第8話 ヒーローは、再び? 2 (ベルの弱点)改訂

「前っていっても1回だけよ……」

 めぐみは、柄にもなく遠い目をした。

 植野うえのめぐみ、24歳、女性、独身、栄養士の資格を持つ栄養教諭。

 今年の4月に他の学校から転勤してきた。


「おい!ひょとして、前の学校でベルと一緒だったのか?」

 教頭は、めぐみの両肩に手を置き揺さぶりながら迫った。


「痛!痛!………もう、話すから……」

「あ、すまん、すまん……それで?」

 岸川教頭は、興味深々だった。


 彼は、ベルフィールの方をチラッと見た。彼女は、満腹状態なので、今は気持ちも飽和状態で、心地よく休眠中だった。


「それが、前の学校でも、ベルちゃんは召喚されていたのよね~

それは、良かったんだけど……防衛担当者の腕が悪くてね………」


「あああ……弱くて、すぐにやられたんだね!」

「いやいや、悪の化身なんか、ベルちゃん1人で十分なんだよね………でもね、担当者が……へたくそでね………」


「へたくそ?……武器が扱えなかったのか?」


「いや、だから、ベルちゃんがいれば、武器なんかいらないの!…………ほんと、音痴でさ……」


「え?音痴?……戦いの最中に歌でも歌うのか?……こっちでは、歌なんか歌わないぞ?」


「教頭先生!歌なんか、関係ないの!……味音痴なの!!」


「へ?味音痴?」


「そ!おはぎを作ったら、しょっぱいし。塩ラーメン作ったら、甘ったるいし。カレーライスは、酸っぱかったし。何でもかんでもマヨネーズを掛けてたわね。

かき氷にもマヨネーズを掛けてたのにはびっくりしたけど。

あと、お味噌汁の味がしないの。

減塩だとか言ってたけど、悪と戦う人が減塩しちゃダメよね。

ほんとに困った味音痴だっわ」


「へ?へ?へ?何、それ?」


「私は、新卒1年目で、ちょっとだけお手伝いしたけど、私も嫌になって、ベルちゃんに内緒でオヤツを作ってたら、バレちゃって速攻飛ばされたという訳

…………ベルちゃんなんか、あんまりおなかが減り過ぎて、いつも死んだようにしてるもんだから、途中で本社に呼び戻されちゃって、ね!」


「それで、召喚したとはいえ、こっちの世界にあんなに詳しいのか……」

 教頭は、今までのベルフィールの不思議な行動にようやく納得したようだったが、

「……え?……ということは、じゃあ、自由にもとの世界に帰れるということなのか?」

と、再び驚きの声をあげた。


 すると、澄ましたきれいな声で解説する声が入った。

「いいえ、普通は帰れません。私達は、1年という区切りで、召喚さえる特別エルフなんです。

通称“出向エルフ”って言われてます。改めてよろしくね。召喚主様💛」


 ベルフィールは、目も冴えて、ご機嫌な状態に戻っていた。

「だから、出向期間中は、召喚主様が衣食住の面倒をしっかりみる約束になっているんです。

その代わり、私は、悪の化身をやっつけるということにしていますので……」


「本当に、今回は、ベルちゃん嬉しそうで、良かったわ……、ついでだけど、私もおいしそうな物が食べられそうで嬉しわ」


 上機嫌で嬉しそうに笑うベルフィールとめぐみの目の前で、何となく府に落ちない、一人だけ損をしたような顔の岸川教頭だった。


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