第33話 がんばれ!宿泊の攻防戦💛1 (楽しい?予感)

「教頭、どこ行くの?」

「どこって?……5年生の宿泊学習の下見だぞ……お前、また寝てただろう?」

「えへへ……だって、会議って、きっと誰か魔法を使って眠らせてるんだよ………」

「そんな魔法なんか、あるわけないわい!」


 岸川教頭達は、来週行われる5年の宿泊学習に備えて、星が空湖のキャンプ場に1泊2日で下見に出かけた。

 5年2クラスの担任2人に、

特別支援学級の担当2人、

養護教諭1人、

それに岸川教頭とベルフィールの7人だ。


7月の第1週、土曜日でお休みだ。夏を目前に、もう蝉の声も聞こえる。空も真っ青で、絶好のキャンプ日和だ。


「私、車ってあんまり乗らないから、楽しいわ……………でも、みんな抜かしていくのね?」


「…………ああ、僕は、制限速度だからね

…………心配しなくて大丈夫だよ、事故なんか起こさないからね…………」


「あ、ああ、すみません。小田先生、ベルが変な事言って、気にしないでくださいね…………あは、はは……」

 なぜか、岸川教頭は、小田先生に気を使っていた。

 

7人は、小田先生が運転するワンボックスに乗って、学校から片道3時間あまり離れた場所にある目的地を目指していた。


「あははは、ベル先生は、正直だねー。小田先生の運転は、世界一安全運転だから、みんなに抜かされるのさ~~、キャンプ場までバスなら3時間で着くけど、小田先生の運転だと、4時間はかかるかな?あはははははは……」

 高笑いしたのは、養護教諭の細谷文乃先生だった。


「もー、ブンちゃんったら、そんなこと言ったら、小田先生に失礼よ、ねー」

と、すみれ学級の鈴木朝子が小田先生を気遣いながら、笑顔で話を振った。

鈴木先生は、一番の年長で、みんなからお母さんとも呼ばれている。


「いいんですよ別に。今日は、時間に制限がありませんし、事故るよりいいでしょ……」

「そりゃ、そうだよね……あはははは」

 とにかく豪快な教養の細谷先生だった。


「ほら、いいんじゃない!別に、教頭は、気にしすぎよ……楽しくやろうよ、せっかく旅行に来たんだからさ」

 ベルフィールは、浮かれまくっていた。


「そうそう、私も楽しくやりたいな……私、あそこ行くの初めてなの……今回、宿泊学習の引率も初めてだし、なんか嬉しくて」

 2組担任の松田美子先生は、若いせいもあるだろうが、はじめから遠足気分丸出しだった。


「そうそう、楽しいことは、いいことっす。子どもだって喜ぶっす」

 同じ2組のすみれ担当の園部勉先生も若くてノリがよかった。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「ねえねえねえ、ところでさ………」

 下見に出発して、半分ぐらい過ぎた頃、ベルフィールが車中のみんなに大声で呼びかけた。

「………宿泊学習って……何?……」




 みんなは、車の中で、座席からずり落ちそうになった。

 このときばかりは、運転手の小田先生も、ズッコケそうになり、危なく事故りそうになった。


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