第9話 魔王様は三姉妹から愛の告白を受けました
我が主が銀仮面の復讐者モードになって、部屋のドアを開ける。
「お邪魔しま~す!」
「ちょっと、何で明かりがないのよ……」
「し、失礼しますぅ~」
って、マリィだけじゃなくて三姉妹揃い踏みか!
シェリィが魔法の光を放つランタンを手にしており、部屋が一気に明るくなる。
すると、そこに照らされた我が主の姿を見て、三人が固まった。
「……どうした?」
尋ねる我が主に、三姉妹が口を揃えて、
「「「パジャマに仮面はおかしい(よ、でしょ、ですぅ)」」」
「おかしくはない」
私も含め、ほぼ全会一致の見解だというのに、我が主は断固として認めなかった。
だが一方で、三姉妹の格好もなかなかどうして、大胆な格好をしている。
共に、薄い生地の袖なしの上着一枚に、下はショートパンツという出で立ちだ。
寝苦しくならないよう胸元の部分が大きく開かれ、素肌が覗いている。
三人とも上は下着はつけておらず、胸の膨らみも昼間よりはっきりとしている。
こうしてみると、リリィほどではないが、シェリィとマリィも十分大きいな。
おまけに照明の光を受けて、青白く照らされた太ももがやたら艶めかしく映えた。
「よ~し、あたし、ここも~らい!」
シェリィが笑って、我が主の右側に座った。
「あ、姉さん! ……じゃあ、私はこっち側を」
マリィもおずおずと、我が主の左側に腰を下ろした。
一人残されたリリィが立ち尽くしたまま「え? え?」と視線を右往左往させる。
「もぉ、別に好きなところに座ればいいじゃないの」
まごまごしている妹に、マリィがやや呆れつつ言う。
すると、リリィが「わかりましたぁ~」と言ってようやく動き出す。
私が乗っていた椅子もあるから、彼女はそこに座れば――、
「よいしょ、ですぅ~」
リリィはそう言ってベッドに乗って、我が主の背後に回る。
「し、失礼しますねぇ~」
控えめな物言いをしつつ、リリィは我が主の首に腕を回して、背中に抱き着く。
え、何してくれてんの、この三女。
その体勢って、我が主の背中に思いっきりおっぱい押しつける形になるんだけど。
って、うわぁッ!
こ、この三女のおっぱい、服の上から潰れてる様子がはっきりと見てとれる!?
大きいことは知っていたが、こ、ここまでの質量を有しているのか……!
「あ、あんた、それ、あ、当た、当た……ッ」
間近で見ていたマリィが、突然の妹の行動に頬を真っ赤にしてプルプル震える。
すると、リリィも同様に顔を赤くしながらも、
「当ててるんですぅ~」
と、はっきりと言い切った。
この妹の大胆不敵な宣言に、マリィは口をあんぐり開いたまま硬直した。
対照的に、シェリィはプッと噴き出して、朗らかに笑う。
「アハハ~、やっぱリリィってここぞってときに度胸が据わるよね~。……えい!」
そして、シェリィもまた我が主の右腕に自らの両腕を絡める。
しかもそれだけでなく、積極的に自分の胸を我が主の肩と腕へグッと押し当てた。
あ、長女も結構おっきい。
大きく開かれた胸元からしっかり谷間が見えてる。
そして、これにまたも次女が仰天する。
「ちょっと、姉さん……!?」
「ほらほら~、マリィも覚悟決めなって~。何のためにここに来たんだっけ~?」
「ですぅ~」
シェリィは意味ありげに笑って、リリィはそんな余裕などかけらもなさげながらも、二人して硬直しっぱなしのマリィの方をチラリと覗く。
その視線が意味するところは実に明瞭。マリィは、際の際まで追い詰められる。
「う、うぐぐ……」
と、彼女は小さく呻いたのち、我が主の左腕を掴んだ。
そして姉がそうしたように、自ら身を寄せて主の肩と腕に胸をグッと押しつけた。
「ふ、ふ、ふ、二人ほど大きくなくて、わ、わ、悪かったわねぇ!」
我が主の耳元至近距離で、茹でダコ状態のマリィが理不尽な逆ギレをカマす。
確かに、マリィの胸は三人中一番小さいが、いや、それでも平均よりはあるだろ。
しかも彼女はスラッとした細身が魅力の大半を占めるタイプだ。
むしろ胸は大きすぎない方が、そんな彼女の魅力を引き立てられる気がする。
――で、ここで私は思うのだった。
唐突に訪れたこのハーレム展開、何?
さっきまでここでは我が主と私が反省会を開いていたはずだった。よね?
なのに、何これ。
この、超速度で構築された三姉妹による退路なきおっぱい責め陣形は一体!?
「…………」
我が主は、ベッドに座って真正面を直視したまま、微動だにしていない。
その様子を、三姉妹は『泰然自若とした様子』として受け止めていると思われる。
だが違う。これはそんな立派なものじゃない。
単に、女慣れしてない童貞の坊やが処理能力限界突破してフリーズっただけだ。
だから、さっさと妃を娶れと言ったんだ、私は! この五十年ずっと!
自分の時間も大切だからと、自由時間を読書に費やし続けた結果がこれだよ!
って、ああああああああああああああああああああああああッッ!?
こ、こ、こいつ! この野郎!
クールキャラを保つために、自分の股間に無詠唱のデバフ魔法かけてるゥ!!?
そこまでして復讐者プレイを貫きたいのか、貴様ってやつは!
「三人とも、これは如何なることか」
ようやっと再起動したらしい我が主が、復讐者口調で尋ねる。
ちなみに何故か目を閉じている。
もしやこの男、両肩と背中にくっついてるものの感触を堪能している、のか?
いや、十分にありうる。
私は知っている。こいつは胸か尻かでいえば、胸派だ。
「……どう、って。ここまでしてるんだから、わかるでしょ!」
そして噛みついてくるのがマリィ。いつまで経っても素直になれないな、この子。
「無論、意図は伝わっている。だがこれが、俺がおまえ達を救ったことに対する礼なのだとしたら、もう少し、自らを大切にするべきだと――」
「違うッ!」
マリィの、悲鳴にも近い怒声が、我が主の声を途中で遮った。
「……いえ、違わないわよ。そういう意味だってもちろん含んでる。でも、違うの。それだけじゃないの。私だって、私達だって、そんな安い女じゃないんだからね!」
そう言って、マリィは揺れる瞳でキッと我が主を見上げた。
それに応じてか、主も彼女の方に顔を傾けて「では、何だと?」と重ねて尋ねる。
「そ、それは……」
途端に顔の赤さを増して、しどろもどろになるマリィ。
ここまで言っておいて土壇場になってヘタレるのか次女。それでいいのか、次女。
「全く、リリィとは逆に土壇場に弱いんだよね~、マリィはさ~」
フォローを入れたのは、シェリィだった。
「でも、ロレンス君もよくないよ~? ここまでしてる子に、口でも言わせようとするんだから。何~、高度な言葉責め~? じゃあ言っちゃうけど~、好きだよ」
相変わらず軽い調子のシェリィの声。
その中に混じっていた愛の告白に、私は数瞬、気づけなかった。
え、今、好きっつった?
「はい、私も、ロレンスさんのこと、好きですぅ」
あれれ、リリィも今、好きっつった?
「ううううう~……、そうよ! 私も同じよ! ロレンスが好きよ! 悪い!?」
ええええええええ、マリィも頭抱えつつ、それでも好きっつった!?
「それは、どうして……」
「あ、ロレンス君、褐色だからわかりにくいけどほっぺ赤いぞ~。ンフフ~」
怒涛の三連告白をくらって、さすがに鼻白む我が主の頬をシェリィがつつく。
「君が私達にしてくれたことを思い返してみて。惚れるなっていう方が、無理だよ」
「そうですぅ~。私を撫でてくれたロレンスさん、かっこよかったですぅ~」
「い、言っておくけど、あんたが初めてなんだから、私達がこんなことする相手!」
次女、三姉妹全員が処女であることを華麗に暴露。
だがいいのか、本当にいいのか、君達。
そいつはキャラ崩壊を防ぐため股間にデバフを重ねがけする歴戦のトンチキだぞ?
「だから、ね?」
と、シェリィが我が主の耳元に唇を寄せる。
「――あたし達と、キモチイイコト、しよ?」
ウィスパーボイスでのその誘いは、男の理性を蕩けさせるに十分な威力を有する。
常人であれば間違いなく乗ってしまう。あまりにも甘美に過ぎる誘い。
だが残念だったな、長女よ。
ちょっと相手が悪すぎた。おまえが媚態をもって誘っているその男は……、
「すまない、三人共。今はまだ、そのときではない」
自分のキャラを貫くという欲望を最優先にできる、クソバカ野郎なのだ――――!
「……ダメなの?」
と、それまでとは一転して悲しげな顔になるシェリィに、我が主は言う。
「俺には、どうしても忘れられない相手がいるのだ」
「あ、幼馴染さん……ッ」
それを思いだしたリリィが、ハッとした表情になる。
マリィも同様に「レイラさん……」とその名を呟くが、それ我が主のママだから。
しかも、今も元気に魔族ママさんバレーとか魔族フラダンスとかやってるぞ。
「おまえ達の気持ちは嬉しい。だが、俺は、まだ……」
言って、我が主は厳しい顔つきのままうなだれる。
場には何とも言い難い沈黙が流れ、そののち、シェリィが小さく微笑んだ。
「レイラさんって人のこと、本当に大切に思ってるんだね、ロレンス君――」
まぁ、我が主は親は大切にする方だからな。確かにその通りだな。
シェリィは我が主から身を離し、微笑みはそのままに瞳を揺らして顔を見上げ、
「……さすがに、ちょっとだけ嫉妬しちゃうなぁ~」
お、お? 何だいきなり嫁姑戦争勃発か? それは私もちょっと興味があるぞ!
「ねぇ――」
次に、マリィが口を開いた。
「あんたが、過去を吹っ切れてないのはわかったわ。……じゃあ、魔王を倒して、あんたが全部に決着をつけたら、そのときは、私達を見てくれる?」
それを尋ねるマリィは、至極真摯な表情を浮かべていた。
我が主も同じく神妙な面持ちで彼女を見返すが、その間も股間デバフ継続中だ。
「未来のことはわからない。だが、復讐が終われば、そのときに改めて考えよう」
「わかったわ。ひとまず、今日のところはそれで納得してあげる」
そして、マリィも離れて、程なくリリィもそれに続いた。
「む~、いつか、リリィ達の魅力でメロメロにしてやりますよぅ~!」
と、リリィは納得しねている様子だったが、それでも退くのだから根はいい子だ。
そして三姉妹はベッドを立って、主の部屋から出ていこうとする。
「おやすみ、ロレンス君。また明日ね~」
そう言って手を振るシェリィは、もういつものSランク冒険者の彼女だった。
こうして三姉妹は部屋を出ていって、我が主はそれを見送った。
「っはぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~、何とか凌いだぁ~~~~!」
復讐者モードをスイッチオフにして、我が主は肩を落として盛大に息を吐く。
「……危なかった。もうちょっとで流されるところだった」
頬を伝う汗を拭いつつ、我が主が三人が去った部屋のドアを見る。
その、無防備を晒している後ろ頭に、私は思いっきりチョップを叩きつけた。
「いたァッ!?」
という悲鳴ののち、我が主がこちらを見る。
「ちょっとロンちゃん、何す――、ぅ?」
我が主が固まる。
まぁ、そうなるよな。だって、振り向いた先にいたのは全裸の女なんだから。
窓から覗く月を背にした、金色の髪をくるぶし辺りまで伸ばした女。
切れ長の瞳は血の色、しなやかな肢体。背はやや高く、肌は透き通るように白い。
そして胸も、シェリィ以上リリィ以下という大きさ。
それが私。
変幻の霊獣ロンヴェルディアが人化したときの姿。
「え、ロンちゃん、何を……?」
唖然となる我が主に応じる気はない。
私はそのまま大股に我が主へと歩み寄って、言ってやった。
「おい、我が主。――愛しているぞ」
そして私は主の唇に自分の唇を重ね、そのままベッドに押し倒した。
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