中川兄弟と生徒会会長5

レストランを出てロビーで車が迎に来るのを待っている時、浩が聞いてきた。


 「嬉しそうだな、そんなに美味かったかきよ」


 「うん、とっても美味しかったよ!ミスター夢見野、玲那さん、今日がこのようなお食事に誘っていただきありがとうございます」


 深々と頭を下げてお礼を言った。ここまでしなければ、こんな美味しい料理を食べさせていただいたのに、申し訳ない。


 「おいおいきよ、俺にはお礼は言わないのか?」


 「ひろちゃんが連れてきたわけではないでしょ!」


 ここに連れて来てくれたのは浩ではなく玲那さんなので、浩にはお礼は言わない。


 「お礼なんていいんだよ。私のほうが澄君に会いたいと玲に言って会わせてもらったのだから、私のほうがお礼を言わなければならない。ありがとう」


 頭を下げられた。

 基本自分が頭を下げる立場なので、こうして誰かに、特に自分よりも年上の人に頭を下げられるというのは、あまり慣れない。いいものだと思わなかった。

 まぁ、浩にならいくらでも頭を下げられてもどうも思わないけれど。


 「きーくん、ひろちゃん車が着いたわよ。さぁ車に乗って寮に帰りましょう?」


 僕達が話しているときに電話がかかって来たらしく、車を前に着けているらしい。

 僕と浩は玲那さんに強引に車の前まで背中をぐいぐいと押され、そのまま乗る事になった。


 「パパ、今日は楽しかったわありがとう」


 「私も楽しかったよ玲。澄君、また食事に誘ってもいいかな?」


 「もちろんです。今日は本当にありがとうございます」


 「じゃあなおっさん。また飲もうぜ」


 ミスター夢見野はこの後も仕事が入っているらしく、僕らを見送ってから仕事に行くと言う。

 アルコールが入っているので仕事に影響がないのかなと心配したが、浩と同様、まったく酔っていない様子なので、大丈夫だろうと思いながら、寮に向けて走り出す車の窓から僕らを見送るミスター夢見野の姿が見えなくなるまでずっと見ていた。


 「そういえばきよ、薬飲んだのか?まだだったら帰ってすぐに飲めよ」


 「うん、分かったよひろ」


 いつ何処で体の異常があるのかわからないのでいつも持ち歩きたくはないけれど持っているけれど、せっかく皆で楽しく食事をしているのに、その場で薬など飲みたいとは思わなかった。だから食べ終わっても後で寮に帰ってから飲めばいいと思い飲まなかった。

 「それはそうと、きーくんは体の事があるから寮に帰ってゆっくり休んでもらうけど、ひろちゃんは駄目よ。まだまだ終わっていない書類をいっぱい片付けてもらうんだから」


 「それなら僕も・・・・」


 「俺は別にいいが、お前はダメだ!無理してぶっ倒れたらどうするんだよ。ついこの間倒れたばかりだろうが」


 コツンと軽く拳骨を食らった。

 僕だってまだ入ったばかりだけど、生徒会の役員のはずなのに、浩は僕に仕事をさせたくないのだろうか。

 せっかく少しでも浩の役に立てるのならと思ったのに、言う前に止められてしまった。


 「あっでも、きーくんが寝るまでなら寮にいてもいいわよ。それぐらいなら寮にいる事を許してあげる」


 「きよの体をきー使ってくれるのはいいが、俺の体の心配も少しはしろよ。ここ数日まともに寝てねーんだぜ?」


 授業中ずっと寝ていたから、今はましだけど、今朝玲那さんに連れられて生徒会室に行ったとき、浩の目の下にすごいクマができていたのを覚えている。


 「どうぜ、きーくんと授業を受けに行ったとき、寝ていたのじゃないの?それならいいじゃない」


 なんでもお見通しのようで、浩の行動パターンをよく分かっている。


 「よくねーよ。たまには俺にも休みくれって言ってんだよ!」


 「い・や!絶対に嫌よ!そんなことしたら、私が楽できないでしょ?」


 生徒会には玲那さんが楽を出来るために浩という生徒会役員がいるのだとよく分かる。

 分かるけど、浩があきらかに疲れているのが見た目でも分かるので、ここは僕が出るしかない。


 「僕からもお願いします。今日だけ、今日だけでいいんです。ひろを休ませてもらえませんか?ひろに何かあると僕も嫌です」


 「・・・・・・・・・・そうよね。分かったわ。今日と明日の放課後までひろちゃんにはお休みを上げる。きーくんにはひろちゃんが必要だと思うから、ね?」


 暫く考えた結果、浩に休みがもらえた。


 「よかったねひろ」


 「ん・・・・ああ・・」


 浮かない顔をしていた。急に休みがもらえたので実感が持てないのだろうか。


 「これだけ言っておくわ。いくら休みが貰えたからって、ずっと寝ていたらダメよ。ちゃんときーくんと一緒にいるのよ。でなければ休みは返上してもらうから」


 「ありがとうございます玲那さん」


 「いいのよきーくん。きーくんのためを思ってしたことだもの。だからしっかりひろちゃんの手綱を握っておくのを私の代わりに」


 「わかりました。しっかり握っています」


 「おいきよ!」


 言われたからではないけれど、もう遅い。

 逃げないとは思うけれど、明日の放課後まで浩の手綱をしっかり握っている。絶対僕から逃がさない。


 「さて寮に着いたわよ。明日授業が終わったら生徒会室で会いましょう。それまでは自由よ」


 「今日は本当にありがとうございます」


 「いいえ、私こそありがとうきーくん。とっても楽しかったわ。それじゃあまた明日。おやすみなさーい」

 車から降りて、窓から僕たちに向けて投げキッスをする玲那さんを見送ってから、僕たちは寮の中に入っていった。


 「おっ、澄君。丁度いい所に帰って来た。君に電話だよ。イギリスから国際電話」


 ロビーに設置されている電話の前で志気君が受話器を持っていた。


 イギリスからの国際電話。


 掛けてくるとすれば母だろうと思い、志気君から受話器を貰った。


 「hello」


 てっきり母だと思い電話を出たら、電話の相手は伯父だった。


 電話の内容は、大事な用事があるから一度イギリスに帰ってきてほしいと言う事だったけれど、返事が出来なかった。

 せっかく日本に来れたと言うのに、まだ一週間も立っていないうちに一時的でもイギリスに帰らないといけないのは嫌だった。

 伯父はこっちの都合もあるだろうからということで二・三日したらまた電話をするといっていたけれど、正直迷っていた。


 「ねぇひろ、今から玲那さんの所に連れてって!」

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秘めた思いと繋がり しぎょく @sigi1173

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