第23話 冒険に必要なこと④ティア飯

 ふふふ。やってやれないことはない。『かなり美味しいポーション』完成しましたよ。


 ポーションは700Gで売られている。買値は400Gだそうだ。

 12個作ったから、4800Gです!

 あ、瓶の元は100Gで買い、瓶は正しくは12個使用だから12Gだけど、計算めんどーだから、100G引いちゃえ。薬草は自分で摘んできて、お水もタダだから、4700Gの利益です! 


 この世界でも十進法だったので助かった。この世界の通貨は、最小単位から

 1G 軽貨(1円みたいなアルミニウムっぽい軽い硬貨)

 10G青貨(5円玉ぐらいな大きさの青っぽい軽い硬貨)

 100G銅貨(10円玉ぐらいの大きさの銅色の硬貨)

 1000G 銀貨(100円玉ぐらいの大きさの銀色の硬貨)

 10000G 金貨(500円玉ぐらいの大きさの金色の硬貨)

 10万G 中金貨(500円玉より大きくて重たい金色の硬貨)

 100万G 大金貨(中金貨よりさらに大きくて重たい硬貨だそう。モードさんの手持ちになかったので見ていない)

 1000万G 金板(金でできた板版だそうだ)

 1億G 大金板(聞く限り板チョコサイズぐらいの重たい金板らしい)

 市場などでは100G 以下はだいたい切り捨てだそうだ。貧民街以外では使われないらしい。


 お店の人は銀貨4枚と銅貨8枚をわたしの掌に1枚ずつ数えながらおいてくれた。

 こちらの世界で初めて自分で稼いだお金だ。嬉しい!


「モードさん、お買い物に行こう!」


 わたしはモードさんの手を引っ張る。

 モードさんはニヤッと笑う。


「初めて稼いだ金で何買いたいんだ?」


「いろんな物!」


 まずはモードさんのマントだけどね。

 ステータスを見ていた時に、生活魔法だけどわたしがいろいろ持っていることを凄いっていうからさ、モードさんだってそうでしょって返したんだよね。

 目の色と髪の色を変えたり、キトラに乗っているときの防壁。凄い速さで走ったり。

 でも実はモードさんが持っている魔法は風と水とスキルだけなんだって。

 あとのは過保護な家族が持たせてくれた魔石や付与を活用していると。


 それを聞いて、わたしも付与のついた何かを初稼ぎでモードさんに贈ろうと決めていた。風と水はモードさんは持っているんだから、それ以外がいいよね。

 快適で過ごしやすくなるマントで、攻撃は跳ね返して。で、わたしにしかできない付与がいいかな。そうだ、ラッキーになるなんてのはどうだろう? モードさんは幸運いっぱいに過ごしてほしい。わたしが買えるものなんて、上位ランクの冒険者にはおもちゃみたいな安物になってしまうけれど、その分色々つけておくからね!


 まず、服屋でモードさんを外に待たせて、マントを買う。お店の人にモードさんをそっとみてもらって、マントのサイズを確認。マントだから大体の大きさで着られないってことはないと思うけれど、一応ね。シンプルだけど、濃い紺色のが素敵だったので、それを買った。3700Gなり。本当は4000Gだったんだけど、初稼ぎでプレゼントすると言ったら、心意気がいいと言って、まけてくれたのだ。

 待ってくれていたモードさんにお礼を言って、場所移動。


 塩を買っておきたい。あと、食材をみたい。

 塩はモードさんが買ってくれた。

 そうして流して歩いている時に、ひくっとわたしの鼻が反応した。

 この匂い。真っ黒の樽の中身。


「これ、味見させてもらえますか?」


「坊ちゃん、イースター語話せるのか?」


 わたしは曖昧に笑ってみせる。


 小皿にとった黒い液体を差し出してくれるから、小指にちょっとつけて舐めてみる。

 モードさんも同じように舐めて顔をしかめている。

 醤油だ! 醤油と出会えた! ソイジーというらしい。


「あ、これ欲しいです。いくらですか?」


 もう 大興奮だ。


「あと、味噌とかお米とかありますか?」


 商人さんは首を傾げた。

 そうだよね、そんな都合よく。って、あちらの甕にある、茶色い物体は


「これは?」


「それはハットンだよ」


「ハットン。これも味見ってできますか?」


 またまた小皿に出してくれたので、味見。味噌だ!

 いやー、素晴らしい。異世界、サイコー、ありがとう!


 砂糖は高かったので、手が出る高さのはちみつも購入。ってモードさんがね。

 だって、お金、全然足らなかったんだもん。

 鑑定をかけつつ、野菜も買って。元の世界と全く違う名前のものもあるし、どこかリンクしたような名前も、同じものもあった。


「あ、お米だ」


「あれは麦もどきだぞ。栄養価は高いらしいがまずいと言われるライズだ」


「モードさん、あれ、おいしいんだよ」


「いや、まずいだろ?」


「モードさん、信じて!」


 半笑いになってるモードさんに強引にお願いする。

 食べたいんだよ、お米。それと塩の味付け以外の食事が!


 

 宿の女将さんに使わない時間の台所をお借りした。


 自分が小さいことを忘れていた。かなりモードさんをこき使うことになってしまった。


 お米を炊くのはモードさんのお鍋を借りた。玄米だと水を吸わせる時間を長くしないとなので、今日は錬金釜で精米した。わたしのイメージのユルさ、かなり使えるね!


 ふふふ、わたしは土鍋でお米を炊くのが好きだ。なぜなら美味しく感じるから。

 昔は火加減とかが面倒で積極的には作らなかったけど、ある本との出会いでそれは変わった。その本は生き方を変えた女性の本で、ある時から冷蔵庫を捨てて生活をした話だった。冷蔵庫がないからシンプルな食生活になり、それがまた楽しくて美味しくてカラダが喜ぶというもので。流石に冷蔵庫を捨てることはできなかったけれど、感銘を受けた。

 そこにね、土鍋で炊くご飯が紹介されていたんだけど。それが目から鱗で。そんなんでいいの? それ失敗少なさそうとハードルが低くなり、土鍋で炊く回数が増えた。水の量を計測しないから、お米の量も好きなだけでいいのだ。そして火加減がめんどくさくないやり方なのだ。家の炊飯器は2合からしか炊けなかったので、余った分は冷凍ご飯にした。それはそれでいいんだけど、二人暮らしだとあまりがちで。できたら炊きたてが食べたくて。土鍋なら好きな量で炊ける! そしてポイントに気をつければ失敗はそうない。それらがわたしの中で評価が高かった。


 粗食本も好きだったし、薬膳の考え方も好きだし、逆方向の美味しいを追求する料理家さんや、お店もちさんや、凄すぎるブロガーさんのレシピ&考え方本も、結構読んだなー。すぐに、それってどんな風に美味しいんだろう?って気になっちゃって確かめたくてたまらなくなる性分なのだ。


 いつも自分で炊く時のように、お米を丁寧に洗って水を切る。お米は一番最初にお水を含ませた時にすっごい勢いで吸収するので、一番最初のゴミ、油とりのためのすすぎは手早くすることだけは気をつけた方がいい。


 その間に、モードさんにサイもどきのお肉をカットしてもらう。

 もやしもどきを洗って、モードさんにさっと茹でてもらい、ちょっと苦めの野菜を続けて茹でてもらう。

 お米をお鍋に入れて、水を適当に入れ、水を吸わせる。その間に宿のお鍋を借りてお味噌汁を作る。大根もどきとかぼちゃもどきをお水から煮る。出汁になるようなものはないけれど、野菜からも旨味が出るからね。干すとさらに旨味が出るって本にあったから、時間のある時にでも乾燥野菜も作ろう。


 お米を炊く直前に塩をひとつまみ。これはある薬膳家の陰陽の中庸に基づく考えで、わたしは全て聞きかじりだが気に入っていて実行している。あとお酒を入れるといいんだけど、炊きたてならどうやっても美味しいからなくてもいっか。カマドの薪に着火するふりで火魔法を使う。本物の薪を使うと、火がついてから均等な火加減にできるようになるまでに結構時間かかるからな。待ちきれないから今日は魔法で。


 お肉は少し臭みがあったので、残しておいたお米のとぎ汁で洗って水気を切り、塩を振って、さらに時間を置く。水分が出てきたら、丁寧に拭き取る。お米のとぎ汁って何にでも使えて万能だよね。お肉茹でたり、野菜を茹でたりにつかってもいいし、汚れものをとぎ汁につけておけば、洗い物はずっと楽になる。


 お米の様子を見て、あとは時間を気にするだけ。あ、時間がわからん。まずった。

 ま、なんとかなるか。


 お味噌汁の野菜が煮えたからこっちは火を止める。あとは直前に温めて味噌を溶けばいい。こっちは鍋敷きの上に移動してもらう、と。


 新しいお鍋にサイもどきのお肉の脂身を少しだけとって、先に鍋に落とす。いい音を立てて脂が溶ける。そこにお肉を滑らす。

 お肉が焦げてきそうでモードさんがハラハラしている。

 ちょっと焦がすぐらいの方が美味しいから、触らずに我慢。完全に火が通る直前に、やっと裏返す。

 これも台座に乗ってだと危なかったのでモードさんにやってもらう。ひっくり返したら蓋をして火を弱くして2分ぐらい待つ。


 あ、ご飯はそろそろいいかな。お米のいい匂いがしてきたので、火を止める。あとは蒸らせば炊き上がりだ。


 お肉の蓋を開け、お醤油と蜂蜜で味付けする。甘じょっぱいタレが煮詰まって、お肉を輝かせて、たまらん光景になっている。

 お味噌汁をもう一度温めて、味噌を溶く。いい匂い。

 隣でモードさんが喉を鳴らした。


 はーい、ご飯オープン。

 ちょうどよかったみたい。お米がキラキラしている。


「これが麦もどきか? 嘘みたいだ。俺が知っているのと全然違うぞ」


 ふふふ。ご飯の国の人だからね。お米はおいしくいただくよ!

 大きな深めのお皿にご飯をよそって、ご飯の上に苦めの野菜と、もやしもどきを敷き詰める。

 お肉を散らしておたまでタレを追加してかける。ご飯にも染み込むはず。

 お味噌汁をよそって、魔物丼とお味噌汁の完成だ。


 席について「召し上がれ」と声をかける。

 モードさんは一度口に入れると、すっごい勢いで完食してくれた。


「ティア、なんだコレ、めちゃくちゃおいしいじゃんか!」


 わたしも美味しかったです。米、味噌、醤油、素晴らしいです!


 ああ、これで、さらにワサビと酢があったらな。ご飯と甘辛お肉と野菜のコラボもたまらんが、すし飯、ワサビ醤油お肉、野菜の組み合わせも大好きなのだ。モードさんに是非とも食べてもらいたい! 新鮮なお魚があったら刺身、お寿司! 生のお魚はハードル高いかな? 


 ああ、考えているだけで、楽しい。食べることは幸せだ!

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