第13話 めぐみの憂鬱 1 (演習)

「はあ、はあ……はあ……はあ……ベル、ま、まって……て……」

「遅いよ、教頭……急いで」

「そんなこと言ったって……このかい……だん……きつ……いぞ……はあ……はあ……」

 悪の化身を追いかけてベルフィールと教頭は、校舎3階へ向かう階段を駆け上がっていた。


「くっそ、この時間帯だと、

めぐみは給食づくりの真っ最中で手が離せないし、

技師長は階段に苦労してまだ、1階の途中だ」

「そんな教頭だって、”はあはあ、ぜいぜい” 言ってたじゃん!」

 ベルフィールは、教頭の背中を押しながら、クスクス笑っていた。

「な~におう。今回は、離れないように付いて来たじゃないか!」

「まあね~、あんまり離れると総司を守れなくなっちゃうからからね~」

 ベルフィールは、余裕で階段を飛び跳ねて教頭の周りを行ったり来たりしていた。


「よし、この踊り場をまわったら屋上だ、気をつけろ~ベル!」

「先行って、覗いて見るよ~………」

 ベルフィールは、軽くジャンプして踊り場を経由して、

その上の屋上の扉のところまで行った。

「あれ~?………何もいないよ~」


「どうだーーベルーー………大丈夫かーー?」

 教頭も急いで後を追った。ところが、やはり悪の化身は見当たらなかった。

「変だなあ……」

 2人は、踊り場のところまで戻ってきて、あたりをキョロキョロ見渡した。

すると、壁の一角がクルッと回転し、2人は真っ暗な壁の中に放り込まれた。

「ど、どこだーーー……ベル~~~」

「ここよーーー!」

 ベルフィールの人差し指から小さな炎が見えた。

おかげで周りが少し明るくなり、奥へ続く狭い通路がわかった。

「奥へ行こう!」

 2人は、手を取り合って、ゆっくり前へ進んだ。


「あ!教頭、また扉があるよ……」

「よし、ゆっくり開けてみよう!」

と、教頭が言ったにもかかわらず、ベルはすぐに正面の≪開≫のボタンを押した。


 すると中から聞きなれた声が、嫌みな歓迎の言葉を言ってきた。

「お、ずいぶん早かったな、総司……もう少しかかるかと思ったぞ」

 校務技師の鎌田だった。

「相変わらず、ベルちゃんに守ってもらって……手なんか繋いで、仲良しよね」

 大きなモニターを背にして、振り向いたのは、めぐみだった。

ひじ掛けが付いた事務用の椅子だが、

数倍も座り心地が良さそうなそれは、

ピンク色で、まさにめぐみ専用という感じだった。

「メグちゃんーーーー……」

 ベルフィールは、めぐみを見つけると喜んで抱き着いていった。

「待ってたのよ、メグちゃんならもっと早く来ると思ったのに……」

「だって……総司が、“ぜいはぜいは”してさ……なかなか階段上がれないのよ」


「なあ、ベル?……どういうこと?」

「ああ、総司、ごめんね!……さっきの悪の化身は、私が作ったの、偽物よ。

ちょっと妖精さんに協力してもらってね」

「え?なんで、そんなことを?」

 教頭は、意味が分からず、ただ、口を開けていた。


 めぐみが、椅子から立ち上がり、頭を掻きながら、

「だってさ…教頭先生、運動不足!……

普段は、事務仕事ばっかりだし、

料理はおいしいけど……

だから食べすぎてさ………やっぱり運動不足………

悪の化身が出てきても、

すぐにベルちゃんにやっつけてもらうから、やっぱり運動不足…………

なんとかしないと、この間みたいに、危ない目に合っちゃうでしょ!…………

教頭先生が危ない目に合うと、泣いちゃう人がいるのよ!」

 

めぐみは、笑いながら教頭のぷよぷよの腕の筋肉をつまんで馬鹿にした。


「えーっと、ところで、ここは、なに?」

 大きなモニター、

色とりどりのスイッチ、

マイクにスピーカー、デスクに椅子、

地図にホワイトボード、

何やらハンドルやレバーのようなものまで見える。

教頭は、この教室ぐらいの部屋に、

メカニックを満載した要塞もどきが、


なんなのか、気になって仕方がなかった。

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