再会2

 裏庭に来たのはいいのだけれど、皆は何処にいるのだろう。

 噴水周りにはいなかったので、少し辺りを探してみる事にした。


 「みんな・・・どこにいるのかな・・・・・」


 「あっ、澄君だ。きよしくーん!こっちこっち!」


 僕が見つけるよりも、向こうが先に僕を見つけて、手を振って僕を呼んでくれた。


 「皆さん、こちらにいたのですね。すこし、探してしまいました」


 見つけにくい場所に皆はいた。

 噴水から少し離れた所に、辺り一面茂みに覆われた場所があり、その茂みを抜けると、ちょっとしたスペースがあった。

 広場と呼べるほど広くはないが、シートを広げて皆で昼食を取るのには丁度良い広さだった。


 「こんな所があったのですね・・・・気持ちいい・・」


 「でしょでしょ!つい最近私たちも見つけたの。ここなら、噴水から見ると丁度死角になっていて、人からは見えないし、こっちからはよく見えるから、丁度良いかなって」


 上を見上げると大きな木がこの場所を覆いかぶさっていて、丁度良い木陰が出来ていて、葉の隙間から日の光が優しく差し込んで、気持ちが良かった。


 「とても、良い場所ですね・・・・落ち着きます」


 こういった場所が好きだった。

 イギリスでも緑の多い場所に住んでいたので、緑に囲まれているととても落ち着く。

 「ねぇ澄君。さっきから思っていたんだけど、それって・・?」


 「これですか?これはですね・・・・」


 「にゅ・・・入寮届け?え?澄君、寮に入るの?」


 夢見ヶ丘学園高等部男子寮。全寮制ではなく、希望すれば誰でも入寮できるらしい。

 元々、入学式の三日前に寮に入る予定だったのだけれど、事情があって一ヶ月遅れて登校したために、入寮届けを出す事が出来なかった。

 寮に入ることは、前もって連絡を入れていたために、仮入寮状態で止まっていた。

 昨日は昨日で、夜遅く空港に着き、学園自体しまっていたため、ホテルに泊まることになったが、ようやく今日からはここの寮生になって、卒業するまで住む事になる。


 「実家はイギリスですので、仕方がありません。日本にいる親戚も縁を断ってしまっているので、頼る事もできません・・・ですから、寮に入ることにしたのです」


 縁を断ったのは父だけではない。父の親戚と呼べる全てに人たちに縁を断った。


 「一人暮らしをしようと思わなかったの?」


 「元々寮がある事を知っていたので、特に思わなかったですね。一人暮らしですと、学生の身では色々大変だと思うので、寮にいるほうがいいと思ったのです」


 一人は嫌だ。寂しいのが駄目で、一人で居るのも好きじゃない。


 「たしかにそう言われればそうかも・・・・私だって一人なんて無理。絶えられない」


 無理だと言う声が聞こえてくるけれど、他にも、片づけが出来ないとかなんだとかいうのが、ぼそぼそと聞こえてくる。

 そういえば、母も片付けや、料理が苦手だった。

 普段祖母が料理を作ってくれるけれど、母がたまに料理をするととても大胆で、豪快な味がしていた。

 女の人って、そういう人が多いのかと思っていたけれど、まさに、今の声を聞いてしまい、思ってしまった。


 「あっ、そろそろ、昼休み終わってしまいますね」


 ふと腕時計を見てみると、後数分でチャイムか鳴る時間になっていた。

 話していると時間が経つのはとても早い。


 「あっ、本当だ、急いで戻らなくちゃ。確か、午後の一発目の授業、体育だった気がする!」


 それを聞いたとたん皆がガシャガシャとお弁箱やシートを片付け始めた。


 「急いで急いで!」


 流石にお弁当箱を片付けるのは出来ないので、シートを畳む手伝いをし、皆で急いで教室へ戻り、荷物を置くとすぐ、慌てて女子たちは更衣室に走っていき、そして、僕も慌てて更衣室に走っていった。

 初めて入った更衣室。

 もっと狭い場所かと思ったけれど、シャワールームも奥に幾つか設置されていて、広々としていた。

 ロッカーはあらかじめ決められており、入り口の側に、一年から三年生が、利用しやすいように場所と名前を書かれた紙が張られていた。

 それを見てから自分の名前を書かれたロッカーの場所に行った。

 ロッカーは盗難防止のため、オートロック使用の鍵にされていた。

 昼休み、職員室で先生から渡された書類とは別に暗証番号の書かれた紙も一緒に渡された。

 この番号はあらゆる場所で必要だからとすぐ覚えるように言われたので、渡された時点で頭にたたきつけたが、こんなすぐに使うとは思っていなかった。

 覚えた八桁の暗証番号を押して、ロックを外し、ロッカーを開け、真新しい体操服を取り出した。

 一ヶ月学校を休んで、昨日イギリスから日本に着いたばかり。

 元々入学式に間に合うよう必要な荷物は寮に送っていたため、今、手元にあまり物がないが、教科書といった授業に関するものは別だった。

 一時間目の授業を受けるのに、教科書がなくては意味がないと思うだろうけど、そんな事はない。

 授業に関するものは全て、入学前に購入するのではなく、入学してから学園側から支給されるようになっていて、万が一僕みたいに長く休んでいた人でも、すぐ授業が受けられるようにされている。

 その為、問題なく授業が受けられる。実に今の僕にとって嬉しい事だった。

 これから体育の授業。

 着替えているうちに予鈴のチャイムが鳴ってしまったけれど、どうにか本鈴のチャイムが鳴る前にグランドに行く事が出来た。

 体育の授業は男女別。

 男がグラウンドで、女は体育館。

 たまに合同があるらしいが、今日ではない。

 事情があって、体育を見学しなければならないので見ているだけになる。

 先生もその事情は前もって言っているので、見ているだけでも出席扱いにしてくれるらしいが、その代わり、簡単なレポートを提出しなければならない。

 ただ、今日の男子の授業は野球らしく、対抗試合をするらしく、できる範囲でいいから飛んできたファールボールやホームランボールを拾って欲しいらしく、それをしたらレポートも免除してくれるらしい。

 それくらいなら、問題はないので、玉拾いに励む事にした。

 チームは出席番号の奇数と偶数に分かられた。

 どっちのチームにも入らない僕は、一生懸命飛んできたボールを拾っていた。

 授業が終わったことには、真新しかった体操服が真っ黒になっていた。それだけ僕は頑張っていたというなるのだろう。

 汚れた体操服は寮生ならば申請書を書けば寮側で洗濯をしてくれるらしい。

 更衣室に戻り、汚れた体操服から、制服に着替えて教室にもどり、よれよれと自分の席に行き、椅子に腰をかけた。


 「つ・・・つかれた・・・・」


 「お疲れ様、澄君。理由は聞かないけれど、体育見学だったんだってね、他の男子から聞いたよ。でも、先生から玉拾いさせられたんだって?大丈夫なの?」


 今度は集団でも、少人数でもなく、リーダー的存在の女性ではない別の女性がやって来た。


 「大丈夫です。ほんの少しだけ疲れただけなので、心配していただいてありがとうございます」


 思っていたより玉拾いが大変だったけれど、楽しかった。


 「もしよければこれ、どうぞ。私たちからの差し入れ。冷たいから、気持ちいいとおもうよ?」


 机の上に冷えた缶ジュースが置かれた。


 「いいのですか?」


 「うん、遠慮なく飲んで!その為に私が代表して持ってきたんだら!」


 多分じゃんけんでもしたのだろう。教室の端のほうで悔しそうな顔している女子達が何人かいるのが見える。


 「ありがとうございます。あちらにいる皆さんにもそう言ってください」


 「分かったわ、言っておくね。澄君がありがとうって言っていたって!」


 そういって早々と皆の所に戻っていった。

 貰った缶ジュース。値段なんて関係ない。皆が僕にくれるという気持ちが嬉しい。

 その気持ちを頂くために、遠慮はせずに飲ませていただくことにした。


 「・・・・・ぷはー・・・・冷たくて、おいしい・・・・」


 火照った体に冷たいジュースが染み渡り、冷やしてくれた。

 激しく運動をしたわけではないけど、体を動かしたためか、喉がかわいていたらしく、初めの一口を飲んだ後、一気に飲み干してしまった。

 ご馳走様と小さく言ってから、缶をゴミ箱に捨てたとき、丁度チャイムが鳴った。

 まだ、時間があるなら、一瞬忘れかけていたけれど、入寮届けを書こうと思ったけれど、放課後、寮に行く前に書くことにした。

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