落ちて尚もう羽ばたけぬ蝉は尚




 落ちてなおもう羽ばたけぬ蝉は尚


 季語全振りの俳句です。

 夏真っ盛りです。暑くなって久しいですが、僕の自宅周辺でも、狂おしい程までに蝉が大合唱しています。


 こないだ公園のベンチでタバコをふかしていたら、ベンチの影、足元で何やら蠢いていました。

 蝉でした。

 蝉は乾いた地面の上で仰向けで、文字通り虫の息でした。ですが、悲しいとか暗い気持ちにはなりませんでした。蝉は蝉なりに一生懸命に生きてやり尽くしたのであり、思いっきりやった結果、その物語の幕が閉じようとしているだけの事です。それはきっと、蝉なりのハッピーエンドなのだと思うのです。

 頑張ったんだね。偉いな。

 という気持ちが勝っていました。哀れみは、その蝉くんの誇り高い一生を冒涜する気がしました。

 で、散り際の蝉というものは、地面に仰向けになった状態で、たまにモゾモゾ脚を動かしてもがいたり、突然「ジジジッ!」と鳴いて、通行人を驚かせたりします。じっと観察していると、その蝉くんも、もがき、ジジッと鳴きました。勿論、彼はもう飛ぶことはできません。それでも尚、最後の最後まで蝉らしく命を燃やし尽くそうとしているのです。それはとても気高く尊いことだと思うので、これをなんとか俳句にしてみたいと思いました。


 季語は「蝉」です。

 今回は描写的な美を盛り込む余地がありませんでした。それでも少しでも本意が伝わるとしたら、とりあえずは上手くいったのだろうと思います。





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