第22話 冒険に必要なこと③夢

 隣でモードさんが興味津々だ。今日は錬金術の日とすることにした。

 火を扱うので、宿の裏庭を借りている。


 わたしは洗ってきた薬草と水を錬金釜にぶちこんだ。


「お前、もうちょっと、こう、錬金術ってのは繊細なものじゃないのか?」


「あ、わたしガサツだから」


「いや、そういう問題じゃないだろう」


 測るのとか、細いこと苦手なんだよね。超絶不器用だし。


 地面をならして、石をコの字型に積み上げる。左右と奥の石と高さを合わせれば、カマドもどきの完成だ。

 用意しておいた見せ薪をわざわざ置いて、魔法でえいっと弱火にかける。

 左右と奥の石の上に、バランスを気をつけながら錬金釜を置く。

 実際は生活魔法の火魔法を使うから薪は必要ないんだけど、属性を多く持っていると怪しまれるので火魔法は隠蔽する可能性が高い。なので、今から使えないフリをしておく。

 しばらく煮込んでから、ミキサー機能を発動。


「なんだ、それ?」


 モードさん目が点。

 底から凶悪そうな羽カッターが出てきたからね、今まで何もなかったのに。


「ミキサーっていって、砕いて、混ぜてるの。そんで裏ごしして」


「恐ろしく間違っている気がするんだが」


 わたしのよくやるポタージュスープの作り方だ。

 ポーションの作り方なんて知らないからね、試行錯誤するしかない。

 そんなモードさんを尻目にできた液体を鑑定してみると『まずいポーション』と出ている。まずいだろうけど、ポーションと名付くのだから効き目は普通ってことだな。そう告げると、モードさんは嫌な物を見るような顔をした。


 再チャレンジ。


 最初にミキサーモードで薬草を粉砕する。さすが魔法。本当のミキサーだったら水分がないと砕けないけど、わたしのイメージが曖昧なのが幸いしてか、しっかり粉砕してくれる。これなら胡麻をするとかもできちゃいそうだ。水から煮ると苦くなるかもしれないので、お湯が沸いてから薬草を入れる。緑が色濃く出るまで煮出して完成。鑑定をかけると『美味しくなくはないポーション』と出る。


 なんかおちょくられている気がする。


 タイピングソフトというものがあった。文字通り、タイピングの訓練のためのソフトなのだが。キーボードを見ずに正しく早くに打ち込むのが目的で、ソフトに促されてタインピングしていく。学校の授業で強制的にやらされた。

 結果により褒めてくれるソフトだが、『遅いですね、居眠りしているのですか?』とメッセージが出てきた時はキーッとなった。

 そのソフトに意思がないのはわかっている。結果の数値によって記号の集合体である文字列が打ち出されるだけだ。知っているのに、キーッとなる。

 そう。だからって、そんなこと言われないぐらいちゃんと打てるようになってやるーと奮起はできなかったが、今この鑑定結果には、認めてもらえるものを作りたいぐらいには本気なようだ。


 ミキサーがダメなのか? すり鉢ですらないと正しくないのか?


「お前、それ楽しいか? ほら、また唇噛みしめてるぞ」


 あ、ほんとだ。ついつい力が入ると唇を噛みしめてしまっているらしい。5歳になったら歯もしっかりしてきたので、噛みしめていると、唇が切れてしまうことがある。


「うん、楽しいよ。これはわたしのライフワークにするつもりなの」


 そうなんだよ。ポーションづくりは夢だからね。それに最初からうまくいくとは思ってなかった。


「それ、配分が大切なんじゃないのか?」


「モードさん、それ一番言っちゃいけないやつ」


 こういうのは勘で作るから楽しいのだ。

 わたしは料理もお菓子作りも好きだったが、お菓子作りはいつもうまくいくわけではなかった。なぜなら、あれは材料をきちっと計測することが重要だからだ。

 わたしみたいにズボラで不器用なのが適当にやると、不思議なものが出来あがる。とにかく向いていない。

 でもいいの。楽しくて、好きでやるんだから。


 しかし。しかし、だ。ひとまず、売れるレベルのものを、ひとつは作れるようにならないとね。生活資金だから。


 一応すり鉢でするバージョンもやってみた。するのは難しく、腕を痛くして頑張ったのに評価は『美味しくないポーション』だった。


 錬金術に憧れてはいたが、一度すり鉢でやったので、もう気が済んだ。わたしのすり方では評価されないし。これで錬金術師と名乗ろうとは、本家の錬金術師からみたら殴られてもおかしくない、なりすましだろう。我ながらいかがなものかとは思ってはいるが。


 水と薬草の配合を変えたりもした。そのうち運んできた井戸の水がなくなったので、水魔法で出した水にしてみたら効果が上がった。魔力が鍵かも。こめる魔力を何段階か調節して飲みやすさを心がけて作ったら、『美味しいポーション』が完成した。


 勝った! って、わたしは何と戦っていたんだろう?


「錬金釜なのに、みきさー機能とかいう違うもので使ってないか?」


「じゃあモードさん、錬金釜が本気出したポーションを作るよ」


「お前が本気出すんじゃないのか?」


 わたしが本気出してもというか、いつも本気だけれど。錬金釜が本気出したら、多分、すごいことになるんじゃないかなーと思うんだよね。

 わたしは水と陽月草を入れて、あとは錬金釜にお任せした。

 数分後できた液体を鑑定すると『最上級ポーション』だった。

 瓶に入れて、モードさんにプレゼント。


「最上級ポーション」


 というと。


「ありがとう。わかった。お前が手動で作る方がいいな」


 と理解してくれた。


 おばーちゃんの遺品はすごいのです!

 わたしはこれから、全てこのセリフで乗り切ろうと思っている。

 この釜をわたしが作ったのをモードさんは知ってるけどね!


 瓶は面白い。瓶の元が売っているのだ。100Gで、おはじきみたいのが100個。10個が1包にされていて、それが10個。100Gで、100個の瓶が作れる。

 水を加え魔力を流すと、その平たいおはじきが立体的な瓶になる、コルクみたいな蓋付きで。10個ずつにしているところも気がきいている。おはじきのマーブルになっている模様がどれひとつをとっても同じものになることはないそうで。その色が入っているところも透明度が高くキレイな瓶なのだ。



 せっかくなので、他にも作ろうと思っていたものを作り出す。


 石鹸はモードさんの持っているのが、ゴシゴシ洗うと汚れが残らず落ちる気がするからいいのだが、髪もそれで洗うので短いとはいえ、ごわごわになるので気になっていた。リンスもどきをつくろうと思う。


 弱酸性にすればいいんだから、水と酸と保護剤ってとこか。保護剤っていうとグリセリンとかだけどグリセリンはないから蜂の巣のあれを使おう。蜜ではない何か。ぬめりとしたものが蜂の巣の内側にあるんだよね。蜜の薄まったやつなのかもしれない。酸はお酢があれば良かったんだけど、今はないから酸っぱい系の果物、モグリを使用。よくスープに入っている。桃みたいな見かけなのに酸っぱいから料理に入れて使うそうだ。見かけたときにモグリをひとつ買ってもらったのだ。


 これでできたかな? 錬金窯使ってミキサーで混ぜただけだけど。

 今日のお風呂で使おう、楽しみ。


 それから武器。いろいろ考えて飛び道具はやめることにした。わたしのメインは採集で、身を守るのに使うには、接近戦の方があり得ると思ったからだ。


 わたしは小学生の時、町会のソフトボールクラブに入っていた。姉がやっていた流れで、わたしも参加するようになった。中学でも部活動がソフト部。だからバットがいいかと思って。


 自分でも不思議でしょうがないんだけど、運動神経が皆無なのに、学生時代ずっと運動部に所属してるんだよね、わたし。意味わからん。もちろん成果は上がるはずなく、いつも補欠だった。後輩ができてもビリだった。でもなぜか続けるわたし、ホント意味わからん。

 斬りつけるのはやったことないし、剣道とかもやったことないし。だからバット。表面積が広い方が当たる率が高くなると思って、広げていったら、編み目のないラケットみたいになった。そういえば、高校ではバドミントン部に入っていた。


 あ、これいいんじゃない? 自画自賛。採集の時に拾っておいたぶっとい木の枝が、ラケットもどきになりました! ダメージを受けずにダメージを与えるラケットバットです。



 お風呂ではリンスもどき使いました。手触りが嬉しい。キュッキュしない。

 モードさんにも使ってもらったら、元々の髪質がいいのかサラサラになった。

 王子様みたい! 素敵すぎて、宿の女性陣も大騒ぎ。


「でも、モードさんは明日から石鹸のみね」


「なんだ、ヤキモチか? 俺がモテるからか?」


 その通り! 当たり前じゃないか。

 わたしは一呼吸して言う。


「そう。モードさんがモテると周りがうるさくなって、なんだかんだで目立つからダメ」


 わたしはしっかりと、モテ要素を潰しておいた。

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