第19話 ベルの過去 1 (エリート第1係)

「ベルちゃん、少しは落ち着いたかい?」

 飛行基地で待っていた鎌田技師は、ベルフィールの心配を気にしてすぐに声を掛けた。


「ええ、だいぶいいわ……

何せ、調子に乗って、70個もおにぎり食べちゃったのよね~、

50個でやめとけって教頭に言われたのに、止まんなくてね~」

と、もういつもの陽気なベルに戻っていたので、鎌田は何も言わなかった。


「ねー、この際だから聞いちゃうけど、ベルちゃんって、どのくらい強いの?」

 直球のめぐみは、まわりくどいのは苦手だ。

何でも真っすぐに解決したいのだ。


「どのくらいって言われてもねー……」

 ベルは、何て説明すればいいか困ってしまった。

「私は、前の学校で一緒に戦ったこともあるけど、ベルは大抵どんな悪い奴でも一人でやっつけていたわね」

 めぐみが、思い出しながら話した。


「そうだろう!

ここの学校だって、ベルの技が決まって、大抵悪の化身が木っ端微塵になったんだ…………だから、僕は強いって……思っていたんだ」

 なぜか、教頭は少しムキになってベルの強さを強調した。


「ああ……じゃあ、私がいた部署の話を聞いてもらったらいいかな?」

 ベルが、真剣な顔で3人に向かって話し出した。


「私は、向こうの世界で、有名な警備会社に勤めているんだ。

社員が5万人、全世界と言っても私の世界のことだけど

………約80%のシェアをカバーしているんだ。

敵は、魔物や悪の化身、ゾンビから幽霊まで、何でもありなんだ。

その中で、私は、勤めた時から第1係100名に選ばれて活躍していたんだ」


「やっぱり、ベルはすごく強いんじゃないか!な!」

 なぜか、教頭は嬉しそうだったが、


「まあ、話は最後まで聞いてほしいな。

私は、その中で、100番目だったんだ。

その警備会社は、100人ずつ係が分かれていて、それは強さの順になっている。

もちろん第1係が一番強いんだ。

………今まで、そんな私が戦っていた“悪の化身”と言うのは、

その第1係の中で、さらに4人がグループになり戦ってやっと勝てるぐらいの強さだったんだ。

私は、その4人の中には入れず、補欠だったんだよ。

誰かがお休みの時だけ、代わりをする役目だったんだ。

あちこちのグループに行ったよ。

まあ、お手伝いだね。

だから、役割は単純さ。

最初の囮とか、最後の後始末とか、

ちょっとだけ、みんなのお手伝いなんかが多かったんだ。」


「そ、そ、それでも、第1係なんだから、強いんだよな、な」

 教頭は、まだ、強さをアピールしていたが……。


「まあ、他の係よりは、強いということになっていたなあ……、

ただな…………私には弱点があるだろう?」


「弱点?………あ!…ガス欠だね」

 めぐみが、頭を押さえて、叫んだ。


「そう、すぐお腹が減って、動けなくなるんだ

……それで、失敗を重ねてしまってさ……クビになりかけたんだ」


「え!クビ?」


「でもね……社長がいい人でね……

何でも異世界から転生してきた人らしくて

……私も異世界に行ったらうまくいくかもしれないって考えて、

私を召喚してもらうシステムを考えだしたんだ

………それが、この手帳の召喚魔法陣だ

………これを使えば1年間だけ、異世界に行けるんだ」


「そうか、だからベルは、本社から異世界に出向してきたと同じ扱いなんだ……」

 教頭は、妙に納得していた。


 めぐみは、

「きっと、その社長は、

こっちの世界で、どっかの警備会社の社長が、強盗に襲われて死んじゃって、転生したんだね、きっと

……それで、異世界で同じような会社作ったんだ

……うまいことやったよね」

と、うらやましがっていた。


「そうやって、こっちの世界に出向してきて、

今回で10回ぐらいになるけど、

今までは全部、悪の化身は向こうで戦ったやつと同じくらい強かったんだ

……私がやられそうになったこともたくさんあった

………こんなに簡単に私が勝てるのは、今回が初めてなんだ」


「そうか、そこまで聞くと、妙に納得するなあ」

 教頭は、腕を組んで考え込んでしまった。


「まあ、そこでなーわしが、今までの敵をちょっと分析してみることにしたんだ」

「さすが、技師長」


「夕べからな、データを入れてな

……分析を待つだけなんだが、もう少しかかりそうだな

……じゃあ、分析結果が出るまで、一杯やるか!」

 

鎌田技師長は、みんなの分もコップを用意してあった。

 

しばらく、この飛行基地は、宴会場に早変わりするのであった。

 

今日は、鎌田技師長の持ち込みの“焼酎”である。

 

技師長はそのままで、

めぐみはライムで割って、

教頭はお湯割りで、

ベルは意外に牛乳で割って赤いサイダーを混ぜるのが好みだった。


「「「「 かんぱーい 」」」」

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