第13話 保護者④お買い物
宿屋を出て、街の中央部に向かって歩く。モードさんの足取りに迷いはない。いい匂いに鼻がひくひく動いてしまったのをみられて、モードさんがお店に入った。
食堂みたいな感じで、姉御肌に見える女性が給仕に立っている。
席に案内してもらって座ろうとしたが、一般の椅子ではわたしがテーブルに届かないので、結局モードさんの膝の上に収まる。
ご迷惑をおかけします。
小さな子がいるのはそれだけで娯楽になるのか、なんだかんだと他のお客さんやお店の人たちが世話をやいてくれた。セルフサービスの水をわざわざ持ってきてくれたり、おしぼりを持ってきてくれて、わたしの手をキレイにしてくれたりした。
愛想よく、にこにこ笑って、ありがとうを言っておいた。
そういえば子供はちらりと見たけれど、わたしほどの小さい子は見ないな。
目立ちたくないわたしたちは、街が見えてきた時点で話し合い、親戚設定でいくことにした。モードさんは髪と瞳の色をわたしと似ている色合いに変えている。髪は濃い茶色に、瞳の色は淡い葉っぱの色だ。わたしは鏡を見ていないから、自分の色は知らないけれど、わたしの髪と瞳もそんな感じなのかなと思ってモードさんを見ている。自分の姿も見てみたいな。
宿屋のおばあちゃんの言葉を思い出す。
「親子に見えちゃいましゅたね」
なんだか、ちょっと嬉しい。ここでもそう見えてるのかな?
背中でモードさんが固まった。若いパパならあり得るだろうに。あ、迷惑だったのか。
「わざわざ否定して、記憶に残るのを避けた」
ぶっきらぼうに言う。あ、まずったな。勝手に距離を縮めすぎていた。気をつけなくては。顔を見ないですんで、良かったと思った。
モードさんは本日の定食なるものの大盛りをひとつ頼んだ。チーズののったお肉とこんもり野菜と、野菜たっぷりのスープだ。
モードさんは左足にわたしを乗せ横を向かせて、スプーンで野菜を運んでくれる。
いつも真剣にスプーンを見つめて、口を開けるのだが、一度ふわりと彼を見上げた時、わたしが口を開けるタイミングでモードさんも一緒に薄く口を開けているのを見た時、ツボに入った。
食べさせてもらっている分際で、そんなことを思う資格はこれっぽっちもないことはわかっているのだが、イケメンが小さな子にご飯あげるのに一生懸命で、応援するようにシンクロして口開けちゃうなんて、悶えるでしょっ。
そんな可愛いモードさんを見たくて時々見上げてしまい、そうするとスプーンへの思慕はおろそかになり、ちゃんと食べられなくてこぼしてしまったりする。
ワタワタして見えたのだろう、給仕の女性が見かねて小皿と小さなスプーンを持ってきてくれた。
「あんたも腹減ってるんだろ。チビちゃんはわたしが食べさせてあげるよ」
そういって、抱き上げてくれる。
本来の同じ年代の女性に抱っこをしてもらい、アーンって。ものすごく抵抗はあったけれど、食べさせてもらいました。モードさんにもちゃんとご飯食べて欲しかったからだ。
『可愛がっているのは伝わってくるけれど、ぎこちない子供の世話』のわたしたちはどこか興味を引いたらしい。わたしも話すなって言われているし、モードさんもベラベラ喋る方じゃないので、親戚だとしか言ってないんだけど、お店の人たちの中で一大物語でもできあがっていそうな気がした。『駆け落ち』『連れ子』『嫁病死』って単語聞こえたからね。娯楽が少なくて、妄想が広がりやすいのかしら。わたしの親子に見えた発言かな、原因は。なんか言葉尻とかから想像を広げている気がする、なんとなく。
お肉がジューシーでした。ごちそうさまでした。モードさんは二度とこの食堂には入らないだろう。表情が疲れ切っている。多分、聞こえてただろうからね。
次に入ったのは服屋。買ったのは、モードさんのではなく、わたしの服上下と下着と靴下3枚ずつ、と靴一足。男の子用。それとコートみたいの。これからますます寒くなるらしい。
見知らぬ金色の硬貨は間違いなく、高価な金額だろう。わたしがなんと言えばいいかわからずにいると
「マジックバッグ代だ」
と。モードさん男前すぎる。
おっきなの作りますから!
雑貨屋でバッグと、わたし用の食器やらを買う。ここでもお金を使わせてしまった。
買ってもらったものをアイテムボックスにしまいこむと驚かれた。モードさんは少し考えて、マジックバッグを使うか、マジックバッグを使っているように偽装した方がいいとアドバイスをくれた。
共同浴場に入って綺麗になって、新しい下着や服に袖を通す。早い時間だったからか誰もいなくて、気兼ねなくお風呂を堪能できた。男湯に入っているのは、仕方なくだ。だって、湯船は溺れる、マジで。高価らしいモードさんの持ってる石鹸は、匂いはキツイけどゴシゴシやると汚れが残らず落ちる感じがするのはいい。
屋台で夕飯を買い込み、宿屋に戻った。
選びに選んだ夕食は棒にパン生地を巻きつけて、その上にお肉を巻いたもの。
味付けが塩だけのものばかりで、他の味が恋しくなる。塩味がついているのだって食べられるのは恵まれていて、いや、食べられるだけ上等で、贅沢なのにね。
少し時間をおいて、お腹が落ち着いてから、マジックバッグに取り掛かる。
「どんな機能が欲しいでしゅか?」
「どんな機能って?」
「時間停止、とかリストアップとかでしゅ」
時間停止は便利だけど生きているものは入らないから、需要を聞かないとね。
「時間停止なんてこともできるのか?」
「はい、でも生きているものは入れられないでしゅ」
「……時間停止で。リストアップとは?」
「入っているものが、一目でわかるようにリストが出ましゅ」
「……それも頼む」
この感じからいって、マジックバッグはけっこう希少で、機能もあんまりついてないのかも。
でも、お礼だからね。怪しい子供のいうことを信じてくれたから。いや、信じてるとは違うかもしれないけれど。食べ物をくれて、寝床を与えてくれて、きれいにしてくれて、守ってくれた。そんなモードさんだから、わたしが思いつく最高のものを贈りたい。
「ぬしゅまれてもモードしゃん以外にはただのバッグにしゅて、あと、戻ってくるのが便利でしゅね」
バッグに片手をおく。
優しいモードさんが所有する、マジックバッグである。
マジックバッグの中は亜空間で、時間は停止している。所有者のモードさんだけが出し入れできて、中のものは正しくいつでもリストアップすることができる。
バッグを誰かが手に取ってもそれは普通のバッグでしかなく、いつでもモードさんの手元に引き寄せることができる。
亜空間はとても広く、ドーム100個入る………
一気に何かを持っていかれ、がくんと崩れる。
「ティア、おいティア、どうした?」
まずっ。魔力ごっそり持って行かれて、持ってる魔力じゃ間に合わなかった。ドーム30個分で尽きた。
と、目が覚めると真っ青な顔のモードさん。
「大丈夫か?」
うん、と頷く。
「魔力の枯渇か?」
わたしのアイテムボックスは難なく作れたのに。小さくなったからかな?
「ちいしゃくなって、魔力も減ったにょかな……」
「しばらく魔力は使うな」
「でも、マジックバッグいっぱいちゅくりゃないと」
「そのことは後で話そう。今は眠れ」
抱っこされて背中をトントン叩かれたら、幼子のように、わたしは眠ってしまった。
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