第8話
半澤と別れて教室に向かう。扉を開けると、窓際にたまっていた女子が一斉に振り向いた。示し合わせたかのような動きに思わず一歩、後退りする。
「な、何?」
ドン引きのまま訊ねると、女子がキャーキャー騒ぎ始めた。訳がわからず、目を白黒させていると、そのうちの一人が声を上げる。
「かいとくん、今、さわくんといたでしょ!」
ちなみに"かいと"とは俺の渾名の一つである。それは別にいいのだが。
「さわくん? って誰」
「隣のクラスの半澤通くんだよー。ね、園崎さん」
女子のまた別な一人が答える。どうやら"さわくん"というのは半澤のことらしい。それなら確かに会っていたけれど、俺はそれよりも女子が確認した相手の名にぴくりと立ち止まる。
女子の中に、口元にほくろのある見慣れすぎた姿があった。リンだ。
「や、また会ったね。みーくん」
「お前の教室隣だろうに、なんでここにいんだよ?」
「ガールズトークよ。うちの教室、ほとんど人来てないんだもの。話し相手がいなきゃ、私、退屈で死んじゃうわ」
「兎じゃなかろうに」
ぼそっとツッコみ、俺は席に着く。とさりと鞄を置いた。中からビニール袋の擦れる音がして思い出す。がさごそと中をまさぐり、目的物を取った。
ん、とリンに差し出す。半澤に渡したのと同じカップケーキだ。リンがそっと受け取った。
「これは?」
「んー、材料余ったから、ついで」
「はい?」
「半澤に昨日世話になった礼に作った。で、余ったので、お前の分」
途端に周りの女子が騒ぎ出す。「キャー、結構脈アリじゃん」とか「さわくんへのお礼って? え、昨日さわくんと何かあったの?」とか「ってかついでとか余りとか酷っ」などと様々な言葉が飛び交う。五月蝿いし、正直放っておいてほしい。特に最後。
渡された当の本人は狐につままれたような顔でケーキを見つめていた。色々な意味でフォローを入れた方がいい気がしてきたので、言葉を次ぐ。
「腐れていようが縁は縁ってことだ。これからもヨロシクドーゾ」
言うと、リンは俺の顔を見上げ、ぷっと噴き出す。
「何故にカタコト?」
「人の顔見て笑うな」
「あははっ」
笑うなと言うのに完全無視のリン。けれどからかうときのような軽薄さはなく、どこか晴れやかに見えて、俺は虚を衝かれた。
「うん、ありがと。後でいただきます」
一つ微笑んでリンは去っていった。
途中までそれを見送っていたのだが、女子に絡まれ、やむなく視線を外した。
「ねぇ、私たちには?」
「そのちゃんだけ?」
「見送る眼差しが優しいねぇ」
「さわくんとはどうやって知り合ったの?」
「ええい、五月蝿い!」
まさしく蝿のように群がってくる女子を振り払い、俺は席に戻った。
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