第12話 保護者③チビ助
「で、お前は小さくなる前は何歳だったんだ?」
思わずモードさんをじとっと見てしまう。いや、モードさんは少しも悪くないのだ。
ただ、どうしようかと思って。もう、なんか、モードさんにはバレてもいいかなという気にはなっている。うん、最初から彼には抵抗感がない、なぜか。
ただざっくりいうとさ、『異世界で生きていたんだけど、召喚に巻き込まれ、神様がこちらで生きていけるようにサービスで若くしてくれたら、幼児までちっちゃくなっちゃって』荒唐無稽くない? 事実なんだけど、そう語るには体力と精神力がいる。
年だけいうなら疲れることもないかと思うのだけど、これもなかなか難しい。
40をはるかに超えていると、本当のことを言う。いずれ大きくなるが、なるのは20半ばまで。嘘をつくことになる?
20半ばと言う。なんか罪悪感がある。言いにくい。
それと、今までの経緯を思い出すと、大人とバレるのは、アレとかソレとか、かなり、壮絶に恥ずかしい。
「じょしぇいに歳を聞くのは失礼でしゅてよ」
結局、腰に手を当てて、憤慨しておく。
「そりゃ悪かったな。冒険者の登録は、本当に7歳超えてるんならできるぞ」
あ、嘘のわかる、読み取る何かがあるんだ。
「にゃんでちっちゃくにゃたかもわからないし、興味を持たれたくにゃいんだけど、大丈夫でしゅか?」
「チビ助なのに登録できて、ギルドに出入りすれば、目を引くだろうし、興味持たれまくるだろうな」
だよね……。
「それじゃぁ、見かけが7しゃいになってから登録しましゅ」
モードさんはかなりいい人だった。
マジックバッグにするからバッグを貸してと言ったら、少し考えて、街で買うという。そう、だからマジックバッグは渡していないし、本当に付与できるのか疑うところだと思うのだけれど、彼はそうしなかった。バッグ自体を街で買うというのも、もしわたしが報酬となるマジックバッグを作れなくても街まで連れて行ってくれるためにそう言ってくれたんじゃないかと思う。
わたしの歩くのが遅いという理由で、ほぼモードさんの腕に腰掛けさせてもらっての移動となる。いや、マジで幼児で助かりました。
午前中いっぱいモードさんの歩幅と速さで歩いてだよ、街までの距離。わたしじゃ本当の姿だとして2日はかかるかも。その前に足が使い物にならなくなるとみた。
それに本当に魔物いたよ、うじゃっと。なんかいろんなのに遭遇した。わたしを片手に、もう一方の手で剣を振るい、モードさんの敵じゃなかったけどね。さすがAランク! 解体っていうか魔石や討伐証明だとかなんかをサクッと取り出して、あとは焼いていた。死骸を残しておくと、そこに魔物が集まってきてしまうそうだ。
魔物を討伐することに、もっとショックを受けるかと思っていたのだけれど、モードさんが素早いからなのか、見事すぎる太刀筋だからなのか、嫌悪感を抱く間もなく全てを終えている、いつも。
というわけで、わたしは安全に街まで運ばれたのでした!
かなり遠くから見えていたけれど、近づくとそれは圧巻だった。街を守るようにぐるりと塀がそびえ立つ。
レティシア王国のビジュアという街らしい。
地図欲しい。あの国とどういう位置関係か把握したい。
立派な門があり、門番らしき人がいて、街に入る人たちが列をなしている。
「この国では目立ちたくないから、旅人を装う。お前はあんまり話すな」
わたしはこくんと頷いてみせる。
モードさんの番になり、小さな部屋に連れていかれる。
渡された紙を覗き込む。名前や、出身地、滞在の目的など書かされるようだ。
「身分証をお持ちではないですか? ギルドカードでも大丈夫です」
「いや、持っていない」
名前 ホセリア
出身地 シラノラ国
「シラノラ、遠くからいらっしゃったんですね」
「故郷はとっくに出てるんだがな。甥っ子がひとりになっちまったって連絡がきて、………連れて帰るところだ」
「どちらまで?」
担当の門番?さんが同情の眼差しでわたしを見る。
「エリュシオンだ」
エリュシオン、知ってる名前が出た。近隣だったか。
「エリュシオンですか。エリュシオンにはツーリーっていう木ノ実を花の蜜で絡めたお菓子があるんだ。とってもおいしいから、着いたら是非食べてみてね」
後半はわたしに言ってくれてる。木ノ実のハチミツがけみたいなのかな。いいなー、甘いもの、食べたい。親を亡くした設定に同情して励ましてくれているんだろう、いい人だ。
わたしは頷いて、ニッと笑う。門番さんも笑顔になった。
モードさんが彼の拳ぐらいの水晶みたいな石に手を当てる。
門番さんはチラッと水晶を見てから、モードさんが出身地など書き込んだ紙に判子みたいのを押した。
「すみません、身分証がないと、通行料がかかりまして……」
「いくらだ?」
「甥っ子さんは祝福前ですよね?……おひとりで1500Gお願いします」
「以前は、犯罪歴を調べるだけだったと思ったが、何かあったのか?」
「実は外国のお偉いさんがいらしてましてね」
ああ、そういうことか、と納得したようだ。門をくぐる。わたしは一言も言葉を発しなかった。
うわー。いろんな格好をした人たちが行き交っている。モードさんに運ばれているので、遠慮なく景色を見ていられる。
「まずは宿を取るか」
街の外れにある廃れた感のある宿屋に到着。
「2人で一部屋、空いているだろうか?」
受付に座っていたのはお年を召したおばあちゃんで、モードさんが声をかけるまで、うたた寝していたんじゃないかと思う。
「いらっしゃいませ。かわいいお子さんですねぇ。ええ、一部屋ございますよ。ベッドがひとつですが大きめですので、よろしいでしょうか?」
モードさんは頷く。
「一泊、大人ひとりと子どもひとりで、800Gでございます。夕食と朝食をおつけしますと1200Gになります。
「素泊まりで結構だ」
モードさんが硬貨を8枚置いた。
あの十円玉みたいな色の硬貨が100Gか。日本でいうところの、どれくらいの価値かな。
「2階の左端の205号室でございます」
おばあちゃんが鍵を渡してくれて、モードさんはお礼を言って、2階へと歩き出した。
おお、異世界の宿屋だ!
部屋は特別綺麗でもないけれど、汚くはなかった。ベッドとテーブルと簡易棚がある。窓からは裏庭が見え、陽に焼けたカーテンがいい味を出している。
モードさんはベッドの上にわたしをそっと下ろした。
「疲れたか?」
「疲れたのはモードしゃんでしゅ。ずっと抱えてもらってたから」
「お前ぐらいなんともない、気にするな。本当に疲れていないんだったら、買い物に行きたいんだが、いけるか?」
「いけましゅ」
異世界でお買い物! 楽しみ! あ、お金ないんだっけ。
モードさんがもしゅもしゅとわたしの頭をかき混ぜる。
「ティア、これからお前はしばらくディアン、男の子だ。ちゃんとできるか?」
「できましゅ」
本当の幼児なら難しいだろうけどね。なんせ中身はトホホな40半ばだからね。
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