第30話
バスケ部の奴に紹介してもらったスポーツ用品店に向かう途中、電話がかかってきた。
珍しいと思い、ケータイを開くと、坂向こうの番号。見覚えはある気がするが、どこの番号だったか。
自転車の止め金をかしゃんと下ろして出てみる。
「もしもし」
「海道さまの携帯電話でよろしいでしょうか?」
「はい」
「こちら、花畑でございます。以前いらしていただいた際、チケットに関してお問い合わせをいただいたかと思うのですが、今、お時間よろしいですか?」
ああ、花畑か。半澤とも行きたいと思い、問い合わせていたのを忘れていた。それにしても、随分間が空いたな。
とりあえず、道端に自転車を寄せながら、どうぞ、と先を促す。
「チケット二枚のご予約とのことでしたが、閉園が決まってから、お求めの方が殺到いたしまして、閉園間際の夏の分しか、チケットが残っていないのです」
「あ、残ってはいるんですね。じゃあそれを」
「よろしいですか? 夏ですと、閉園に向けてほとんど花はございませんが……」
「一種類でも咲いているなら、充分嬉しいです」
花を撮る半澤の姿がよぎる。俺はあれが見たくて行くのだから。それに半澤は道端の花にも喜ぶ奴だ。一輪でも咲いていれば、それだけでもきっと楽しむ。
「ちなみに、その時期は何が咲いていますか?」
「申し訳ございません。現在、刈り取りの最中で、残っている品種の確認が追いついていないのです」
「そうですか。わかりました。チケットは具体的にいつ頃のものですか?」
「来月の半ばから月末にかけてのものになります」
「わかりました。では、今週の土曜あたりに伺います」
「承りました。では海道さま、下のお名前もお教えください」
「海道美好です」
「海道みよしさま、ですね。ありがとうございます。失礼致します」
ぷつりと通話が切れる。比較的丁寧な対応で新鮮だった。この当りの人はかなりフランクな人が多いから、もうちょっと違う応対かと思ったが。
来月の半ばから月末か。夏休みなのはいいが、半ばというと、墓参りがある。俺の方は自分でどうにかできるとして、半澤の都合を聞いておかなくては。
再び自転車を引いて歩き出す。からからから、と車輪の回る音がのんびり響いた。
人通りも車通りも少ないので、ひょいと跨がり、漕ぐ。少し汗ばんだ肌にそよそよと当たる風が気持ちよかった。
走りながら考える。来月の半ばから月末だと、確か、花畑自体は来月いっぱいで閉園のはずだから、あまり月末には来てほしくないはずだ。もう既に取り壊しの準備として花を刈り始めているようだし。
ただ、半ばはなぁ……墓参り、というと、半澤はきっと、父親のところに行くのだろう。うちは毎年十五日だが……って、よく考えたら俺、お盆の料理作んなきゃ。
まあ、花畑のことは土曜に行ってから考えよう。色々悩んでいるうちにスポーツ用品店に着いたから。
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