再会3

 ホームルームが終わり、放課後となった。

 寮の前まで女子達が案内をしてくれると言ってくれたので、名前を記入するだけの入寮届けだったので、急いで名前を書き、寮で今日、授業受けた事を復讐するため、朝、委員長に貰ったノートと、教科書を鞄に入れた。


 「もういいの?別に急がなくてもよかったのに・・・・じゃあ、寮まで一緒に行こう澄君」


 皆嬉しそうだった。

 寮は、学園内にあり、高等部と大学部の寮が一緒になっているらしく。その向かいに女子寮が建っているらしい。


 「あのー、聞いていいですか?」


 「なになに?何でも聞いて」


 「寮って遠いのですか?」


 「近いよ。ここからだと、歩いて五・六分って所かな?大学部のほうが少し寮に近いみたいだけど」


 この学園には幼等部、初等部、中等部には義務教育だからということで寮は無い。

 あるのは義務教育から外れている高等部と大学部のみとされていて、寮がある為、寮から近い場所に高等部と大学部が隣接して建てられているらしい。

 寮までは一本道、よほどの方向音痴で無い限り迷う事は心配ない。

 ほんのわずかな時間だけれど、寮に着くまでの間、女子たちと一杯話した。

 なんだ、女子たちもよく知らないけれど、寮には男子寮と女子寮に共通する伝説があったらしい。

 昔は、今と違って高等部と大学部の寮が分かれていたらしく、男子と女子が共有できる部屋(食堂と)があって、その上をまたぐように寮を管理する人が簡単に行き来することができるように渡り廊下を設置していたらしい。

 その時に、どうしてだか、管理人が使う渡り廊下でカップルが一定時間人に見られなければ、永遠に別れないという伝説が出来たらしい。反対に見られてしまうと絶対に分かれるという伝説もあるらしいが、そんな事が相次いであったため、男子は男子、女子は女子ときっぱり区切りを付けられ別々になったらしい。


 「着いたよ澄君。えっと、いま、私たちから向かって、右手が男子寮。左手が女子寮ね。確か、男子寮を正面にすると右が大学部で左が高等部だったかな?」


 「ありがとうございます。えーっと、もしかして、あれが、今話していただいた渡り廊下ですか?」


 寮の正面に来て見ると、はっきりとその廊下が見えた。


 「あっ、うんそう。あれだよ。男子と女子の寮がきっぱり別れてかは、常に鍵が開いたままで、高等部と大学部の寮長がたまに行き来するぐらいしか使われていないみたいだけど・・・・それじゃあ、私たちはそろそろ帰るね」


 「今日は本当にありがとうございます。また明日会いましょう」


 「また明日ね」


 深々と感謝の気持ちで一礼をし、皆が見えなくなるまで見送ってから、ようやく寮の中に入った。

 寮の中に入ると高等部側の男子寮を管理する寮管さんが、僕をロビーで出迎えるため待っていてくれていたみたいだった。

 あと、僕が驚いたのは寮管さんだった。

てっきり男の人だとここにやってくるまで思って、いざ会ってみると、とても優しそうな女性の方で、落ち着いた雰囲気が漂っていた。

 寮管さんが女性のためか、ロビーには数種類の花が花瓶に飾られていて、女性ならではの演出だと僕は思った。

 入寮届けを寮管さんに渡してから、僕がこれから使う部屋に案内してもらった。


 「ここが、ファボット君が使う部屋ね。基本二人で一部屋になっています」


 案内された部屋。

 自分が思っていた以上に広い部屋だった。

 部屋にはトイレとシャワールームが完備されていて、それなりのホテルの一室を思わせる。

 もちろん、ベッドは二段ベッドではなく、両サイドの壁にプライベートを守るための仕切りが付けられていて、そのスペースにシングルサイズのベッドが置かれていて、机はもちろん、本棚やクローゼットも一つずつあった。


 「ファボット君の荷物、私の部屋に置いているから、急がなければ、後で取りにいらっしゃい。誰か必要だったら、遠慮なく言って。頼んであげる」


 「あ・・・ありがとう・・・ございます」


 「あっ、それと、ファボット君のベッドは左ね。右のベッドはネームプレートに名前が書かれていなくて、同室の子がいないかと思うけれど、一応いるにはいるの。あまりこの寮に戻ってこないから、気にしなくても大丈夫だから」


 荷物は入学式まえにある、入寮日にあわせて輸送していたのだけれど、入寮日になっても僕が来る事が出来なかったため、このままこの部屋に置いておくと盗難が発生する確率があるため寮管さんが預かっていてくれたらしい。


 「後で寮長が寮の規則とかを説明しに来ると思うから、それまでゆっくりしていて。暇だったら、寮内を他人の部屋に入らない限り散策していても大丈夫だから」


 そう言い残して寮管さんは行ってしまった。

 荷物は後で、寮管さんの言う通り、誰かに一緒に運んでもらったほうが、いいかもしれない。

 必要最低限のものしか送っていないので、それほど多くは無いけれど、服など入ったダンボールが幾つかあったはずなので一人全部運ぶのは厳しい。

 とりあえず、イギリスから来る時に持ってきていたバックの中から服を取り出して、制服から私服に着替えた。

 制服はハンガーに掛け、皺にならないようにクローゼットの中に入れ、まだ、着ていない服はベッド下に収納スペースがあるので、私服類はそこに入れることにした。

 寮長さんが来るまでの間、まだ、時間があるのなら、今あるものだけでも片付けようと思い、学生鞄の中から持って帰って来た教科書を全部取り出した。

 教科書以外に参考書や辞書があるので、結構な量があった。

 送ったダンボールの中の物を考えながら、置く場所を片付ける。

 教科書や参考書といった授業で使うものは机の棚に置き、毎日授業で使うことがない辞書は本棚のしたの方に置く事にした。


 「これでひとまず、終わり・・・・かな?」


 辺りを見回して確認をする。

 手元にあった物しか片付けることが出来なかったので、すぐに終わった。

 まだ、寮長さんは来ないのであれば貰ったノートを見ながら少し勉強をしようかと思ったけれど、急に疲れがドッと体に表れた。

 今日一日初登校とあって緊張して気を張っていたせいかも知れない。

 片付けをする前は疲れなど感じていなかったけれど、片付けが終わり、ここがこれから自分が住む場所だと感じた瞬間、安心して気が抜けたのだろう。立っていることがとてもつらくて、ベッドに腰掛ける事にした。


 「・・・・・はぁー・・・・・・」


 かなり疲れていると思う。座っているのもしんどかった。

 少しだけ横になろうかと思ったけれど、多分今横になると絶対に起き上がれる自信が無い。体がズシット鉛のように重たく、動かない。

 今、寮長さんが来ても、出られる自信が無い。

 どうしようと思っていたら、ノックの音が鳴ったので、動かない体を無理やり動かして、何も無い素振りで部屋のドアを開けた。

 ドアを開けると、小柄で、僕より少し背の低い男性が手にファイルを持って立っていた。

 多分この人が寮長さんなのだろうけど、そういう感じには見えなかった。


 「えーっと、君がリュッセル・澄・ファボット君かな?」


 「あ・・・はい、そうです」


 「初めまして。僕がこの高等部男子寮の寮長をしている三年の尾崎です。これから寮の規則など、説明していきたいと思っているけど、大丈夫かな?」


 「だ・・・大丈夫です」


 大丈夫ではない。

 でも、折角忙しい中、説明しに来ていただいているのに、僕の都合で曜日を改めてもらうのはすごく嫌だ。だから、無理してでも聞く。

 部屋の中に入ってもらい、仕切りと仕切りの間にテレビとテーブルあと、小さい冷蔵庫が置かれている場所があり、そこに座って説明を聞くことにした。


 「まず、これを渡しておくね。寮の規則を書いている重要な紙だから、なくさないように保管お願いします」


 「あ・・・・はい」


 寮の規則を書かれた紙。これを見ながら説明が始まった。

 大浴場の時間や食堂の時間、外出届けや外泊届けの事をさらっと説明された。

 大浴場は基本運動部の人が優先的に入るらしいが、部屋にシャワールームがあるので、使いたい人が時間内であれば上級生や下級生というのを関係なく使っていいらしい。

 食堂は高等部と大学部が共有して食事をする場所なので、大学部の人にたいして迷惑が掛からないようにということや、言葉遣いのことを、外出届や外泊届けは、寮長の判子を貰ってから寮管さんに渡さなければならないという事だった。


 「あのー、聞いていいですか?」


 「なに?僕に分かる事なら何でも答えるよ?」


 どうしても聞きたいと思っていた。僕と同室の人の事を。

 寮管さんはあまり寮に帰ってこないから気にしないで言いといっていたが、ずっと気になっていた。


 「僕と同室の人って、どんな人なんですか?寮管さんはあまり寮に帰って来ない人だということしか、言われなかったのですが・・・」


 「そ・・・・それは・・・・あのー・・・・えーっと・・・・」


 落ち着いた人だと思っていたけれど、僕が聞いたとたん目が泳いだ。

 とても困った様子だった。

 動揺しているようにも見えた。


 「・・・・・聞いては・・・・いけなかったようですね・・・すいません・・・」


 「あ・・・いや・・・そうじゃないんだファボット君。僕の口から直接、今は名前を言えないけれど、もし同室の人が帰ってきても、あまり関わらないほうがいいよ?とんでもない不良だといううわさがあって、気に入らない事があると教職員でも手が付けられないほど暴れるという問題児といううわさ・・・・だから・・」


 これ以上は聞けなかった。

 どうしてそんな人が僕と同室なのだろうと思ったけれど、部屋決めの際、正当な抽選で決まった結果だという。

 何かある前にどうにかしてくれるらしいけど、それまでは我慢して欲しいということだった。


 「ごめんねファボット君」


 「いえ、大丈夫ですから」


 怖いとは思うけれど、男が怖いと思っては駄目。

 何も無ければいいことだし、あまり戻ってくる事が無いという事なので、なるべく会わないように注意知れいればいいだけの事だ。

 こんな事を聞いても、実際に会ってみないと本当にそういう人なのかは分からないから、いつかは、会ってみたいと思ってしまった。


 「そうだファボット君。夕食一緒にどうかな?副寮長にも会ってもらいたいから」


 「そういうことでしたら、喜んでご一緒させていただきます」


 説明が終わり、部屋を出ようとする寮長さんが、僕を夕食に誘ってくれた。

 まだ会っていない副寮長の顔合わせ。

 寮長さんは小柄のためか、一見年上には見えなかったけれど、話している感じがとっても大人びていた。だから、副寮長さんはどんな人などだろうと思ったけど、寮長さんが部屋を出て行った瞬間、動かない体を無理に動かしていたため、限界が来たのだろう。

 見送った瞬間、その場で倒れこんでしまった。

 完全に体が動かない。

 ベッドに横になりたいけれど、ベッドに行く体力が既に無い。

 夕食までまだ時間がある。

食欲がまったくというほど無いけれど、折角誘っていただいたので、行かないわけにはいかない。暫く体力が少しでも回復するまでこの場でじっとしているしかなかった。

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