第6話

俺とパパリアの模擬戦が始まった。


「【ファイアボール】」


パパリアの魔法。


俺はそれに対して【ウォーターボール】を投げつけて相殺した。


「なっ……私のファイアボールが?!」


驚いているパパリアに俺は呟いた。


「時間停止」


時が止まる。


「う、動けない?!」


パパリアの顔以外の時間を止めた。

手は動けないし足も動かない。


そして杖も動作を止めている。


「それではもう魔法も使えんじゃろう」


俺はそう言いながらパパリアに近付いた。


「大きくなったのうパパリア」


俺は自分より背の高い相手にそう言った。


だからだろう。

パパリアは動揺していた。


「さ、先程からなにを言っている?」


そう言われて俺は聞いてみることにした。


「母親のマルシェは元気か?」

「な、なぜ私の母親の名前を?!」


俺はとりあえず時間停止を解除してやることにした。


するとパパリアは家の方に向かって叫んだ。


「母さん?!いますか?!母さん!」


そう叫ぶと家の扉が開いてひとりの老婆が現れた。



名前:マルシェ

年齢:61

特性:神の子を授かる者



「はいはい。なに?パパリア」


そう言って歩いてきて俺の姿を見て固まった。


「な、なんで……」


俺を見て固まるマルシェ。


パパリアやミリアもこの状況を異様だと認識していた。


誰も何も発さない中俺はマルシェに言ってやった。


「何十年ぶりかのう。マルシェ」

「そ、その声とその顔。それからその紋章は……【魔術師の紋章】?」


パパリアがマルシェに聞く。


「母さん?何か知ってるのか?教えてくれないか。なんなのだこの少年は」


マルシェはポツリと漏らすように呟いた。


「偉大なる英雄ルーク。ルーク・ウィザード・ベネジーラ。パパリア、本当に小さな頃あなたの面倒を見てくれたこともあるわ」


パパリアとミリアは俺を見て同時に口を開いた。


「「はっ?」」


マルシェは続けた。


「間違いない。この金髪に青色の目。美しい顔立ち。そしてこのかわいさはルーク以外にありえない!」


そう言って俺をギューッと抱きしめてきた。


「もう、どこいってたのよ!ルーク!てかなんで若返ってるの?!」

「離せ。老婆に抱きしめられる趣味はないぞ」


俺はそう言って離れた。


そのときパパリアがマルシェに聞いた。


「母さん?!どういうことだ?!何かの間違いだろ?!ルークくんがあの大英雄ルーク・ベネジーラとでも言うつもりか?!たまたま名前が一致しただけだろ?」


マルシェは首を横に振って言った。


「私には分かる。この子は偉大なる英雄のルーク。一緒に学んだ仲間のこと忘れるわけないじゃない。なぜか若返ってるけど」

「し、信じられん!若返りの魔法なんて存在するわけが無い!幻想だ!若返りなんて!そんな魔法があれば老死なんてなくなるではないか!」


そう言うパパリアの前で俺は杖をマルシェに向けた。


「ならば見せてあげるよ。その幻想とやらを」


【若返れ】


俺が呟くとマルシェの体は淡い光に包まれて。

そして、若返った。


「うぇっ?!ほんとに若返った?!」


マルシェは自分の瑞々しい手を見ていた。


それを見てパパリアは気絶した。


「ありゃま。ルークが驚かしすぎて気絶しちゃったわパパリアが」


そう言ってマルシェは家のものを呼びつけてパパリアを回収させていた。


「お、おばあちゃん?」


ミリアがマルシェのことをそう呼んでいたけどマルシェは静かに切れた。


「おばあちゃん?ミリア?私はたぶんあなたと同年代よ。ふふふ」


そう笑いかけられて


「ど、同年代ぃ?」


ミリアも気絶した。


「ありゃま。ミリアも気絶しちゃった」


俺はミリアをお姫様だっこしてやった。


それからマルシェに声をかける。


「とりあえず家ん中行こうよ」

「うん。私もいろいろ話したいことがあるの!ルーク!」


そうやって笑ってくれるマルシェは数十年前一緒に旅をしたマルシェの顔と同じだった。


応接間に案内されて俺はマルシェと向かい合った。


「なにから話すべきか……うーん。分かんないけど、今まで何をしてたの?ルークは」

「別に何も。辺境でのんびりやってただけだよ」

「他の仲間には会ったの?」

「いや。会うつもりもない」


俺はそう言ってここに来た理由をマルシェに説明した。

するとマルシェは大真面目な顔をしてこう言った。


「ねぇ、ルーク」

「なに?」

「恋人を探しに来たんだよね?私じゃダメ?」

「はぁ?」

「私はルークのこと好きだったずっと。それで気付いたら処女のまま60歳超えちゃってた!」


ちなみにこの世界では処女出産なるものが普通に存在する。


【神授】と呼ばれる特殊な妊娠方法があるのだ。

前触れもなく突然妊娠する摩訶不思議なもので、そしてその特殊妊娠で産まれてくる子は優秀とされている。


ちなみに俺もそうだ。


「だめかな?」

「そうは言われてもな」


俺はそう答えてからこう言った。


「気持ちは嬉しいけどさ。他にも見たいんだよな。学園にどんな子がいるのか」

「うん。私は第三妻くらいでもいいよ」


そう言ってニッコリ笑ってくれるマルシェ。


この笑顔を俺も昔はそこそこ好きだったのを思い出していた。


それから俺はマルシェに聞いた。


「ところで試験の方は?」

「合格でしょ。英雄ルークを不合格にするなんてありえないから」


そう言われて俺は聞き返す。


「ところで俺はいつ英雄になったわけ?」

「……?」


口を開けて俺を見ているマルシェ。

なにか不味いこと言ったかな?

そう思っていたらマルシェは叫んだ。


「えぇぇ?!!!知らなかったの?!!英雄って呼ばれてること」

「知らなかった」


俺は今日初めて自分が英雄と呼ばれていることを知ったんだもん。


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