第17話

 リンガミルに来て三年が経っていた。


 迷宮攻略は一番進んでいる所で三十六階。


 クラリスは相変わらずイライラしている事が多い。ちょっとした事で喧嘩することも多くなった。


 そんなギクシャクしている時に迷宮でクラリスが遅れを取った。

 アヴェルのカバーが間に合わなかったのだ。

 幸い俺が間に入り事なきを得て軽傷で済んだ。


 その翌日、クラリスは浮かない表情のまま一人で出掛けた。どうやらアヴェルとネルソンに何か相談しているようだった。


 そして、その日の夜。

 久しぶりにお誘いを受けた。怖かったのかもしれない。そう思い、嫌なことを忘れさせる為にも体を重ねた。


 事が終わり、気だるい余韻にひたっていると、クラリスが悲しげに呟いた。


「ねえ、私って弱いよね」と。


 返す言葉が思い浮かべず言葉が詰まる。


 それは俺自身にも言える事だと感じていたからだ。

 もちろん剣の腕前などではない。


 それこそ剣の腕なら確実に上達している。


 そう俺達に足りないのは冒険者としての強さだ。


 剣の腕に頼り切っていた弊害でもある。


 多分一対一で戦ってクラリスに勝てる冒険者は殆どいないだろう。

 しかし対迷宮の魔物相手になると勝手が違う。


 スキルや連携、時には道具を使い、状況を利用しズルいやり方でも倒せればそれが正義なのだ。


 しかし剣の道においてそれは邪道。

 だからクラリスは今まで戦闘スキルや魔法具に頼らず自らの剣技だけで戦ってきた。


 でも、それが限界を迎えようとしている。


 剣士としての誇りを取るか、目的のために誇りを捨てるか。


 クラリスがずっと悩んでいたのはその事だった。


 俺はいたたまれなくなり、ぎゅっと強くクラリスを抱きしめる。


 クラリスはそれを黙って受け入れる。


 俺たちはその後言葉を交わすことなく、ただお互いを抱きしめたまま眠りについた。


 


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