第37話 アジト②繋ぐ命
わたしが背負えるぐらいのリュックなのに、中からいろいろ出てくるので気になるんだろう。上のふたりはリュックをいろんな方向から見ている。見てない隙に広がったりするのかと思いついたかのように、急に鋭く見たりしていて。なんかもの凄くかわいい生き物がいる!
「ベルン、火をつけて」
口元がふにょっと笑ってしまわないように気をつけながら、マツボックリに似た、火つけボックリに火をつけてもらう。薪にはなかなか火がつきにくいので、こういった長く燃えやすいものに最初に火をつけて、じわりと薪に火を移していくのだ。それを置いて、空気の道を塞がないよう気をつけながら薪を足しておく。お鍋を置いて、魔法で水を出す。
「わたしは水魔法が使えるんだ」
「お水を熱くしてどうするの?」
「君たちをキレイにする」
一拍間を置いて、クリスが言う。
「水浴び? 川で浴びるよ」
「寒いでしょ」
「メイだけはそうして。おれたちは大丈夫、な」
ベルンと肩を組み、そうされたベルンは頷いた。
クリスとベルンは服を脱ぎ始める。
マジか。5月ぐらいの陽気だ。暑い時もあるけれど、まだ水浴びを心地よく感じるには早いだろう。絶対、冷たい。言い出したのはわたしだけれど。
わたしは急いでもうひとつ焚き火の用意をする。体温め用だ。
火のついた薪をひとつ移動させる。
急いで石鹸とタオルを出した。それから服だ。わたしと同じぐらいの体格だから、予備の服が着られるだろう。
小さな頃の服もとってあるからメイも問題ない。
体を洗えといったのはわたしだが、夏でもないのに、川に飛び込むふたりを見て、申し訳ない気持ちになる。
わたしは石鹸とタオルを渡した。
手に持たされたまま、目をパチクリさせている。
泡だてて、使い方を教えた。
ふたりは冷たい、寒いと言いながらも、石鹸で体を洗い、石鹸を洗い流し川からあがってきた。
ふたりにそれぞれ乾いたタオルを渡す。
疑問の顔をしているので、体を拭くように教える。
そして一揃えの着替えを渡して、火にあたりながら、着替えるように言った。
お湯が沸いたので、メイを呼ぶ。
服を脱がせると、女の子だった。
わたしは桶に、沸騰したお湯と魔法で出した水を入れて温度を調節し、タオルを浸す。ジャバジャバのままメイの体を拭いていく。そして残り湯をジャバっとかける。桶にもう一度お湯と水を入れ、適温にして、石鹸を泡だてたタオルで、メイの体を洗っていく。タオルを洗うと、桶のお湯が濁った。何度も何度もお湯をかけてピカピカに磨き上げると、バラ色のほっぺをした可愛い子が現れた。
途中からお湯が間に合わなかったので、火と水の魔法の合わせ技でお湯にした。子供たちにはバレないよう、一応は気をつけた。
タオルでしっかりと水気を拭いて、わたしのお古ではあるけれど、服を着せる。
3人とももの凄くキレイになった。物理的に汚れてたんだね、うん。
さて、食事の準備にするか。
焚き火にあたっていた3人だが、わたしのやることに興味津々だ。
お鍋に水を入れ、新たにお湯を沸かす。
枯れた葦っぽい茎をナイフでとり、編み込み?結び編み?になるのか網を作ることにする。
「何してるの?」
「エビが獲れないかと思ってね」
網とか作る必要なかったからな。どうしたら作れるものかわからない。まぁ、適当に。思い浮かんだのがバスケットゴールの網だ。ああいう感じの網目があそこまで粗くなければいい。
20本ぐらいの葦を揃えて、上の方で一纏めに結ぶ。その下を大体の三等分して、それぞれ結び目から1センチぐらいあけてまた結び目を作る。それをさらに2等分して、隣の二等分と合わせて結び目を作る、を適当に繰り返す。途中から、増やした目をまとめていくようにして、ダイヤ型に。不器用なのでかなり網目が緩くなってしまう。そしてまた最後全てまとめて結び目を作る。そっから三つ編みにして持ち手のつもり。みっともない見かけだけど、こんなもんでしょ。獲れるかな。
わたしは即席網を持って川岸に立った。大きめの木皿も用意する。
川岸の少しえぐれたところを網でガサガサやると手ごたえがあった。手首の返しで角度をつけて上まで持ち上げると、エビが1匹。小さな川エビだ。
本当に獲れた。小さく感動する。小さい頃ザリガニを捕ったことはあるけど、エビは初めて。小説の一説で網でガサガサやって川エビを獲る描写があって、読んでからずっと、やってみたかったことのひとつだ。そしてその獲ったエビを食べるのもね!
よしよし、食材、ゲット!
クリスとベルンが食いついてきた。
「何これ、何? どうやったの?」
「エビってね、ほら壁っていうかえぐれているところわかる? ああいうところによくいるんだ。そこにこれをあてて、エビがこれに引っかかったら、ちょっと落ちないように角度をつけてそのまま上にあげるんだ」
葦の網を川の中には入れず空中でやって見せる。
二人はキラキラした目で頷いた。
最初はクリス。一度目は逃げられてしまい失敗したものの、次は一匹をゲットした。
ベルンも一度取り逃がしてからは、もう確実に取れるようになっている。
「取りすぎるといなくなっちゃうから、あと一匹ずつね」
ふたりは大きく頷いた。
エビはお皿に入れて置いて、ちょっとだけ川岸散策。
三つ葉もどきがあったので、少しいただく。クレソンもどきもみかけたので、確保しておく。
カマドのところに戻って、ジャガイモをよーく洗った。芽だけはナイフでとる。ジャガイモを一口大に切って、お湯の中に放り込む。
エビは塩で洗って滑りをとって、錬金釜でミンチにする。小さな川エビだから丸ごとだ。三つ葉を2センチぐらいの幅に切って、ミンチしたエビと塩を混ぜてお団子にする。これもお鍋に入れて。小麦粉を出して、水と練って、すいとんもどきにしてお鍋に入れる。
うちのすいとんはこれだったんだよね。おばあちゃんが作ってくれたやつ。小麦粉を練ったものをお鍋に落とす。本当のすいとんは他にも何か入れるみたいだし、形とかもちゃんとあるんだよね。本式は作ったことがないので知らないし、これでも十分美味しいからヨシとする。全部茹ったら、塩で味を整えて出来上がりだ。
3人ともお鍋から目を離せなくなっている。お椀が2個しかないので深皿も用意して、オタマでスープをよそう。スプーンとセットで渡すと誰かのお腹がグーッと鳴った。
「これ、ランディのでしょ?」
「みんなでエビとって、三つ葉もどきをメイがとってくれたよね? みんなのだよ」
「でも、そしたら、あの、みんなにあげていいかな? 夜ご飯でみんなで食べない?」
お腹空いているのに。みんなのことを考えるんだね。
「そうだね、夜もご飯を作ろう。場所はアジトで。お昼寝が終わったら、またみんなのご飯の材料を獲るのを手伝ってくれる? それから、アジトの掃除を手伝って欲しいんだ。手伝うには力がいるだろ? だからまず、ご飯食べよう」
3人がいいのかな?という顔をしている。
「いただきます」
手を合わせて、先にいただくことにする。そうしないと3人は食べにくいだろう。
「それ、なあに?」
「ん?」
おお、エビ団子うまい。素朴だけど味がいい。
「いただ? いただき?」
「ああ、ご飯を食べる前の感謝の言葉だよ。あなたたちの命をいただきます。わたしの糧にしますって言ったんだ」
「かてって?」
「わたしが思っているのは、活力にしますってことかな。動くための源」
「エビに?」
「エビだけじゃないよ。三つ葉もどきもジャガイモも小麦も生きているからね。その命をもらって命を繋いでいくんだ。あなたたちの命を大切にわたしの力にして生きます、感謝します、ありがとう、って思いを込めて、いただきますって言ってる」
おばあちゃんが繰り返し教えてくれた。人は命をもらって命を繋いでいくのだと。生かしてもらっているのだから、命をくれた食べ物に感謝を忘れてはいけない、と。粗末にしてはいけない、と。
「いただきます」
「いただき、ます?」
「いたらきます」
「召し上がれ」
返すと、3人は嬉しそうにスプーンを動かしだした。エビ団子が口に入ると、目が輝く。
「何、これ、すげーうまい!」
「ジャガモもこうやって食べるんだね。柔らかくて美味しい」
そういえば、ジャガイモを鑑定したらこちらではジャガモという名前で、そのままジャガイモだった。
「このヌルヌルしたのも好き」
メイはすいとんが気に入ったみたいだ。あっという間にお椀を空にする。
「おかわりは?」
と手を出すと
「いいの?」
と男の子ふたりが不安そうな顔をする。
「まだまだあるから、大丈夫だよ」
男の子たちは3杯おかわりをし、メイも一度おかわりをした。お腹がいっぱいになると、子どもらしい柔らかい表情を浮かべるようになった。
「本当は食べてすぐ寝るのは良くないけど、今日は特別。火のそばでちょっとお昼寝だよ」
水で体を洗って、体力消費させちゃっただろうからね。それに急にいっぱい食べてお腹がびっくりしているかも。モードさんが買ってくれた黄虎乗馬用の毛布マントを下に敷いて、子供たちをその上に寝かせ、一枚の毛布を横にかける。眠くないと言っていた3人だったけれど、少しごろごろしていると、すーっと寝息が聞こえてきた。
3人がお昼寝している間に、食器やお鍋の後片付けをして、子供たちがきていた服を洗う。何度すすいでも汚れた色の水が出る。布の繊維がびっくりするほどぺちゃんこだ。絞ってよく水を切り、石の上に服を広げる。物干しに干すとかしたいところだけど、その作業もそのための干竿作りなども、わたしがチビなので難しいのだ。
最後は魔法の風で乾かすから必要ないといえばそうなんだけど、最初だけなんとなく太陽と本物の風にあててしまう。
自分の穴の空いたズボンを繕う。大切に着ていたのに哀しい。
あとは夕飯用の材料をちょっと集めるか。子どもたちからそう離れない場所でわたしは食べられるものの鑑定をかけた。
いくつか見繕っておいて、風魔法で服を乾かし、バッグにしまう。
そして子どもたちを起こした。声をかけただけで、ぱちっと目を開けた。
「痛いとことか辛いとこない? 大丈夫?」
「お腹があったかくて、力が湧いてくる感じ!」
「おれも」
「メイも!」
そっか、なら良かった。
毛布とマントを風ではらって汚れを落とし、生活魔法でクリーンをかけてキレイにし、バッグにしまい込む。
「元気なら、みんなの夜ご飯の材料集めだよ」
「「「はーい」」」
3人は元気よく返事をした。
わたしは先頭を歩いて、たんぽぽこちらではポポタンを摘む。
「これは野草だよ。しっかりアクをとれば食べられる」
みんなにひとつずつ摘んでもらう。
あっちにいっぱいあるとメイが指をさす。
「食べる分だけ、分けてもらおう。一度に食べ尽くしちゃったら、もう増えないし、ずっと食べられなくなっちゃうから」
理由を教えれば、すぐに納得する。賢い子どもたちだ。
しっかりした網を作れれば魚も取れるはずだ。今日は無理だけど。
別の場所でエビと三つ葉をもう少しいただいて、アジトに帰ることにする。
火をしっかりと消して、きちんとくる前と同じ状態に戻すことも教える。
モードさんに教えてもらったことが、また違った街で、子供たちに伝わる。不思議な感じ。
メイと手を繋いでアジトに戻った。
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