第51話
その日の帰り道、とーるが心配だからとついてきた。
「実はね、今日は持ってきたんだ〜」
とーるが弾んだ声で言いながら出したのは、デジカメだった。ネックストラップを首にかける。馴染みのあるとーるの姿になんだかほっとしたのはいいが。
「珍しい。最近学校には全然持ってきてなかっただろう?」
「うん、それなんだけどね。春から色々考えて……写真部に入ろうかと思って」
どんな心境の変化があったのか知らないが、とーるの口からその言葉が出たことに驚いた。
とーるが補足する。
「別に、先輩たちに強要されたわけじゃないんだ。自分で決めたことなんだよ? 先輩たちは最近、よくしてくれるし……卒業写真のことも、本当の気持ちを教えてくれたから」
どうやら先輩方とは完全に和解したようだ。
「本当は今日、お試し入部ってことで一緒に写真を撮りに街を回る予定だったんだけど。友達の怪我が心配だからって」
「おいおい、せっかく仲良くなったんだから、俺よりそっちを優先させろよ」
言い返すと、とーるはちょっとむっとした表情になった。
「先輩たちは快く"また都合のいいときに"って言ってくれた。だから僕は遠慮なく、親友の方を優先させたんだけど?」
「え……」
驚く俺にとーるはしたり顔で言い放つ。
「親友って言ったのはうみくんのが先だよ? それとも嘘だった?」
……そんな寂しげな顔で問うなんてずるい。答えもわかっているくせに。
「んなわけねーだろ。ありがとな、親友」
そう言って坂道に曲がる。
長い長い坂道。とーると他愛のない話をしながらゆっくり登っていく。辺りの木々の色が黄色や赤に変わっていて、目に留まるたびにとーるは「見つけた」とシャッターを切っていた。
「そういや、お前、写真現像するようになったのか?」
「え」
「リンの絵、お前が花畑で撮った写真がモデルらしいな」
「ああ……」
ちょっと苦みのある笑みでとーるは俺に答える。
「うみくんが、写真を見せたら喜んでくれたから、園崎さんも喜ぶかなぁって。そろそろ踏ん切りをつけるのにはいい頃合いなのかも、と思ったし」
「そっか」
とーるの笑顔は何かを吹っ切ったような爽やかなものに変わる。
その笑顔は今まで見たどんなものよりも綺麗だった。だから写真を撮ろうとして、ふとある音が耳につく。やけに五月蝿い車のエンジン音。──近い。
後ろから、猛スピードでやってくる車。視認すると、やけに左寄せだ。歩道のないここでそれは、全く歩行者に配慮していない。
と言っている場合でもないようだ。こっちに突っ込んでくる。
「とーる!」
有無を言わせずとーるを林の方へ突き落とす。
バンッ
頭がガンガンする。いや、頭だけじゃない。全身が鋭く痛んで、直後に感覚がなくなった。
バンッ
二度目は衝撃しか感じなかった。
ブォオン、と呑気な音を立てて暴走車が去っていく。
ほとんど薄れた意識の中で、ぱしゃりという音が聞こえた気がする……
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