第12話 クラスメートの男子は1度は彼女に恋をする

「……また、か」


 凛香りんかが下校しようと靴箱を開けると中には手紙が1通入っていた。

 開けてみると、ていねいに書いてはいるが「素は汚い」のが分かる字で「今日の放課後体育館裏に来てください」とだけ書いてあった。


(どうせ告白するつもりなんでしょコイツ。これで高校生になって3回目だわ)


 指定された体育館裏まで行くと、予想通りソワソワとして挙動不審な男子生徒が告白相手を今か今かと待っていた。

 体育館裏という指定場所から挙動が怪しい所まで、散々見て飽きた映画のお約束のようなテンプレぶり。これっぽちも心に響かない。


「お待たせ」


 営業スマイルも無しに彼女は名前もあまり正確に覚えていないクラスメートの男子生徒に声をかける。

 相手は顔が真っ赤になってガッチガチに緊張しているのか、挙動が実に不審で見ていて本当に頼りない。


「り、りり、凛香ちゃん! ぼ、ボボボ、ボクは……ボクは……!」

「ハイハイ、私の事が好きなんでしょ? 言っとくけど私、アンタには一切興味ないからこの話は無かったことにしてね」


 舌を噛み千切りそうなほど緊張していた彼は手を差し伸べる前に「散華さんげ」した。しかも「最速」でだ。




 翌朝……。




「凛香さん、また男子をフったんですって? これで何人目になるんですか?」

「相変わらずモテますねぇ。さすが凛香さん、うらやましいなぁ」


 どこから情報が漏れたのやら。早速取り巻き達がヨイショしだす。


「別に私は何もしてないわよ? ただ向こうから言い寄ってきているだけで、付き合おうと思える人じゃなかったって話。それのどこがおかしいのよ?」


 それに対して、凛香は不満げだ。ただ身に振る火の粉を払っているだけ、とでも言いたげだ。

 凛香は端的に見ても「美少女」と言えるくらいに顔立ちは整っており、色素の薄い髪に灰色の瞳という、日本人としては中々見ない色がそれを引き立たせている。

 アイドルやモデルとしてメジャーデビューしていてもおかしくない位、と言っても決して言い過ぎではないその愛らしさに『凛香のクラスメートの男子は1度は彼女に恋をする』

 という噂話も流れる程であった。


 告白される、だなんて普通の女子生徒だったら「あるかどうかも分からない」ものだが、

 凛香にとっては何度も、何度も、そう「何度も」見て先の展開が全て分かっている退屈な映画を見るかのようであった。

 さかのぼれば中学2年生の頃からこうだ。少なく見てもそこから20回以上は告白されたが、この人だ。と思える人はいなかった。




「凛香さんってば、好みのタイプとかありますか? 今まで告白されて『これだっ!』って思う人は1人くらいいるんじゃないんですか?」

「好みのタイプ? うーん……思いつかないなぁ。少なくても告白してきた奴らに惹かれる要素はこれっぽちも無かったなぁ」

「えー? 凛香さんてば高いの狙っていく気なのね。でも分かるわーそれ。凛香さんなら学校の枠に収まる身分じゃないしね」

「もー、またすぐそうやって余計な事をくっつけようとして……勝手に噂流されるこっちの身にでもなってよね?」


 噂好きで「話を盛る」のが大好きな取り巻きがまた噂を広めようとするのを彼女は口止めする。凛香に関する噂の半分くらいは噂好きの取り巻きによる「盛った」話だと言われている。




キーンコーンカーンコーン




「おはよう。じゃあ朝礼を始めるぞ」


 チャイムが鳴ると同時に先生が入ってくる。今日も1日が始まろうとしていた。

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