三 お騒がし編
さて、一晩明けて朝食時のこと……。
「──あ、そうそう。そういえばさ、昨日の夕方、神社でちょっと変わった恰好の女の人にあったんだけど知ってる?」
積もる話も他にあって、昨晩はすっかりそのことを忘れさっていたのだが、不意にあの美女との遭遇を思い出した俺は、
「変わった恰好?」
「うん。緑の着物着てて、なんていうの? 薄い布のついた笠被ってるんだ。時代劇に出てくる人みたいだったよ? それにすっごく美人だった!」
小首を傾げて聞き返す爺ちゃんに、そう詳しく答える俺だったが。
「……おい。それ、本当の話か?」
不意に爺ちゃんは顔を強張らせ、これまでに聞いたことないようなドスの利いた声で再度、俺に尋ねた。
「……え?」
「おまえ、その女を本当に見たんか?」
今度は俺の方が面食らって訝しげに呟くと、代わってそのとなりから婆ちゃんが訊いてくる。見れば婆ちゃんも見たことのない険しい表情だ。
「……う、うん。見かけたのは本当だけど……誰なの?」
「
わけがわからず、唖然と頷いてからもう一度俺は尋ねるが、爺ちゃんはみるみる顔面蒼白となって、意味不明なことを
「やしゃごぜさま?」
「早く……早くみんなに知らせなけりゃあ……手遅れになってなきゃいいが……」
ブツブツ呟きながら立ち上がった爺ちゃんは、
「ねえ、いったいどういうこと?」
「あとで教えてやるからおとなしく待っとき。わたしは
爺ちゃんがダメなら婆ちゃんにと振り返って尋ねてみるが、婆ちゃんもそう言って忙しなく居間から出て行ってしまう。
「な、なんなんだよ? いったい……」
「……ああ。そうじゃ……いや、孫には話しとらんかったからの。それで今、初めて聞いたんじゃ……ああ。早く連絡網を回してくれ。急がにゃ取り返しのつかんことになる……」
仕方なく、独り残された俺は爺ちゃんの電話に耳をそばだててみるが、その断片的な言葉を聞いてもますますわけがわからなくなるだけだ。
「あ、あのさあ…」
そんな感じで何件かの電話をかけ終わった後、ようやく話が聞けそうなのでおそるおそる声をかけてみる俺だったが、その瞬間、ジリリリリリーン…! とけたたましくベルが鳴り響き、今度は逆に電話がかかってくる。
「はい、背後山じゃが……な、なんじゃって!? ……ああ、遅かったかあ……」
反射的に踵を返し、再び受話器を取った爺ちゃんは、突然、悲鳴のように大きな叫び声をあげた。
「で、誰の仕業なのかは……そうか。わからんか……ともかくも、被害者をこれ以上増やさんことじゃな……」
そして、また二言三言、不穏な言葉を相手と交わしてから電話を切ると、よりいっそう血の気の失せた顔になって俺の前に歩み寄る。
「あ、あの…」
「敬二、落ち着いて聞けよ? 今、村長から連絡があっての。お寺さんとこの莉奈ちゃんが殺されたそうじゃ……刃物で首を斬られての……」
続けざま、再度尋ねようとする俺を遮り、爺ちゃんが口にしたのはとんでもない知らせだった。
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