第11話 保護者②交渉

 大きな人はワイルド系なかっこいいあんちゃんだった。二十代半ばってとこかな。

 ウエストとか細いのに、胸やら腕やらには筋肉がスゴイ。でもマッチョとは違くて、ガタイがいい感じ。


「まぁ、いい。街に行ってどうするんだ?」


「れんきんじゅちゅで、しぇいけいをたてましゅ」


「錬金できるのか?」


 こくこく頷く。


「あのなー、聞いといてなんだが、知り合ったばかりのやつに手の内を見せるな。いいか、錬金ができてもできなくてもチビは奴隷に売られやすい。保護者がいなけりゃなおさら、さらわれ放題だ」


 奴隷、いるんだ。さらわれ放題って治安悪いのか。


「で、ディアン、お前はどこの街に行くつもりだったんだ?」


 ディアン……。訂正した方がいいかな? ちらりと見上げる。どうしよう。


「遠くの街で、冒険者とうりょくしゅる、でしゅ」

 

「……冒険者に登録できるのは7歳からだぞ? 錬金なら商人ギルドじゃないのか? こっちも7歳からだけどな」


 がーーーーーん。このみてくれっていうかこの喋れない感じから2、3歳だよね。7歳には見えないよね。

 冒険者で素材集めしてお金貯めて、生産職するつもりなのに。一文無しで、どうする、わたし。


「キトラを呼んで、チビがどこにいたか聞くか? お前、レティシア国知らないみたいだもんな」


「過去はいいでしゅ」


 あんちゃんは苦笑する。


 やっぱり、この人いい人だ。世話好きのいい人だ。たまたま黄虎が拾ってきてしまった小さな子の、曰くありげの怪しい子の、これからのことを考えてくれるぐらい。


 わたしは一文無しだ。おまけに冒険者登録できなくて、お金を稼ぐ方法を思いつけない。ある程度大きくなるまでは。魔素ってどこにあるんだろう? どうやって取り込めば??状態だもん、どれくらい幼児のままなのかもわからない。

 いい人を巻き込むのは心苦しい。事情を話さず巻き込むなんて利用以外の何物でもない。けれど、安全に生きていくために、わたしにはベストな人材だ。っていうか、ここでこの人を逃したらわたしは死ぬ。でも、巻き込むなら、せめて利用の成分を薄めたい。


「あにゃたは冒険者、でしゅか?」


 勘だった。冒険者のイメージが似合いそうってただそれだけ。


「そういやぁ、名乗ってなかったな。ソロの冒険者のモードという」


 なんて好都合!


「ごていにぇいにありがとうごじゃいましゅ。わたしはティアでしゅ」


「男じゃないのか?」


 ニヤリと彼は笑った。


 え? そういえば、モードさんは最初からわたしを坊主と言ったり、ティアと言ったのに、ディアンと聞きちがえたりした。はなっからわたしを男の子と認識していた。

 え? 小さくなっただけじゃなくて、性別も変わった? まさかそんな可能性を思いつかず、確かめていなかった。


「わたし、男にょこでしゅか?」


 丈の長い上着をめくり上げて、ズボンの紐を緩めて確かめようとすると、モードさんの手に止められる。


「悪い、いや、女の子だ。女の子は男より危険度が増すから、男のふりする方がいいと思うぞ。『男じゃないのか』じゃなくて、正しくは『男で通すんじゃないのか?』だな」


「にゃんで、女って知ってりゅの?」


 確信を持って言ってるよね?


「そりゃ、昨日丸洗いしてやったからだ」


 ……………………。


「………しょのせつは、ありがとうごじゃいましゅた」


 わたしは頭を下げた。

 確かに、そうだ。汚れてたしね、わたし。だから丸洗いしてくれたんだろう。さっきも丸裸で眠ってたね。そういえば。

 洗濯もしてもらったんだね。下着みたいのも普通にはいたっけ、違和感なく。うん、何もついてなかった気がする。取り立てて覚えていないってことは違和感がなかったってことだ。


「さいちょに、ぼーず言ったのは?」


「ああ、髪も短いし、ズボン履いてるから男かと思ったんだ」


 なるほど、こっちは女の子は髪を長くして、ズボンを履かないんだね。スカートかな?

 聞き間違いだけど、最初わたしが『ディアン』と名乗り、看破のスキルでよく見れば魂と器がブレていて怪しくて。意識をなくして、汚れているから丸洗いしてみたら、女の子で。ワケアリと思うわなー、そりゃぁ。

 それなのに。うん、彼はいい人だ。


「冒険者は、いりゃい受けりゅ?」


「あ、ああ。ギルドを通してな」


 よかった。わたしの頭の中にある冒険者イメージもこの世界でもそこまで外れていなさそうだ。


「モードしゃん。街に行ったりゃギルドをとおしゅから、わたしのいりゃいを受けてくれましぇんか?」


 モードさんの薄い水色の瞳が品定めするように揺れ動く。ふと笑う。


「俺はAランクだぞ。冒険者のランクが上位だ。個人指名だとさらに高くなる」


「アイテムボックしゅ、マジックバッグ、ストレージ、くりゃうど、どれか聞いたことありましゅか?」


「マジックバッグ、空間魔法を付与したやつだな、知っているぞ。ボックス、ストレージ? くりゃうどは聞いたことはないが」


「マジックバッグはいくらぐらいでしゅか?」


「空間魔法を付与できるやつは限られているからな、大きさにもよるが、小さいのでも300万はくだらないだろう」


「上位冒険者の報酬はいくりゃぐらいからでしゅか?」


「日数、やることにもよるが500万越えはする……。チビ、マジックバッグ持ってるのか? でもそれはお前ので所有権は移らないだろう?」


 そこまで言って息を飲む。


「まさか、お前、空間魔法を付与できるのか?」


 わたしはにっこり笑う。


「しょれは秘密でしゅが、マジックバッグを売ってお金は作りましゅ。でもギルドに登録できにゃいから、モードしゃんが売ってお金にしゅてくれましぇんか?」


 こんな幼児じゃ売り買いは無理だよね。信用と説得力がなさすぎる。あわよくばできたとして目立ちそう。


「お前はマジックバッグを売って金にして、その金で俺を雇うつもりなのか?」


 こくこくと頷く。


「どんな依頼だ?」


 スッとモードさんの表情が険しくなった。


「わたしを街まで連れて行ってくだしゃい。しゅこしの間わたしが作ったものを売って、お金にして欲しいでしゅ」


「……それ、だけか?」


 わたしは頷く。


「報酬もしょこからはりゃうことになりましゅ。前払いできましぇん。わたしは一文無しでしゅ」


 モードさんは鈍い色の金髪をガシガシとかいた。


「難儀なガキだな。わかった、その依頼、Aランクのモードが請け負った。報酬はある程度の容量のマジックバッグをくれ」


 よかった! 交渉成立だ。


「ありがとうございましゅ。よろしくお願いしましゅ! それと、きれいにしてくれて、ご飯もくれて、ゆっくり寝かせてくれて、全部ありがとうございましゅた」


 そう伝えると、モードさんは破顔した。

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