閑話 クラリス③

 私は燻る衝動から、明日の試合まで我慢できずゲイルに会いに行ってしまった。


 しかし、そこには先約が居た。

 アヴェルだ。


 彼の意図は分からないが、二人は何やら話をするとどこかへ移動し始めた。


 私は悟られないよう後をついて行く。


 すると二人は街外れまでくると口論を始めた。


 と言うよりは一方的にアヴェルが怒鳴り散らしている感じだ。


 離れているので詳細までは聞き取れなかったが、アヴェルの張り上げた声には怒気が含まれていた。


 そして二人の喧嘩が始まった。


 が、喧嘩と呼べるような代物ではなく、ただ一方的にアヴェルがゲイルにのされただけ。


 彼は本当に何がしたかったのだろう。情けない、あなたなんかがゲイルに勝てるわけ無いのに。


 その後ゲイルは倒れたアヴェルを放置しその場を去った。


 本当は後を追いかけたかったけど、アヴェルの意図を確かめる必要があった。


 私は念の為、気絶しているアヴェルの手足を縛ると水をぶっかけ目を覚まさせた。


 そして尋ねた。

 私のゲイルに何をしようとしたのかを。


 アヴェルは悔しげに語った。

 私のためにゲイルに棄権させようとした事を。


 全く意味が分からなかった。

 なんでそんな余計な事をしようとしたのか。


 私とゲイルの逢瀬を邪魔しようなんて。

 もしかしてアヴェルは私の恋人になったつもりだろうか?

 もしそうだとしたら勘違いも甚だしい。


 私が愛しているのはゲイルだけだ。

 アヴェルを愛したことなんて一度もない。


 今まではそれなりに使えるから好きにさせていたけど、私とゲイルの邪魔をするつもりなら見逃せない。


 けれど彼には世話になったのも事実。

 だから私は彼にチャンスをあげることにした。


「ねえアヴェル。あなたは本当に私の事を愛しているの?」


「もっ勿論だ。俺はあんな薄情なゲイルなんかよりもずっと君の事を愛している」


「そう、だったら私のために死んでくれる?」


 そう本当に私を愛しているのなら命だって捧げてくれるはずだゲイルのように。


「はぁ? 何を言ってるんだクラリス。バカな事を言ってないでこの縄を解いてくれ」


「バカなことね……アナタが言う薄情な男は私の為に一度死んでくれたわよ、そして蘇って私に会いに来てくれた」


「何を言ってるんだ? あいつはお前に会いに来たわけじゃない。そんな事君だって分かっているはずだ……がはっ」


 余りにも酷い言いように我慢できずに足でアヴェルの腹を蹴飛ばしてしまった。


「お前さ、ちょっと抱かせてやっただけで調子に乗るなよ。お前がゲイルと同格で私に愛を囁く資格なんてあるわけ無いだろう。なあ、そもそもゲイルを生贄にしようと言い出したのはお前とネルソンだろうが、私はお前らに騙されただけなんだよ」


「ぐっ、それでもアイツを手に掛けたのは……」


「黙れよ」


 私はアヴェルの見苦しい言い訳に剣を突き刺し言葉を遮る。


「かはっ、がっ、ぐっ」


 口内を剣で刺され言葉にならない声を上げるアヴェル。


 本当に見苦しい。


「なあ、言葉通り愛してるなら死んでくれ。私の為にさ。そして本当に愛が本物なら蘇って来いよゲイルみたいに、愛の奇跡を体現してみせろよ。そしたらオマエの言葉を信じてやるよ」


「ぞっ、ん、なっ、ご」


 まだ見苦しく言葉を発しようとするアヴェルが余りにも浅ましく、これ以上相手をするのも煩わしくなる。


「……じゃあな。約束通り生き返ったら愛してやるよ」


 私は最後に手向けの言葉を添えて、もう見苦しく喋らないようにアヴェルの首を落とし、切り刻んでいた。

 



――――――――――――――――――――


読んで頂きありがとうございます。

評価をしていただいた方には感謝を。



こちらも終盤と言うことで

新作開始します。

自分なりに楽しく書けているので、そこそこ楽しめるのではないかと思います。


合わせて読んで頂けたら嬉しいです。


《タイトル》

『覇者転生 〜スローライフなにそれ美味しいの?』


https://kakuyomu.jp/works/16818093077307679991


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る