18 歩の話

和樹は深く気にする方ではなく、中学で出会った時にカミングアウトしてからも普通にしていてくれたが、同性の恋愛について気にする人やあまり良くない反応をする人が居ることも十分分かっていた。

歩は別に隠していたいというつもりは無かったが、やはりこれから一緒にいる友人には変な目で見られたくないというのが本音だった。

少し迷って、でも隠す必要は無いと判断して、歩は2人にも話すことにした。


「俺の彼氏はね、麟太郎さんっていうの。今は会社員。25歳…だったかな?去年、先輩の紹介で出逢ったんだ。カッコ良くて、料理が上手で、なにより優しくて…俺には勿体無いくらい良い人だよ。昼休みに抜けて会いに行ったり、家が近いから学校帰りに時々マンションに寄ったりしてるんだ」

「そうだったんだ、知らなかった」

「誰かと付き合ったのは初めてなの?」


佑も拓馬も、意外にあっさりと歩の話を受け止めたようだった。

歩は内心驚きながらも、聞かれた質問に答えていく。


「うん、そうだよ。女の人も可愛いって思うし、今までに別の男の人を好きになったこともある。同性でお付き合いできるなんて、正直、考えてなかったよ。でも、一緒にいると、やっぱり一番好きだなあって思うな。他の人はどうか分からないけど、好きなら性別は関係ないと思うんだ、俺は」


佑と拓馬の反応を心配していた歩は、引かれた訳では無いと知り、そっと胸を撫で下ろした。

それどころか、返ってきたのは理解を示してくれる反応でまた驚く。


「いいなあ…そこまで人を好きになったことが無いから、俺はちょっと羨ましいな」

「まぁ、俺だって佑だってカズだって、今後どんな恋愛するかなんて分かんないしさ?そこんとこは個人の自由なんじゃねーかな?いーなぁ、幸せそうじゃんよーっ」


そんな事ないよ?と言いながら嬉しそうな歩。

中学ではいじめられ、高校では浮かないようにとずっとひた隠しにしてきた。

前の大学で麟太郎に出会うまでも、慎重に自分のことを話す相手を選んで、それでも時に軽蔑されたり縁を切られたりしたのも事実で…これまでカミングアウトした時には、あまり良い経験はしてきていなかった。


「良かったな、歩」

「うん。2人に話して良かったよ。正直、どんな反応が返ってくるか怖かったから」

「俺達は歩の人格を否定するようなことはしないよ」

「そ。昔はどうだったか分かんないけど、そこは俺達を信頼してくれてもいいかな」

「ふふ、ありがとう」


中学からずっと一緒にいた和樹も、歩のこれまでの苦悩をよく分かっていた。

だからこそ、ここで今2人に理解を示してもらえたことがとても嬉しくて、本当に出逢えて良かったと思ったのだった。

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