第5話

俺は令嬢の家に招かれていた。


貴族の家だ。


令嬢の名前はミリア・サンダーランドというらしい。

つまりサンダーランド家の娘なのだが。


俺はこの名前に聞き覚えがあった。


(ミリア、なるほど続編ラストラグナロク2のヒロインだったな)


ラストラグナロクは主に学園生活に重きを置いた学園もののゲームである。


そしてその学園に通うヒロインの1人がこのミリア。


(まさかここでヒロインに会うとは思ってもいなかったな)


本来学園に通い始めて出会うはずのキャラなのだが。


俺はそんなことを思い出しながらミリアに聞いてみた。


「謝礼の話だが」


切り出してみた。


「はい、どんな謝礼が必要かは考えてもらえましたか?」


俺は頷いて口を開いた。


「学園に通いたい」


そう言うと口をポカーンと開けたミリア。


そんなこと言われると思っていなかった、みたいな顔だ。


「学園に通いたいんだ。ここにあるのは知ってる」


そう言ってみるとミリアはこう言ってきた。


「あ、あの。学園に通うのはいいのですけどそのなぜそれを私に言うのでしょう?」


そう聞かれて答えた。


「家もないし身よりもない」


そんな俺が学園に行くとなると、どこかの貴族のせわになるしかないんじゃないかと思っているのだが。


「なるほど。たしかにそれなら誰かの貴族のガードとして入学が一番簡単そうですね」

「ガードでいい。俺を雇ってくれないだろうか?」


聞いてみると頷いた彼女。


「でもむしろ私が雇っていいんでしょうか?あなたのような優秀な人を」

「うん。俺は学園に通いたいだけだからさ」


そこでミリアは聞いてきた。


「でもなぜ学園に?」

「いろいろあってさ」


それからミリアは俺のためにいろいろと準備をしてくれた。


そして彼女は俺に部屋を貸してくれることになった。


のだがその途中で質問してきた。


「ひとついいですか?」

「ん?」

「ガードになるにあたってその試験を受けて欲しいのですよ」

「試験?」

「はい。一応貴族の娘である私の身を守る立場になっていただきます。そこで試験を受けて欲しいのです」

「どんな?」


原作ではこんな試験なかったからどんなものか分からないな。


そもそもガードになる展開自体がなかったから仕方ないけど。


「今からでもかまいませんか?」

「俺は別にどの時間でもいいよ」


そう言うと彼女はこう言った。


「お部屋でお待ちいただけますか?後で呼びに行きますので」

「分かった」


俺は鍵を受け取って与えられた部屋に向かうことにした。


中に入ると直ぐにアイテムポーチからいろいろと取り出して必要なものを設置していく。


で、ふと思う。


「試験か」


実に数十年ぶりとなるイベントだった。


俺は世を捨てて今まで辺境にいたから当たり前だけど。


そのとき、窓の向こうから声が聞こえる。


近寄って下を見てみるとそこにはミリアと、それから


「あれは父親か?」


ミリアの父親らしき人間が立っていた。


耳を澄ませて会話を聞いてみるとどうやら試験というのはあの人に実力を示すことらしい。


「なるほど。先にステータスを軽く見てみるか」


俺は【心眼】を開いてあの男のステータスを見ることにした。



名前:パパリア・サンダーランド

レベル:563



「レベル563か。大したことは無いようだ」


俺はそう呟いてミリアが迎えに来るのを待つことにした。


でも引っかかることがあった。


パパリアって名前聞いたことがある気がする。2以外のシリーズでだ。


(気のせいか?)



数時間後、ミリアが迎えに来た。

やはり俺の予想通り庭で試験とやらを行うことになるらしい。


そうして俺はミリアに連れられて向かっていくのだが、ミリアが話しかけてくる。


「ルークさんはご存知ですか?」

「なにを?」

「ベネジーラの魔法というものを」


俺の名前と同じものだが、なにか関係があるのだろうか?


そう思ってたら彼女はこう続けた。


「何十年も前にベネジーラという人がいたようなんですよ。それでその人は世にも偉大な魔法をこの世に残しました」

「ふむ」

「現在の魔法技術ではベネジーラという人の魔法の再現はできないとされています。それほどベネジーラという人は偉大だったのです」


俺はその話をする必要性について聞いてみた。


「その話はなにか関係があるの?これからのことに」


そう聞くとミリアは言った。


「はい。私たちサンダーランドの人間はベネジーラという人が残した魔法を少し継承しているのです。偉大な魔法使いの偉大な魔法を継承しています」

「そんなに何度も言うほど凄い魔法使いなんだねその人は」

「はい。この世界でベネジーラさんの横に並ぶ人間はいないとされています」


そう言った彼女。

そのとき、俺たちは庭まで降りてきた。


そして、先程部屋から見た男が俺に声をかけてきた。


「君がルークくんだね。娘を助けてくれたことは感謝している。ありがとう」


そう言った後に杖を抜いた。


「しかし、だ。ガードの件は無条件で許可することができない。よって私と決闘をして力を示して欲しいと思っている」


そう口にするパパリアの顔を見て俺は思い出していた。


そうだ!

こいつ原作ラストラグナロクの1作目で出たキャラじゃないか。


「いやぁパパリア。泣き虫じゃったのにのう」


思わず素の喋り方が出てしまった。


しかし、向こうは俺の事を一切知らないはずだ。


首を傾げていた。


「何の話をしている?」

「こっちの話だよ」


そう返して俺は【アイテムポーチ】から自分の最高傑作の杖を取りだした。


隠居してからは俺は魔術杖作りにハマっていた。


これはその集大成である。


それを見てパパリアは口を開いた。


「見覚えがあるような杖……だが、どこで?」


そう言っていたが俺もこの杖を見せるのは初めてだ。


見たことがあるわけが無い。


そして俺は言った。


「それじゃあ始めるとしようかのう。パパリア坊よ」


俺はかつてこの男をそうやって呼んだ。


思い出すかもしれない、という期待も込めて発した。

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