ツンデレ幼馴染と「告白」

腹に致命傷を負った後、俺はなんとか真凛を落ち着かせて、事なきを得た。その後は、彼女のご機嫌をとりながら、登校した。



「いてて...まだ腹が痛い.....」


「また神里さんを怒らせたのか?懲りないなぁ、薫は...」


俺を呆れながら、ジト目で見てくるコイツは、俺の親友で、佐藤翔治だ。コイツとは、中学からの仲で、色々な情報をよく共有している。だから、コイツは、俺が真凛の事を好いている事も知っている。


「いや、少し悪ノリしすぎて...悪かったとは思ってるよ。」


「そういうのは、本人に直接言おうな。」


正論を言われて、言葉が詰まる。

コイツも真凛と同じように、周りには優しいくせに、俺には容赦なく責めてくる。冷たくされる事にはもう慣れたが、それでも酷いとは思う。ので、少し仕返しをする事にした。


「俺の周りの人、俺に冷たく当たってくるからやだ!あー!俺に優しくしてくれる友達できないかなぁ!?俺に優しくしてくれる可愛い子できないかなぁ!?」


「おまっ!馬鹿!やめろ!」


少し大きめの声で、俺の不満をぶちまけた。

翔治が慌てて俺を止めようとしている。その光景がなんだか珍しくて、だんだんと楽しくなっていった。だから、俺は仕返しを続ける事にした。


「あー!翔治は冷たいし、俺の幼馴染は厳しいし、もうやだなぁ!」


そう言いながら、翔治の顔をチラ見した。

そして、翔治の異変に気付く。コイツの顔が真っ青になった状態で、俺を、いや、俺の後ろを見ているのだ。


「おいおい、何を見てるんだ?」


そう、笑いかけながら翔治が見ている方向に体を傾けた。そして、その1秒後に俺の顔は、翔治の倍くらいに青くなった。汗が滝のように流れてくる。俺は、ゴクンと唾を飲み込み、勇気を出して、口を開いた。


「あのー...真凛さん?何か御用でしょうか?」


あまりにも恐ろしくて、自然と敬語になってしまう。俺の質問に対して無言なのがさらに怖い。何をされるかわかりないので、いつでも殴られていいように、腹に教科書を当てた。でも、身構えたのは無駄に終わる。



真凛は、ボソリと何かを言った。

「...たわね。」


聞き取れなかったので聞き返す。

もちろん敬語で。

「...なんと仰りましたか?」


すると、真凛はキッと俺を睨みながら、怒鳴ってきた。


「悪かったわね!厳しくて!優しくなくて!可愛げなくて!」


真凛の声が教室全体に響き渡る。廊下にも漏れたみたいで、生徒がチラチラとこちらを覗いてきた。


急な出来事に、俺の脳はフリーズする。驚きのあまり、言葉を発せなかった。最悪なのは、それを、真凛は、俺が肯定したと捉えてしまった事だ。


「っ!否定しないのね。もういい。薫のバカ!」


「っ!?ちょっと!」


そういうと、彼女は走って教室を出ていってしまった。コレだけの騒ぎが朝から起きたとなると、人の目を集めるのは当然で、数十もの視線を感じた。


 でも、今の俺はそんなものを気にしている余裕がなかった。ひたすらバカな自分を罵倒していた。


俺が、悪ふざけをしすぎて、真凛を傷つけた。悪ふざけで、彼女を怒らせることは今まで何回もあった。その度に反省してきたのに、またやってしまった。しかも、今回ばかりは本当にやってはいけないことをしてしまった。


だって、真凛は"泣いていた"のだから....


(俺はなんてことを...好きな人を泣かせて...)


後悔のあまり、顔が自然と下を向く。

そんな時、不意に肩をポンと叩かれた。


顔を叩かれた方に傾けて見てみると、そこには翔治が優しい目で俺を見ながら立っていた。


「薫、お前、自分がどんなことしたか分かったか?」


言ってることは、説教だが、その声は涙が出そうになるくらい優しい声だった。


「...あぁ、すまん。」


「俺のことはいい。お前がどんなことを言ったって、お前がどんなことをしたって俺はお前の親友だからな。それより、神里さんの方だ。追いかけなくていいのか?」


(あぁ、俺は本当にバカだな。こんな奴を優しくないなんて思ってたなんて...)


翔治の語りかけに、胸が熱くなり、思わず拳がギュッと閉まる。


「あぁ、追いかける。ありがとう、親友!」


俺は、心から翔治に感謝しながら、走って教室を出た。




〜〜〜〜〜


「ハァ、ハァ、ハァ...」


息を切れる。苦しい。でも、俺は走り続けた。


いつもふざけて、真凛を傷つけてしまったり、怒らせてしまったりしてしまうダメダメな俺でも、腐っても彼女とは幼馴染だ。


ずっと一緒にいた。

ずっと近くから見てきた。


だから、俺には分かる。

彼女が喜んだ時、どんな表情になるか。

彼女が悲しんだ時、どんなことをするのか。


そして、彼女が傷ついた時どこに行くのかも...


俺は、ある場所に向けて、ただ走り続けた。








〜〜〜〜〜


「ハァ、ハァ....着いた。」


俺は、今は使われていない体育館についている、用具をしまう倉庫の扉の前に来ていた。



...真凛は泣く時、人に見られるのを嫌う。彼女は、泣いてる顔がブサイクだからと言っていたが、きっと違う。


彼女は優しい女の子だ。その顔を見せることで、迷惑をかけたくないから、心配をさせたくないから1人で泣くのだろう。


そんな彼女だからこそ、きっとここにいる。


「ふぅ...」


深呼吸をして、荒々しい呼吸と気持ちを整える。今、真凛は俺の顔を見たくないかもしれない。もう、俺の事を嫌ってしまったかもしれない。それでも、俺はこの扉の向こうへ行かないといけない。


レールが錆びていて、重いはずの扉を、思いっきりバッと開けた。


「真凛!」


そう言いながら、中を見渡す。

そして、薄暗い倉庫の中に立っている後ろ姿の人を見つけた。


...このシルエットは間違いなく真凛だ。


勇気を出して、俺は彼女に声をかけた。


「真凛、悪かった。俺、また悪ふざけであんなこと言って...本当はあんなこと思ってないはずなのに...ごめん。」


「....」


真凛は、俺の謝罪に対しての許しの声も怒りの声も上げなかった。ただ、黙り続けていた。でも、俺は見逃さなかった。彼女の肩が少し動いた事を...


ちゃんと、俺の声は真凛に届いている。

なら、俺は彼女が口を開くのを待つだけだ。


しばらくの沈黙が続く。緊張が走る。


どのくらい待っただろうか。

やっと、真凜が沈黙を破った。


「...私のこと、嫌なんじゃないの?嫌いんなんじゃないの?」


彼女の声は、か細くて、弱々しくて、いつもの声とは真逆だった。そんな状況にさせてしまったのだと思うと、俺の心がギュッと締め付けられた。


「そんなことない!俺が、お前に今まで何度感謝してきたか分からないくらい、マリンには世話になってる!」


なるべく俺の気持ちが伝わるように、声を大きく、強くした。


「...本当に?」


彼女の声に少し、元気が戻ったように感じた。


(後一息!)

そう思った俺は、どう答えたら真凜が元氣になるかを必死に考えながら答えた。


「あぁ、本当だ!俺は、お前を嫌いだって思ったことは一回もない!」 


俺の言葉は全て、偽りひとつない本物だった。ここで嘘をつくほど、俺は落ちぶれてないのだ。


俺の、励ましに反応して、真凜が振り向いてくれた。その事に一瞬喜んだが、彼女がまだ目を覆っているのを見て、自分がやったことの重さを再び痛感した。


真凛は、目を腕で覆ったまま、俺に問う。


「じゃあ...私のこと、好き?」


俺は、元気を持ってもらう事に必死で、遥の質問を深く考えなかった。だから...


「あぁ!俺は真凛のことが好きだ!大好きだ!....ぁレ?俺は今何を....」


恥ずかしいことを堂々と言ってしまった。そして、言った瞬間に、自分がヤバい発言をしてしまった事に気づいてしまった。


(ヤバい、バレた....こんな形でバレるくらいなら、ちゃんと告白しとけばよかった...)


恥ずかしすぎて死にそうになるが、顔を叩いてなんとか耐えた。そして、真凛が泣き止んだかどうかを確認するために彼女の顔を見た。そして、俺はびっくりする事になる。 


「....フフフ、アッハハハハハ!」


なんと、彼女は、泣いてなどいなくて、かわいらしい笑顔で大笑いをしていたのだ。目の下にも、涙のあとがない。


この謎の状況に、俺の頭の中には「?」が大量発生した。困惑している俺を見て、真凛はしてやったりと言う顔をしながら嬉しそうな声で説明してきた。


「私、今日の朝に薫にやられた事がまだ許せてなかったの。


何か仕返しできないかなぁって思ったら、あなたが騒ぎ始めて...内容も大きな声だったから聞こえたわ!


それで、コレは使えるって思ったの!それで、薫が謝るのに必死になるように誘導して、油断したところで朝やられた事を仕返ししてやったって訳!


どう!参った!?」


俺は、説明を受けてなお、納得がいかなかった。そのおかげで、頭の中は今現在も安心やら混乱やらで混沌としていた。


「お前、泣いてたんじゃ....」


「涙を流すくらい、誰でも気軽にできるでしょう?」


俺が、力の抜けた声で質問をすると、彼女は自分がしたことがみんな当たり前にできるかのように答えてきた。もしかしたら、俺の幼馴染は女優の才能があるのかもしれない...


とりあえず、真凜が傷ついてなかったと分かり、ホッとした。そして、気持ちが落ち着いていくのに反比例して、恥ずかしさが込み上げてきた。


「お前の仕返しのせいで、俺、ヤバい事言っちまったじゃねぇか!ふざけんな!」


こうなったのは完全に俺が悪いのだが、そんなの関係ない。恥ずかしい目に遭ったのだから文句のひとつやふたつ言ってもいいはずだ。


俺が、若干半ギレになりながら文句を言うと、真凛は首を傾げながらこう言った。


「恥ずかしいこと?そんなもの、何か言ったかしら?」


その一言に、落ち着きを取り戻していた俺の頭が、再びパニックになった。


(え?俺の好き宣言って恥ずかしくない事判定なの?そんな訳ないよね?まさか聞かれてなかったのか?あんな大きな声で言ったのに?)


頭で、色々な可能性がぐるぐると回り、酔ってしまったかのような気持ち悪さに陥った。


「さあ、そろそろ戻るわよ!」


そんな俺を置いて、真凛は先に教室に向かってしまった。俺は、何が何だかわからないまま、30分くらい倉庫の中でボーッとしたせいで遅刻という事になった...





〜〜〜〜〜


あれから、真凛が俺の勢い告白のことに全く触れることがないまま、学校での時間が過ぎていった。


ふたりきりじゃないのが嫌なのかとも思ったが、下校の時も全く触れてこなかったため、俺の中では、聞かれてなかったと言う結論に至った。


「ハァ...俺の恥ずかしい気持ちを返せよ...」


俺は、自分のベッドに寝転がりながら、ここにいない彼女に向かって文句を言った。


いつもなら、家に帰ってきたら、速攻でゲームに取り掛かる。でも、今日はなんだかやる気が出なかった。だから、こうしてベッドで寝転がることにしたのだ。


(あー、こんな感じで、一生付き合えなかったらどうしよう。俺死んじゃうかも...)


ついついマイナスな事を考えてしまい、気持ちが沈む。このまま、スライムのように柔らかくなっていって溶けてしまえばいいのにとも思ってしまった。






ピコンッ






そんな時、急にスマホの通知音が鳴った。


(誰だ?親父か?)


自慢じゃないが、俺には連絡をしあうほどの友達はいない。唯一の親友である翔治は、現代人のはずなのに、スマホを持っていないため、連絡することがない。


だから、連絡が来たとすると、家族くらいしか想像できなかった。だから、通知を見た時に、表示されている名前を見て、驚きすぎで腰を抜かしてしまった。


『神里 真凛』


(え?えええ!?)


俺の頭の中がまたまた混乱した。今日だけで何度俺の頭がこんがらがったのかわからない。


テンパった後、10分間スマホと睨めっこしたが、不思議なことに状況に変化が見られなかったため、とりあえず、メッセージを見ることにした。


『今朝の件、了承するわ。仕方がないから付き合ってあげる。』


送られてきていたのは、その一件だけだった。


(え?やっぱり聞いてたんじゃん!しかも、俺付き合ってとは言ってないって!まぁ、付き合いたいとは思ってたけど!てか、気づいてたなら、一言くらい何か言ってくれてもいいじゃん!めんどくさいな!?)


そう一瞬思ったが、その考えは、すぐに取り消された。なぜなら...


ピコンッ


『...私も、薫のこと好きだったから...

 その、嬉し、かった....』





俺の彼女が見せてくれた「デレ」が最高に可愛かったから...


こうして、俺と真凛は付き合うことになったのだ。












ちなみに、俺は、デレメッセージが送られた瞬間にその画面をスクショした。


































  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る