第7話 ヒーローは、再び? 1 (腐れ縁)改訂

「ベルちゃんて、教頭先生と一緒に住んでるんだ!」


 作戦会議で岸川教頭のアパートに集まって、めぐみは真っ先に洗濯物に気付いた。

「違うって!」

 すぐに、彼は否定したが、ベルフィールは満更でもなさそうに照れ笑いをしていた。


「何で、お前が照れるんだよ。お前の後始末を僕がしているだけだろ!」

 岸川教頭は、怒りながら干してあるベルフィールの洗濯物を片付けた。


「じゃあ、作戦会議をはじめるぞ」

 何事もなかったように、食卓テーブルに三人は座った。

 しかし、だんだんとベルフィールの姿勢が崩れ、テーブルに上半身が突っ伏してしまった。


「教頭先生、ベルちゃんが、ガス欠です……こうなったら、燃料補給しないと、もう立ち直れません」

 言葉は丁寧だが、目は笑っていた。 

 栄養士のめぐみは、ベルフィールのエネルギー無駄遣いのことをよく知っていて、茶化したのだった。


「ひょっとして、めぐみ君も、ベルにだいぶ吸い取られた口だね。……ご苦労様……」

 半分、呆れたように、でも、慰めの言葉をかけた。


「あははははははははは………」

 めぐみは、口が裂けても、

 自分も一緒に食べたくてオヤツを作っていたなんて言えなかったので、

とりあえず笑ってごまかした。


「仕方がない、作戦会議の前に腹ごしらえでもするか」

 そう言って、彼は、エプロンを付けて台所に立った。

 冷蔵庫を開け、5秒見ただけで、材料を選び出し、早速調理を始めた。

 まな板に野菜、肉と順に乗せ、包丁を巧み操り、あっという間に完成した。

 グツグツと煮立った寄せ鍋を食卓へ持って来た教頭は、


「はい、お待たせ “ちゃんこ風スタミナ寄せ鍋” だ。熱いから気を付けて食べてくれ!」

 どんぶりによそって食べるのだが、別にご飯もある。

“ちゃんこ風”だから、量は、山盛りだ。

 土鍋も、家庭用ではない。

 業務用の大きいものだ。

 野菜や肉などの具はもちろん、味噌味の汁は、出汁が出ていて何杯でも飲める。


 土鍋の蓋を開けた途端、おいしい匂いが漂いベルフィールは蘇生した。


 背筋がまっすぐに伸び、器用にどんぶりと箸を持ち、目にも留まらぬ速さで鍋の具材を掻っ込んだ。

 もちろん、めぐみも岸川教頭も食べたが、量的には比ではなかった。


「おおおおお、これは、力が湧いてくるううううーー、まるで土俵の上で制限時間いっぱいの気分だあああ」

 ベルフィールは、訳の分からない雄叫びを上げて、岸川教頭の料理に、また満足したのだった。

「ふーん、だからベルちゃん、今回は、頑張ってこっちにいるんだね……よかったね、教頭先生!」

 若いのに、めぐみは妙に大人ぶって、訳知り顔で彼の方を見た。


「え?めぐみ君、どういうこと?……君、ベルと以前にも会ってるのかい?」


 岸川教頭にとって、新しい仲間の植野めぐみは、何やらとてつもない情報をもたらしそうである。



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