第29話
「すっげー、かいと。才能あんじゃね?」
「たまたまだよ」
「そのままバスケ部入っちゃえよ」
「断る」
「即答、ひでぇ」
一発入れただけのシュートを褒めるのに、周囲がわやわやとしていた。
「だってさ、結構手首に来てんぜ? ボール重いし。うん、まじ今手首いてーから」
「軟弱だなぁ。バスケのボールが持てなくて、何が持てるんだよ?」
「おいそこ。バスケのボールは他の球技から見て一番重い部類に入るぞ」
先輩からの鋭い指摘に、そいつが「そうでしたっけ? てへぺろ」などとおどける。若干周囲からの視線が冷たくなった。
俺はそんな横で静かに手首の柔軟運動。普段運動らしい運動はしていないから、速い動きについていくのは難しい。飛び交う用語も全くわからない。
「でもさ、まじでかいとバスケやんね? お前背ぇ高いし。運動神経だって、悪くねぇじゃんか。咄嗟のパスの反応速度もいいし」
「たまたまだよ」
「っつーか、なんで帰宅部なの? お前、意外と色々そつなくこなすじゃん。なんか一つ、極めたいこととかねーのかよ?」
「意外とって何だ」
けれど、考える。
確かに俺は何か一つに打ち込むなんてことはしない。それほど執着はないんだ。自転車は移動手段として便利だから乗っているし、写真は姉貴がむかつくからとか、俺が"できること"は惰性みたいな理由が多い。
それに何か一つに熱意を注ぐなんて、柄じゃない。
リンがよく言っているとおり、俺は"普通の男の子"なのだ。
「お前のそういうとこ、憎たらしいよな」
「何とでも言え。……ま、試合までならできることは手伝うから言ってくれ」
「……でも憎めないんだよなぁ」
「どっちだ」
矛盾した二言を並べるそいつにツッコみ、ふと、そいつの手首に目を留める。
そいつは両手にリストバンドをしていた。そういえば、スポーツをしている奴はよくよくリストバンドをしているが、何故だろう。
「そりゃ、手首の負担軽減さ。意外といいんだぜ? 正直、おれもバスケ始めた当初はボール重くて痛かったからな。でもリスバンすっと、意外と手首が固定されてさ。支えられてる? っつった方が正しいのかな。他も多分そんな理由だよ」
「手首の、負担軽減……」
ぱっと閃いた。
半澤の誕プレ、これにしよう。
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