第14話 めぐみの憂鬱 2 (発進)

《フォアン フォアン フォアン フォアン … … … 》


「いかん、敵だ!今度は、本物だぞ!」

 鎌田技師が、叫んだ。

「な、な、何なんだ?……いったい……」

 派手な要塞もどきの部屋に、

けたたましく鳴り響くサイレンと、激しい光が回転する赤色灯に、

岸川教頭は何がなんだかわからなくなった。

「教頭先生、悪の化身が出現しました。場所は、第3山の中小学校のグラウンドです」

 めぐみが、ヘッドセットを付けてモニター画面を見ながら報告した。

「行こうよ!総司、早くしないと、逃げられるよ!」

 ベルフィーナが教頭にしがみついてお願いした。

「行くっていっても、あそこは町はずれで、すごく遠いんだぞ。

僕らが向かっている間に逃げてしまうよ」

「大丈夫だ総司!……さあ、みんな席に着くんだ」

 鎌田技師が、そう促した。

そして、教頭に向かって、


「さあ、艦長は、お前だ総司……発進の命令を!」

 モニターに前にはめぐみがヘッドセットを付けて陣取り、

自動車のハンドルのようなもののある席には鎌田技師が、

ボタンがたくさんある席にはベルフィールが、

そして中央の席には岸川教頭が座った。

 訳も分からず岸川は、前方の大きなスクリーンを見つめたまま、


「……発進せよ!……」


と、叫んでしまった。

 後は、すべて鎌田技師長が、すべての計器をコントロールして、最後に大きなレバーを手前に引いた。


≪ぎいいいいぎゅううううういいいんんんんごおおおお……≫


 要塞もどきは、いつの間にか少しずつ動き出していた。

 校舎屋上直下に作られた理科室展望台。

そこを改造して作られたのが、この要塞もどきである。

 展望台の半球形の屋根が、真ん中から半分に割れた。

 そこから、円盤型の飛行物体が浮かび上がったと思ったら、

両翼と尾翼、それに垂直翼が飛び出し、

後方から太陽風エネルギーを噴射して、音もなく現場に向かった。


「上空旋回」

 鎌田技師長が、そう言ってハンドルを右に回した。

機体はゆっくり右旋回を繰り返し始めた。


「敵発見、黒い姿をした悪の化身が10体います」

 めぐみがモニターを見ながら報告した。

「艦長、攻撃の命令をお願いします……艦長!!」

 技師長が、振り向いて岸川艦長を見つめた。

「え?俺?……攻撃?……じゃあ、こうげき……」

 半信半疑で、何をやっているかのかまだつかめないまま、教頭は攻撃命令を出した。

「了解!悪の化身に向けて攻撃を開始します!……正義のレーザービ~~~ム」

 ベルフィールが、目の前のスイッチを一つ押した。

 空飛ぶ要塞もどきの先端から、正義のレーザービームが飛び出し、悪の化身に次々に命中し、消し飛んで無くなってしまった。

「敵は、消滅しました」

 ベルフィールがそう言うと、

「帰還します」

 鎌田技師長は、ハンドルをもとに戻し、ホーミングのボタンを押した。

要塞もどきは、帰路についた。


「お疲れ様、艦長。どうですか?わしの設計したこの戦闘艦は」

 鎌田技師長は、教え子である岸川教頭に自慢した。

「え?これ、技師長が、作ったの?……いつの間に……仕事しないで……まったく」

 教頭は、あきれてしまった。

「これがあったら、ベルちゃんの活躍があんまり見られなくて寂しくなるかな

………ベルちゃん?……あれ、ベルちゃんったら……ガス欠だわ」

 めぐみが、椅子のところでぐったりしているベルフィールを見つけた。

「そういえば、今日は、朝から階段を上ったりして、余計な運動をしてたわよね……

おまけにオヤツも食べてないし……

おっちゃん、このまま教頭先生のうちにお願い」

「はいよ!」

「え?この戦闘艦のまま、家に行くのか?……僕のうちを破壊するつもりか?」

「教頭先生、大丈夫よ、任せてって」

 

 鎌田技師長の運転する戦闘艦は、教頭のアパートの上空まで来た。


≪チェンジ・フォーメーション・APY≫

 鎌田技師長が叫ぶと、教頭のアパートの屋根が開き出した。

ちょうど教頭の部屋の部分だけが開き、戦闘艦が各翼を収納した形ですっぽり格納できた。


「い、い、いつの間に、こんな改造を……」

 またしても教頭は、腰を抜かしそうになった。

 部屋に着いたら、暗闇の廊下を歩いて行くと、回転する壁を通って、教頭の部屋のリビングに繋がった。


「ぎゃっ」

 

 教頭は、担いで来たベルフィールをソファーに放り投げると、早速冷蔵庫を開けて、何やら作り始めた。

 10分もしないうちに香ばしい匂いが部屋中に立ち込めてきた。

「お!お!こ、こ、これは…………」

 ベルフィールが、ソファーにすっくりと立ち上がって、キョロキョロとあちこち見渡した。


「ここだよ!」

 いつものように、教頭が呼ぶと、彼女はジャンプして、食卓の椅子に座った。

「さあ、みんなも座っておくれ!……今日は、タコ焼き……お好みバージョンだ!」

「「「わーーーーーーー」」」


 香ばしい匂い、焼き上がったまあるい形状、

一気にお好みソースをかける。

その上からマヨネーズを縦横に敷く、

鰹節を撒くとまるで生きているように踊る、

青のりを振る、

そして紅ショウガを盛り付ける。


「さああ、召し上げれ!熱いから気をつけて……」


「あふぁ、ふぁふぁふぁ。んんふふふぉふぉおふぉ……んんおおおおお!!」

 なんて幸せな味なんだろう!」



「お!……こ、これは、ウインナーだ」

「あれ、……これは、ウズラの卵だ」

「おお!……これは、キムチだ……なんて刺激的だ」

「これは、上手い!……チョコレートだ」

「こっちは、チーズよ」

「こっちは、生クリームだわ」

「おおおおお、これは、大根の粕漬けじゃないか……さっぱりしてうまいなあ」


「おや、どうしたメグ……おいしそうに食べてたのに、浮かない顔になって」

 鎌田技師が、心配そうに顔を覗きこんだ。

 すると、めぐみは、皿いっぱいのたこ焼きを持ちながら、恨めしそうに教頭を見てつぶやいた。

「だって、ベルはいくら食べても平気なのに。私はね、こんだけ食べたら……

また、だいぶ運動しないとね……

本当に憎たらしいわ、こんなにおいしいものばっかり作ってさ」


 めぐみは、笑いながらたこ焼きを食べ続けた。


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