再会4
このまま、眠りに落ちそうだった。
腕時計のアラームをセットしていてよかったとこれほど思ったことは無い。
暫く休んでいたのでどうにか動けそうだった。
重たい体を動かして、高等部と大学部の間にある食堂に向かった。
あまり人を待たせたくないと思い、少し早めにアラームを鳴らしていたが、既に寮長さんは先に来ていて席を取っていてくれていたみたいだった。
「あ・・あのー・・・遅くなってすいません・・・・」
「大丈夫だよファボット君。僕もついさっき来た所だから気にしないで。肝心の副寮長がまだ来ていないし」
元々人を待たせるのは好きじゃない。待たされるのは長時間でなければ一・二時間ぐらいならいくらでも待つ。それが僕のルール。反するのは嫌いだ。
「お腹すいていない?もし良かったら、先に注文しても大丈夫だよ?」
「いえ、大丈夫です。お気遣いありがとうございます」
人をさし置いて先に食事をするのは僕のマナーに反する。今は食欲が無くて、あまりお腹が減っていなくても、たとえいくらお腹が減っていても、人が来るまで待っているのが紳士というものだと教えられた。
「じゃあ、副寮長が来るまで、僕と何か、話をしていよう。何食べるか考えながら」
食欲がなくても少しでも何か食べないとこの先持たないだろう。
あっさりしたスープがあればと思うけれど、ここは男子寮。メニューを見るとガッツリした食べ物が多く今の僕には食べられそうなのはうどんやおそばぐらいだった。
「初めて会った時から思っていたんだけど、ファボット君って、背が高いね。何かスポーツでもしていたの?」
「いえ・・・特には・・・・」
昔、武道を少しだけたしなんでいた事はあったけれど、今はこれというものは何一つしていない。乗馬も少しだけできるけれど、馬に乗って歩くぐらいしか出来ない。
背が高いといわれても、170センチを少し過ぎるだけ。イギリスにいた頃でも、これが普通ぐらいだった。
「スタイルもいいから、何かしているかと思ったけれど、残念・・・・・あっ、来たかな?」
話しているうちに、副寮長さんにやって来たみたいだった。
キョロキョロと僕らを探しているみたいだったので、寮長さんが手を振って呼んでいた。
「もう、遅いよ。何していたの?」
「すまない雄姿・・・言われた時間に来ようとしたんだが、ちょっとした揉め事があって、止めていたら今になった」
遅れてやって来た副寮長さん。180センチ以上ありそうな身長をしていて、すごくかっこいいと思う人だけど、一目見たとき、どこかで会った事がある気がした。
思い出せない。
何処だったのだろう。こんな人一度あったら忘れないと思うけれど、よく思い出せない。
「それなら仕方がないね・・・・・それじゃあ、副寮長もそろった事だし、ファボット君、紹介するね。こちら、副寮長の見境志気。学年は僕より一つ下の二年生。志気、こちらが、さっき僕が言ったと思うけど・・・・・・どうしたの志気、急に考え込んだ顔をして」
僕の顔を見るなり、いきなり副寮長さんは手を顎の下に置き、ぶつぶつと難しい顔で考え込んでいた。
「し・・・志気?」
あまりにも真剣な顔をしていて、寮長さんも、何を言えば良いのか分からないみたいだ。
「ふぁぼっと・・・・・ふぁぼっと・・・・ファボット?ああ!思い出した!リュッセル君だ。確か、リュッセル・澄・ファボット!」
さっきまでぶつぶつと何か言っていたと思えば、いきなり僕の名前をフルネームで呼ばれた。
「え・・・・あ・・・・・はい」
とっさに返事をしてしまった。
「さっき何処かで見たことがある顔だと思って考えていたら、やっぱりリュッセル君だったよ。良かったー間違っていたらどうしようかと思ったよ。あースッキリした!」
寮長や副寮長は寮生の名簿を持っていて僕の名前は知っているかと思うけれど、初対面の人にファーストネームで呼ばれるのはどうかと思う。
「その顔からすると、覚えていないのかな?二年前だったかな?何度かあっているはずなんだけど・・・・・」
二年前?
二年前って言うと・・・・・。
「あっ・・・・」
思い出した。
言われるまで気が付かなかったけれど、確かに僕は二年前にこの人と合っている。それも、日本ではなく、イギリスで。
「その様子だと思い出してくれたかな?」
「あ・・・はい・・・・すいません・・・僕・・・・」
「いいよ、誤らなくて。俺だって会ったときに気づかなかったんだからお互い様。それよりも、念願の日本に来る事ができたんだね。おめでとう」
「あ・・・ありがとうございます」
照れくさかった。
この人は僕の事情を知っている。以前僕が色々と知っていて欲しくて話したからだ。
「あ・・・・・あのー・・・お取り込み中いいかな?なんだか二人仲良く話しているけれど、二人は知り合いなの?」
見ている側からすると意味が分からないだろう。
顔合わせのつもりで食事に誘われて、いざ会うと、知り合いだったのだから。
「ああ、すまない雄姿。うっかりお前のこと忘れていた。それよりも、先に何か頼まないか?見た感じまだ頼んでなさそうだからよ・・・・俺腹減ってんだよ・・・話はそれからでいいだろ?」
グーっとお腹がなったのが聞こえた。
寮長はその音を聞いて、笑いながら「いいよ」と言っていた。
この二人中が良さそうだ。寮長と副寮長という関係ではなく、とっても仲のいい友人に見えた。
まずは僕らの事を話する前に食事をしようということになったので、料理を注文する事にした。
昼食を取っていないから分からないけれど、寮の食堂は基本学食と同じシステムになっているらしく、食券を発行してから注文する事になっているらしい。
ただ、違うのは、有料になっているか、無料になっているかということみたいだけど、寮生は学生証とは別の食券カードと呼ばれるICチップ付きのカードがあれば、食堂も学食も無料になっているらしい。
料理を注文してから、席に戻り、食事をしながら、僕らの事を簡単に話すことにした。
「お前、俺の親が経営している会社の事知っているよな?」
「え・・・うん。確か、外資系の会社だったよね?でも、それとファボット君のことがどう関係あるの?」
それだけでは僕とどういう関係があるのか分からない。
「招待されたんです。ミスター志気のお父様が主催されるパーティーに。そこで僕とミスター志気が出会ったんです」
母の父である僕の祖父は、イギリス国内でも有名な資産家で、今は引退して、母のお兄さんが後を祖父に代わって引き継いでいるが、母も母で幾つか子会社を任されている。
ある日、日本からイギリスに進出してきた企業があって、それを記念したパーティーが開かれる為、そのパーティーに祖父と伯父が招待された。
しかし、祖父の後を継いだ伯父は仕事が忙しく、パーティーに出席する事が出来ず、代わりに母が行く事になっていたのだけれど、母も急に抜ける事が出来ない仕事が入ったらしく、急遽僕が同行する事になった。
こういった事はあまり珍しいことではなかった。
どうせ、伯父がパーティーに出席できたとしても、結局僕は来る事になっていたと思う。
祖父も伯父も日本語が一切話すことが出来ない。
日本の企業に関する事になると、母はもちろん、母が無理な時は大抵僕が呼び出されることになっていて、よく通訳をされられていた。
確か会社に、日本語が話せる社員がいたと思うけれど、祖父と伯父いわく、片言で役に立たないという。それだったら、通訳を呼べばいいと思うけれど、身近に話せる人がいるのだからということで、いつも僕が借り出される。
だから、そのパーティーに出席するために、通訳として当然のように僕が行く事になり、その時に僕達が出会った。
僕たちは年も近い事から、何かと仲良くなり、色々相談してもらっていた。その時に、僕が日本に行きたいという事を相談した覚えがあった。
「そういうことだったんだ、それじゃあ志気がファボット君の事知っているはずだよね・・・・・・ということは、ファボット君って金持ちのお坊ちゃんだったんだね」
簡単な経緯を話しただけだった。それでも僕とミスター志気の関係を分かってもらえた。
「でも、気になるんだけど、ファボット君って、志気のことをどうしてミスター志気って呼んでいるの?」
「それは・・・癖かも知れません。ミスター志気に限らず、祖父や伯父の仕事の関係上、目上の方に会うことが多くて、そう呼ぶようにと教えられたため・・・・ミスター志気にも普通に名前を呼んでくれと何度も言われたのですが・・・・・」
直らなかった。
ミスター志気がイギリスで滞在している間、僕たちは家のことがあるので、できる限り会っていた。
そして、ミスター志気に会うたびに普通に名前を呼んでと言われていたけど、何度も直そうと努力した。でも、どうしても直すことが出来ず、結局ミスター志気が折れて、そのまま突き通す事になった。
「リュッセル君・・・いや、こっちではミドルネームである澄君呼んだほうがいいか?出来ればいいんだ、出来れば学園ないでは俺のこと志気って呼んでくれないか?」
僕は、ファーストネームでも、ミドルネームでもどちらの名前を呼んでくれても構わないけれど、ミスター志気はそうじゃない。
今の僕にとってミスター志気は先輩と後輩の立場、いつまでも家の関係上とは言えない。
そう簡単には直せないと思うけれど、頑張って呼んでみることにした。
「み・・・・志気・・・・・君」
危うく、ミスターと付けそうになった。
初めて言った。
とても恥ずかしかった。恥ずかしかったけれど、初めてちゃんと名前を呼ばれて嬉しかったのだろうか、嬉しいけれど、照れくさいという顔をしていた。
「志気、嬉しそうだね。久しぶりだな、そんな志気の顔を見るのって・・・」
二人は幼馴染か何かなのだろうか。
お互い学年が違うのに、普通に名前で呼び合っている。
「ん?どうしたのファボット君。あまり進んでいないようだけど・・・・」
既に二人は食べ終わっていた。それに比べ、僕は全然手を付けていない。
「いや・・・あのー・・・・・」
気分が悪い。
少しでも食べなければならないと思い、うどんを頼んだけれど、食べられない。体が受け付けてくれない。
「大丈夫か?顔色悪いぞ。また倒れる・・・・って、おい、澄君、きよし・・・」
意識が少しずつ遠のいていく。
多分倒れる。倒れたら、もう絶対に起き上がれない。
折角ここまで頑張ったのに、倒れたくない。と思ったのに、遅かった。
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