第39話 アジト④スライムトイレの作り方

 その間にトイレだ。

 トイレは入ってすぐの天井のないスペースの横あたりがいいかと思うんだよね。個室っぽくするとかは年長組にやってもらおう。


 やはり、スライムトイレにしよう。スライム部屋までは風で運ぶかな。魔石で……あ、魔石は溜めた魔力がなくなると足さないと使えなくなるのだけど、その魔力を足すのが魔術師とか付与師しかできないんだよね。だから使えないかと思ったんだけど。そうだよ、スライム魔石を創造力で魔道具にしちゃえばいいんじゃない? そしたら永遠に使えるもんね。これもおばーちゃんの形見だ。そうだ、そうしよう。


 スライムの魔石のひとつに定義する。風の出る永久に使える魔石である。汚物をスライム部屋まで風で運ぶ。常にキレイで、どんな菌も繁殖できない、通り道だ。ニオイもしない掃除いらずの優れた通り道とすること! そしてスライムが作った堆肥は隣の堆肥部屋へ。


 ふう。次は土魔法だ。

 まず穴を開けて、下に掘って、エル字で道すじを作り、いくつか同じように作り、その先をスライム部屋とする。基本これでいいのかな。できたてほやほやの風の魔石を埋めておく。

 スライム部屋は、ほか方向からも入り口を作って。ここに入るの絶対嫌だけど、万が一はぐれちゃんが増えたり合体してしまった時のために出入り口をひとつ。そしてスライム部屋の隣に堆肥部屋。スライム部屋に土を入れて、そこにスライムと汚物があれば、良い堆肥を生み出してくれる。堆肥部屋は下の方でスライム部屋とつなげ、後は地上からの出入り口。盛り上がってきた土を畑に蒔けば、いい作物ができるだろう。よしっと。

 あ、寒い。土魔法はこんくらいにしておこう。さっき井戸の水をアイテムボックスの中に大量に入れておいてよかった。今日はもう魔法使うのはやめようっと。人が落ちないように足場の板をおいてもらおう。


 なんか疲れた。子供たちのごろ寝に混じり、わたしも少し休むことにした。

 そうして、マジ寝してしまった。



 起きたのは、年長組の子たちが帰ってきてガヤガヤしだしたからだ。


「なんだ? 何があったんだ? スッゲーキレーじゃん」


「クリスもベルンもメイもキレイくない?」


 ここのところ自分のペースだけで生きてたからな。わたしにしては今日は働いたので疲れてしまった。


「ランディがキレイにしてくれて、ご飯も作ってくれて。それで、ここはおれたちが掃除したんだ」 


 報告大会になっている。


「お前、食料、どうしたんだ?」


 トーマスに聞かれて、わたしはあくびをかみ殺した。


「説明するけどさ、それより前に、お疲れのところ悪いけど、みんなにちょっと手伝ってもらいたいんだけど」


「手伝うって、何を?」


 アルスが首をかしげる。


「まず、その小部屋の板っぱちを運び出してほしい。そこを台所にしたいんだ。それで、使えそうな板は、トイレじゃない、えーと、手洗いの仕切りや落ちないための足場の板にしてほしいのと。後、誰かはぐれスライム2匹とってこれないかな?」


 一気にいうと、説明が悪くみんなついてこれてなかった。


「ええと、だから」


 頭が働かない。一個一個みんなでやっていくしかないか。と諦めたら、トーマスがわたしに尋ねた。


「お前、手洗い作ったのか?」


「うん、穴掘って、スライム部屋と堆肥部屋までは作った。風が運んでいく。そこまでしかできてない」


「それで、はぐれスライムが2匹必要で、手洗いの足場と、いくつか作ったから仕切りとかがいるんだな?」


 まさにそうなので頷く。


「そのために、ここの板を運び出そうと?」


「ここは台所にするからスペースが欲しい」


「台所?」


 あ、こっちじゃ台所って言わないのか?


「ご飯作る場所にしたい」


 トーマスは少し怖い顔で小部屋に入っていく。顔をあげて天井の方をチェックする。


「お前がやったのか? 風の通り道ができてる。これなら火を使えるな」


 すごい、トーマス、よくわかったな。さすがボスだね。

 わたしが感心している間に、トーマスはチームを分けて、わたしがして欲しかったことを一気に片付ける算段をたてた。




 台所のスペースができたので、料理に取り掛かることにする。

 川原から持ってきた石でカマドを作り、ベルンに火をつけてもらう。わたしは誰も見ていないすきに、アイテムボックスからの井戸水をお鍋に入れた。お鍋でお湯を沸かす。


「お前、食料持ってて分けてくれたのか?」


 トーマスだった。


「小麦粉だけね。あとは現地調達だよ」


 下ごしらえしている材料をみて、なるほどと頷いている。お昼と同じスープを作る予定だ。ポポタンは湯がいてアクをとって、携帯食の干し肉と炒めるつもり。


「ありがとな。これ、少ないけど、これが俺たちの夕食になるパンだ」


 硬いコッペパンぐらいの大きさのパン。半分ずつでみんなに行き渡る感じだね。


「じゃあ、これもあっためて出すね。ありがとう。お皿とかお椀とかはどうしてたの?」


 一応、みんなの分のお皿とお椀とスプーンとフォークはあるみたいだ。年長の子の手作りらしい。

 ぽっかり空いた天井の穴から見える空が、夕暮れ色に染まったとき、はぐれスライム捕獲部隊が帰ってきた。ちゃんと捕まえられたらしい。凄い。


 トーマスはクリス、ベルン、メイの服にも気づいて、感謝された。


 トイレのことはなんとなく伝えただけで、トーマスは理解していたみたいなので、あとはもうトーマスにお任せ。わたしは料理を作るので手一杯だ。素人がいきなり17人分のご飯を作るのは、スープと炒め物だけとはいえハードルが高かった。そして今日はいろいろと動いたせいか、もうすでに眠い。さっきもちょっと眠ったのにな。


 ご飯は喜ばれ、トイレは即席とは思えないしっかり役割を果たすものが出来上がり、おネムとなったメイと一緒に早々に眠らせてもらった。後片付けもみんながかって出てくれた。わたしはメイと眠れる権利を獲得した。髪と瞳の色が同じだと思ったけど、トーマスとメイは兄妹だった。お兄ちゃんであるトーマスは自分以外とメイが眠るのは絶対に許さなかったので、これはもう本当に凄いことらしい。


 毛布マントを敷いて、あったかいメイをぎゅっとして眠る。周りはうるさかったのに、わたしは穏やかな気持ちで眠りについた。


 こうしてわたしのアジト滞在1日目は幕を閉じた。

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