閑話 ニーナ②

 私は今リンガミルに居る。


 冒険者でもない女の一人旅でよく生きてここまで辿り着いたとも思う。


 それこそ、生きるために娼婦紛いなこともした。

 男の冒険者に媚を売り、街を渡り歩いた事もある。


 そしてダグザという街でようやく兄の名を耳にした。

 兄は冒険者になっていたらしい。ただ残念な事に私がダグザに着いた頃には街を離れていた。


 けれど情報は得た。

 兄はこの街では有名な剣聖の弟子となっていて、その姉弟子と一緒にリンガミルという街に向かったという有力な情報を。


 私は直ぐに資金をため後を追うことにした。


 けれどリンガミルに辿り着いた時。

 信じられない噂を耳にした。兄が痴情のもつれから失踪したと言うのだ。


 事情を聞くため冒険者ギルドに赴いたが関係者以外に詳細は伝えられないとすげなく断られた。

 私がゲイルの妹だと主張しても、それを証明出来る手段のない私は関係者とは認めてもらえなかった。


 それでも冒険者に近づき、色々と情報を集めた。


 そして、分かったこと。それはクラリスという女冒険者の存在。

 どうやら彼女がその痴情がらみの相手らしい。確かダグザでも聞いた名前だったのでもう少し調べてみると、ゲイルとはやはり姉弟子で恋仲だったと分かった。

 ただ痴情のもつれと噂されるくらいだから、兄とは別れたのだろう。もしかしたら行先くらいはそれとなく聞いているかもしれない。


 私は兄の痕跡を求めて彼女を探した。


 そして彼女を見つけた。

 綺麗な赤髪の女性を見て胸の奥がチクリと痛んだ。

 彼女が兄と並んだ姿を想像して……もう自分がその位置に立てないのは分かっているはずなのに。


 私はそんな恥知らずな思いをすぐに振り払い、彼女へ尋ねた。


「私の、兄のゲイルはどこに行ったのか」と。


 そして突然の私の質問に、彼女はありえないくらい取り乱した。

 慌てて隣にいた男が私を遮るように彼女を庇い、落ち着かせようとする。


 無駄に積み重ねてきた穢らわしい経験から、二人が直ぐに男女の仲だと気付いた。


 自分の事は棚に上げ、苛立ちからさらに大声で詰問する。


「兄のゲイルはどこだ」と。


 すると彼女は突然泣き始めると「ごめんなさい」と謝りだす。

 自体を収集できない男は、原因である私を威嚇し始める。


 街中にも関わらず剣を抜くと、去れと脅してきた。


 本気の殺気に私も怯み、その場は立ち去るしかなかった。


 でも、明らかに過剰に反応した二人は、とてもまともに思えなかった。


 そらから私はさらに二人の周りを調べた。

 女の色香を使い、冒険者たちから話も色々と聞いた。

 そして今は同じパーティのアヴェルという男と付き合っているらしい事も分かった。

 その前後で兄が失踪した事も、ただ良く調べてみれば不審な点が多すぎた。


 兄が失踪したはずなのに借りていた借家は解約されないままで、そこに同居していたクラリスは住んでいないのだ。


 あの過剰な反応と謝罪。


 最初は浮気をしていた事に対してかと思ったが、それにしては相手の男との距離が近すぎる。

 本当に後悔しているなら、浮気相手とは距離を取るはずだ。


 それにあの悲しみ方は……。


 嫌な予感が頭を過る。


 もしあの悲しみの涙が、本当に大切な人を失ったものだったとしたら?


 でも、迷宮の探索で亡くなったのならわざわざ失踪扱いにする必要はない。


 失踪扱いにしないといけない理由。


 私はクラリスが一人の時を狙ってもう一度接触した。彼女は私の顔を見ただけで怯えてしまう、そんな彼女に向かって私は告げた。


「ねえ、アナタ私の兄を……ゲイルを殺したでしょう」と、


 すると彼女は、鎌を掛けた私の言葉にわかり易いほど狼狽え目が泳ぐ。


「違う、違う」とくり返し、最後には「ゲイルも力になると認めてくれた」とわけのわからない事をほざき始めた。


 どうやら私の嫌な勘はあたっていたらしい。クラリスのあの姿で確証した。

 ただ証拠は無いので訴えたところで相手にされないだろう。


 なら……。


 私はアヴェルという男が来る前に彼女の前から姿を消した。


 胸に燃え上がっては復讐の炎。


 同族嫌悪というやつなのかもしれないけど、一度裏切った私だからこそ、あの裏切り者の女は許せなかった。


 それこそ、普通に殺すのなんて駄目なんて考える程に。

 そう、とことん後悔させて、絶望のどん底まで叩き落とした上で殺さなければ気がすまない。


 だから私は着実に準備を整える事にした。

 

 あの女が望む栄光。

 剣神の座を掛けた戦いが行われる剣神祭が行われるまでの三年という月日をじっと堪え続けながら。


 

 

 

――――――――――――――――――――


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続きを書くモチベーションにも繋がりますので

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