり傷一つ付かないわよ!」

 ベルフィールが、姿を現し、真正面から敵に戦いを挑んだ。


「トール!あんまりドライアイスを無駄にしないで!!」

 ジョセフィーヌが、雲を作ることを考え、ドライアイスを温存するように伝えた。


「だめです!今は、やつらをやっつけるのが、先です。そうしないと、俺らが……」

 そう言い終わらないうちに、タンクがベルフィール目がけて突進した。

「うおりゃああああああああーーーーーーー」

 タンクは、武器は持っていなかったが、何せ“力”が強い。コンクリートの壁ぐらいは、一発のパンチで穴が開くくらいだ。

「(まずい……)」

 ベルフィールは、後方に大きくジャンプしてタンクのパンチを避けた。

「お前なんか、わしのパンチで、やっつけてやるううううう」

 それでも、タンクは立て続けにパンチを繰り出し、彼女に迫っていった。


 ベルフィールは、間一髪で避けながらも次第に後ろに下がっていった。

 屋上では、これ以上逃げ場がないというところまで追い詰められた時、ベルフィールは、タンクのパンチを避けて屋上の柵を蹴って、今度は前方の敵めがけて高く飛んだ。上空で一回転してから、太陽を背にした。


「わああああーー。眩しくて、あいつが見えないぞー」

そして、彼女は、そのままタンク目がけて、右足で思いっきり蹴りを入れた。

「ぐふぁあああーーー」

 タンクは、その場に倒れてしまった。


 部下がやられて、頭にきたキング指令は、自分も戦おうとして、

「今度は、俺が相手だ…、覚悟を……」

と、言いかけた時、


「お・ま・えーーー、またーーー、ジャマしやがってーーーーーーー

 いい加減にしろよーーーーーーーーーーーーーーー

 このーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 べるちゃんたらーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」


と、とてつもなく、大きな声を出して、怒り狂っているような感じの形相のジョセフィーヌを見てしまった。


「ジョン?………怒ってるの?」

 キング指令は、信じられなかった。あの大人しそうなジョセフィーヌが、こんな口汚く?ののしって?耳を疑ってしまった。


「こら、トール、かせ!!……」

 ドローンを分捕ったジョセフィーヌは、自分で操縦して、ドライアイス爆弾をどんどんベルフィールにぶつけ出した。


「ほら!ベル!どうだ!……これで、どうだ!!……まいったか?……どうだ?」


「うわっ、いやっ、いえっ、……(これじゃ、逃げてばかりで、攻撃ができない…)」

 ベルフィールは、焦った。


 そんな様子をめぐみが、陰から見ていた。

「(あれじゃ、私が出ていっても役に立たないわ……、すっごい恐ろしい敵だわ……どうしよう)………………あ!これを使うしか……」


 めぐみは、鎌田技師にもらった“オタマ”を取り出した。そして、隙をみて思いっきりベルフィールの方に投げた。

「ベルちゃん、この“オタマ”で、敵の爆弾をすくえるわよ!!!」

「うん、わかった!やってみる……」


「何を、訳のわからないことを……ベル!私を忘れたか?……今度こそ、お前に勝ってやる………勝ってやる………勝ってやる……」

 ジョセフィーヌは、髪を振り乱して、鬼の形相でドライアイス爆弾を打ち込んでいた。


 ベルフィールは、めぐみの投げ込んだ“オタマ”を受け取ると、ドライアイス爆弾をすくっては投げ、すくっては投げ、すくっては投げ………そして、ドライアイスは底をついた。


「くっそー、こうなったら、このドローンをお前にぶつけてやるーーーー」

「ああ、待て、ジョン……ドローンを壊したら……」

 指令やトールが、必死でとめたが、もうその言葉は、ジョセフィーヌには届かなかった。


「ベルーーー、思い知れーーーー」

 ジョセフィーヌは、操縦桿のアクセルを全開にして、ベルフィールに向けた。


「あああああああああーーーーーーーーーーー」

 魔法で破壊する方法もあったが、時すでに遅く、法術を唱える暇もなかった。


 その時、屋上の階段の扉が開き、岸川教頭がベルフィールとドローンの間に飛び込んで来た。



≪ ドッカーン ガッシャーン ガーン ウィーン ウィーン ウィーン ………≫








「……ベル、ベル……大丈夫か?……しっかりしろ……」


「あれ?……総司?…総司は大丈夫なの?……ぶつかったんじゃ?」

 ベルフィールは、岸川教頭に抱き起され、まわりを見ると、目の前に粉々に壊れたドローンが転がっていた。


「これのお陰さ!」

 そう言って、岸川教頭が指さしたのは、花火の打ち上げの時に使っていた、体を守る防御盾だった。もし、花火が途中で爆発しても大丈夫なように、打ち上げの時は、いつも使っていた。

 それを今回持って来ていたのである。幸いに、ドローンは、花火より弱かった。


「よ、よかったよ~、無事で、良かったよ~」

 ベルフィールは、泣き出してしまった。

 





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【敵のアジト】



「キング指令……何とか帰ってこれましたね……」

「ああ、トールよ。今回は、お疲れ様だったな………あ!ジョン、気が付いたか……」


「あ………キング指令……申し訳ありません………」

 気を失ったジョセフィーヌは、キング指令達にそのまま運ばれて帰ってきていた。

 目が覚めた彼女は、いつもの大人しい彼女に戻っていた。


「もう、大丈夫なようだな。元のジョンだな……」

「あの~…あれは……」

「いい、そのうち、ゆっくり聞くから……今は休め」

自分が、大暴れした言い訳をしようとしたが、キング指令は追及しなかった。


「あのータンクさんは?」

「大丈夫さ……あいつは、元気だけが取り柄だから、今は休んでいるだけだ」

 仲間を気遣う優しさも元通りだった。


「それじゃあ……休ませていただきます………本当にごめんなさい」

「気にするな……」

 ジョセフィーヌの後ろ姿は、力が抜けたままだった。



 アジトには、キング指令と部下のトールだけが残り、今回の後始末をしていた。

「キング指令…………今、商工会に副専務から連絡が」

「こんな時に何だ?」


「実は、ドローンはレンタルだったそうで」

「ん、そんなことを言っていたよな……」


「レンタル料金は、1日目は安いんだそうです。

ただし、2日目は1日目の2倍、

3日目は2日目の3倍、

4日目は3日目の4倍……という風になるそうです。

今回、運動会が順延だったので、レンタルは継続にしてしまっていたそうです」


「何だって?それじゃあ、莫大な金額になるだろう?」


「おまけに、破損した場合は、手数料込みで定価の1.5倍の価格を支払うことになっているそうです」

「えええええ?何ていうことだ?おい、払えるのか?」


「今、ざっと計算したのですが………

今回、商工会からの情報料ということで得た利益をすべてドローンのレンタルと破損保障代につぎ込めば、

プラスマイナスゼロかと思います」


「ふへー。何と……ゼロか。こりゃ、どっちが、悪なんだかわかりゃしないなあー」

「まったくです」

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