憤怒、異端
自律型魔導人形No.038。
それが彼女の正式な番号だ。
かつては研究員であり、政治の荒波を受けて彼女は実験体とされてしまった。
その怒りは想像にかたくない。彼女の輝かしい経歴は、彼女の素晴らしい研究は全て国に奪われ、そして彼女は機械となった。
神の領域にすら足を踏みれいたとすら言われるその人形は、やがて自らの意思によって脱走。
長い時を経て、今はこうして地獄の底に立っている。
レミヤという新たな名前と共に。
「皆様とはぐれてしまいました。魔力による反応もなかった事を見るに、ダンジョンのシステムとしての移動なのでしょうね。大方、それぞれにそれぞれの罪が割り当てられているということでしょうか?」
レミヤはそう言うと、静かにその先にいる相手を見つめる。
第五圏“憤怒”。
怒りに我を忘れた者が、血の色をしたスティージュの沼で互いに責め苛む。
ディーテの市 - 堕落した天使と重罪人が容れられる、永劫の炎に赤熱した環状の城塞。
それがダンテ神曲の憤怒の章。
しかし、それらを全て忠実に再現されている訳では無い。あくまでもこれらはモデル。多少の違いが出てしまうのはいつもの事であった。
故に、レミヤの目の前にあるのは堕天した天使たちの姿。
漆黒の翼を纏い、天から落ちてきたその存在は怒りによって侵入者を排除する。
「なるほど。罰は堕天使による制裁ですか」
「───────!!」
「何を言っているのか分かりませんよ。この
罰の内容を理解したレミヤは、早速自身の力を解放する。
来たれ科学の英知にして機械の兵器たち。その奏でる重奏は悲鳴によって完成される。
「戦闘モードに切り替え。“
ドガガガガガガ!!ドゴーン!!ドガァァァァァァン!!
刹那、地獄に重火器の音楽が鳴り響く。
背中には二門のガトリング、そして両手には二丁のアサルトライフル。そして、地面には二つのミサイル。
六つの兵器が一斉に音楽を奏で始め、怒りに満ちた堕天使達を撃墜していく。
ある堕天使は盾を持って銃弾を弾くが、レミヤは分かっている。
その超高性能AIの目には、堕天使ガ守りきれない場所を的確に示していた。
「ただの平気だとお思いで?私の音楽は自由自在なのですよ」
レミヤはそう言うと、右手に持っていたアサルトライフルを天に向けて打ち始める。
堕天使達はその様子を見ていたが、レミヤが何を狙っているのかさっぱり分からずまっすぐに突っ込むだけであった。
盾に弾かれる弾丸。ミサイルまでは受け止められず吹き飛ばされるが、それでも尚数が減ることは無い。
一体の堕天使がレミヤに攻撃できるまでの範囲に入った。
しかし、レミヤが焦ることは無い。何故ならば、この超高性能AIが行ったシュミレーションテストにおいて、レミヤの勝率は100%であるのだ。
「代わりに私が天罰を下しましょう。ほら、今から雨が降りますよ。傘、準備しなくていいのですか?」
「─────!!────........」
レミヤに攻撃をしようとした堕天使の動きが止まる。
つい先程上にはなった弾丸が、重力に従って落ちてきたのだ。
それは天の裁きとなり、そして弾丸の雨となって堕天使たちに襲いかかる。
怒りによって我を忘れている堕天使たちが、この一撃を見抜いて自身を守れるはずもない。
そう。怒りとは、最も愚かな行為であることをレミヤは嫌という程見ていた。
例え怒りに満ちていたとしても、至って冷静に、そしてクールに。
頭は冷やして、常に周囲に気を配るのだ。
それが出来ないものから死んでいく。
自分達の頂点に立つ主がよく使っていた手法だからこそ、その弱点をよく知っている。
「所詮天から堕ちた敗北者達が、私に勝つなんて無理なんですよ。まぁ、私のそんな堕ちた一人ですがね。運良く
演奏は止み。その大地に残るのは死体の山。
レミヤは魔物の研究サンプルとして、堕天使の一部を収納すると、第九圏に続く道を見つけて降りるのであった。
「残存魔力はまだ問題ありませんね。さて、行きますか」
【堕天使】
主なる神の被造物でありながら、高慢や嫉妬がために神に反逆し、罰せられて天界を追放された天使、自由意志をもって堕落し、神から離反した天使である。
キリスト教の教理では悪魔は堕落した天使であるとされる。
堕天使の概念はユダヤ・キリスト教の複雑な歴史を背景にもつ。キリスト教が旧約と呼ぶ「ヘブライ聖書」には本来、堕天使という概念は登場しない。天使の堕落の伝説の早期の例は、後期ユダヤ教諸派において成立した、後に偽典と呼ばれることになる文書のひとつ「エノク書」にあらわれる。このエノクの伝承は、ヘレニズム期のユダヤ教セクトであるクムラン教団を特徴づける「善と悪の戦い(英語版)」の観念とともに原始キリスト教に影響を与え、これによって堕天使の概念はキリスト教の基礎の一部となったと考えられている。
一般に堕天使の頭はサタンとされるが、外典・偽典などではマスティマ、ベリアル、ベルゼブブ、アザゼルなどと記されている場合がある。
この世界でも概念は同じ。しかし、実在する者として考えられている。主にダンジョンのせいで。
はぐれた。
アケローン川を渡ったら、深いきりに包まれて気がつけばこんな訳の分からない場所にいる。
風景や目の前にいる魔物から推測するに、ここはおそらく第六圏“異端”。
要は俺はこの世界において異端者としての罪を着せられた訳だ。
「まぁ、間違ってはないわな。そもそも俺はこの世界の住人ですらないんだし。異端者と言われた方がまだ納得できるか。これで愛欲辺りに飛ばされてたら、割とマジで凹んでたかもしれん」
そんなことを言いながら、俺は目の前にいる2匹の魔物を眺める。
デカくてゴツイ牛こと、ミノタウロスと、上半身が人で下半身が馬のケンタウロス。
彼らが俺の相手を務めてくれるらしい。
ハロー?言葉は通じる?出来れば平和に行きたいんだけど。
「仲間と合流したいんだけどさ。案内してもらえる?」
「ブモォォォォ!!」
俺が気さくに話しかけると、ミノタウロスは急にブチ切れて俺に迫ってきた。
どうやら会話は通じないらしい。これならサメちゃん家族たちの方が何万倍も可愛いな。
さて、実はミノタウロス、ケンタウロスはそれぞれ魔物として発見されていたりする。
その強さはAランクハンターが6人集まって討伐できる強さと言われており、うん。まぁ、俺一人ではどう足掻いても勝ち目がないという絶望的なマッチアップだったりする。
「でもやらないといけないんだよね。とりあえず転んでもろて」
「ブモォ?!」
はいはいいつものワイヤーワイヤー。
俺は素早くミノタウロスの足元にワイヤーを絡ませると、転ばせる。
最後の最後まで大活躍のワイヤーくん。やはりワイヤーはポテンシャルが高い。
(ポヨン)
とここでスーちゃんが動いた。
俺の防弾ベスト代わりをやっているスーちゃんは、素早く飛んでくる何かを受け止める。
「ありがとスーちゃん助かったよ」
(ボヨヨヨン!!)
スーちゃんが受け止めてくれたのは矢だ。
ケンタウロスのやつ、容赦なく俺の顔に矢をぶち込もうとしてきやがって。
「勘弁して欲しいもんだね。俺はそこら辺の人間とそう変わらないんだぞ?」
「........」
無言ですかさいですか。
何も言わずにひたすらに矢を打ってくるのは厄介だな........あ、とりあえずミノタウロスばワイヤーをぐるぐる巻きにして、動きを封じている。
ブチブチとワイヤーが切れる音が聞こえるが、その傍からさらにぐるぐる巻にすれば問題ない。
そしてケンタウロスも隙を見てワイヤーで拘束。腕を縛りあげて弓が打てなくなったのを確認した瞬間、ナーちゃんが動き出した。
「ナー!!」
バクン。
影が動いたかと思ったら、ケンタウロス頭を食いちぎってしまった。
........ナーちゃん、あんな可愛い猫ちゃんのくせしてやってる事えぐいな。
一応それ、Aランクハンター6人で何とか対処できるレベルなんですけど。
頭を失った生物は基本死ぬ。それはケンタウロスも例外では無いようで、あっという間に死に絶えた。
強い。主に魔物ふたりが。
最悪ピギーに止めてもらって、君が死ぬまで殴るのをやめないパンチを繰り出そうかと思ってたのに。
「ナーちゃん、こっちも食える?」
「ナー」
どうせならそのままナーちゃんに食ってもらうかと思っていたのだが、どうやらミノタウロスは無理らしい。
ということで、スーちゃんGO。
この悪食の王は、全てを食らいつくして相手を殺す。元々はただの食いしん坊スライムであったが、色々なものを食べすぎたおかげか、レミヤ曰く異常な程に酸が発達しているのだ。
つまり、だいたい何でも溶かせる。
(ポヨン?)
「ん、食べていいよ。出来れば頭からよろしくね」
(ポヨヨン!!)
そして、拘束されたミノタウロスの頭にくっついてじわじわと頭からミノタウロスを溶かしていく。
「ブモォォォォォォォ?!」
頭から溶かされ始めたとなれば、そりゃもちろんミノタウロスだって暴れる。
が、ワイヤーを死ぬほどぐるぐる巻きにした挙句、ナーちゃんが影を使って拘束したら逃れられない。
一応、人型なんだからと思って、力が出しづらい縛り方をしてるからね。それでも引きちぎられてるけど。
結果。ミノタウロスは生きたまま溶かされて死亡。
思っていたよりもあっさりと、終わってしまったのであった。
(ポヨン!!)
「はいはい。わかってるよ。全部食べたいんだろ?ちょっと状況整理もしたいし、待っててあげるよ」
(ポヨヨン!! )
先へと続く道が開いたが、スーちゃんはそれよりもこの死体が食べたいらしい。
俺はそんな可愛いスーちゃんを待ってあげながら、しばらくのんびりと過ごすのであった。
電話、通じないな。電波妨害されてるのか。
まぁ、当たり前だわな。
後書き。
グレイ君雑処理。グレイ君、火力補強さえ出来ていれば強いからね。しょうがないね。
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