再会5

目が覚めると、見慣れない天井が見えた。

 ここは何処だろうと一瞬思ったけれど、よく考えてみれば、ここは寮の一室。僕の部屋だった。


 「志気・・・・ファボット君、大丈夫なの?言われるがまま部屋に運んだのはいいけれど、病院に連れていかなくてもいいの?」


 話し声が聞こえる。


 「必要ない。前にもこんな事があったから大丈夫だ」


 「そう・・・それならいいんだけど・・・・・あっ、目が覚めた?大丈夫?倒れた事覚えている?」


 首を横に振った。

 食堂で食事を摂りながら話しているときに、急に意識が遠のいたことまでは覚えているけど、そこからまったく覚えていない。


 「大丈夫か?何か欲しいものあるか?」


 「み・・・みず・・・・水が、欲しいです」


 僕が目覚めるまでずっといてくれたのだろうか。


 「いつからだ?いつからしんどいと感じていた?」


 ゆっくり体を起して、渡された水を貰い、一口飲んだ。


 「・・・・この・・・寮に来てから、少し・・・して・・・・」


 隠し事は出来なかった。


 「そ・・・それって、僕に会う前、会った後?」


 「前・・・・です」


 「どうして、先に言っておかなかったんだ?食欲もなかったんだろ?」


 言ってしまえば迷惑が掛かると思って、黙っていた。

 でも、黙っていたことで志気君や、寮長さんに迷惑をかけてしまった。


 「まぁ、俺が知る限り、そういう事を言わないのが、澄君だけど、しんどいと思ったら遠慮なく俺たちに言えばいい」

 「は・・・・はい」


 志気君は知っている。

 実は僕が生まれつき体が弱い。

 何かあるたびに高熱を出して倒れる事が度々で、よく周りの人に迷惑をかけてしまうことも多々ある。

 志気君もその迷惑をかけた一人だったりする。


 「ファボット君の体の事は、高等部から入寮者のことが書かれた書類にも書かれていたけれど、本当だったんだね。確か、学校を一ヶ月休んだのも体が原因だとか」


 まさにその通りだった。

 この学園に入るため、必死に受験勉強をした。

 毎日毎日寝る間を惜しんで頑張った。

 そして、頑張った結果、合格する事が出来た。

 合格が決まってから、入学の手続きをするため、母と日本に来て、全ての手続きを終え、後は入学式を待つだけだった。

 しかし、入学式を目前に控えた僕は、安心しきっていたのかもしれない。これまでの疲れが、一気に体に出て、入院することになってしまい、一ヶ月遅れての入学となり、今に至る。

 情けなかった。

 ようやく退院ができ、日本に来る事も出来たのに、また倒れる羽目になるとは、本当に情けなかった。


 「し・・・・志気・・・君。お願い、しても、いいかな?」


 「ん?なに?」


 「クローゼットの中に、イギリスから持ってきたバックがあるんだけど・・・」


 「薬か?わかった」


 どれ位自分が意識を失っていたのかは分からないけれど、倒れる前に比べて少し体は楽になっていた。

 いつもイギリスの病院で処方される常備薬があるので、それを飲んで、一晩眠ればずいぶん体は楽になると思う。


 「これで、いいか?」


 「うん、ありがとう・・・志気君」


 体が弱いだけに、定期的に数種類の薬を飲まなければならない。

 倒れると、その分普段は飲まなくてもいい薬も飲まなくてはならないので、あまり、気が進まないけれど、体の事があるので飲まないわけにはいかない。


 「すごい量だね志気。いつもこんな量を飲んでいるの?」


 「いつもではないです。調子がいいときは飲まなくてもいい薬が幾つかあります」


 「さて、そろそろ俺たちも部屋に戻るか。澄君。明日の朝、もう一度様子を見に来るけど、今日は何も考えずゆっくり寝なさい」


 「は・・・・・はい」


 「あと、寮管にはこの事を伝えておいたから、気にする事は無いよ。それともう一つ、澄君の荷物は、俺達がここに持ってきたから」


 見える範囲にはダンボールが無かった。多分、テレビのある場所にダンボールを置いてくれたのだろう。


 「ありがとうございます」


 何もかもしてくれて申し訳ないと思ったけれど、今の自分は何も出来ない。


 「それじゃあね、ファボット君。ゆっくり寝るんだよ!」


 二人は仲良く部屋を出て行った。

 本当に志気君がいてくれてよかったと思うけど、体の事を知っている志気君がいたから多分僕は安心して、倒れたのかも知れないと思ったけど、こんな事志気君には言えないと思った。

 明日の事は明日にならないと体調が分からない。今日は何も考えず、体の事を思いながら、ゆっくり寝ようと思っているうちに、薬が効いてきて、いつの間にか僕は眠ってしまっていた。

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