九つの罪
ローズの肉親、父の死体が五大ダンジョンの中で転がっていた。
俺達はローズに気を使い、何も話さなかったが彼女は割ときにしていないような様子である。
正直、無理をして明るくしていると最初は思っていたが、まるでそんな感じはない。
家族をほったらかして好き勝手に旅をしていた父親。そんな父親とは言えど、死んでいたら多少は悲しむかと思ったがそんなことは無いようだ。
とは言えど、やはり気は使う。
その日の移動はローズも気まずそうであった。
それからしばらく移動して、俺達はようやくアマゾン川にやってくる。
かつては世界最大級の川のひとつとして知られ、多くの生態系がそこに住んでいたはずの川。
テレビで見たことがあるあの茶色く濁った生命の川は、俺の記憶にあったものとはあまりにも違っていた。
「凄まじく綺麗だな。なんだこれ」
「むかしの参考資料とはあまりにも違いますね。濁りなどどこにもなく、あまりにも綺麗です。ここまで綺麗に掃除されてしまえば、かつてあった生態系は崩れ去っているだろうと分かるほどに」
「綺麗すぎる川じゃ魚は生きられない。人間と同じだな。多少濁っていた方が、居心地がいいんだよ。どんな世界でも」
「検査薬を落としてみたが、この川、全部毒だ。そこまで強力なものでは無いから問題は無いが、気をつけてくれ。飲んだり、川に落ちたらもれなくあの世に行けるぞ」
アリカが何やら薬品を川に流して、その反応を見て“毒”だと判断する。
その薬すごいね。普通に売り出したらバカ売れしそう。
まぁ、アリカで金儲けとかする気は無いから興味無いけども。
それにしても、毒か。
本当にこのダンジョンはいやらしいな。
歴戦のハンターですら迷いかねない深い樹海、死角から襲ってくる蜂と蛇。
食料が尽きたからと蛇を食えば毒に侵されて死に至り、水が無くなればとそこら辺の水を飲めば死に至る。
ここにたどり着くまでに、最低限数ヶ月分の食料と水が必要となるわけだ。
水は能力によって生成できることは知っているが、食料を出せる能力者というのは現状俺しかいない。
あれだな。アイテムボックスみたいな多くのものを持ち歩ける能力者か俺のように食料を出せる能力者じゃないとそもそもここまでたどり着けないな。
しかも、辿り着いたとしても、ここがゴールではない。
ここがスタートなのだ。
生存に必要な能力チェックをさせられ、それをクリアしてはじめてスタートラインに立てる。
やってる事がえぐすぎるぞこのダンジョン。
「ここがアケローン川だと予想してるんだが、どうなのかね?もし違ったら、南米大陸にある全ての川を巡る旅行会社始まっちまうんだけど」
「さすがにそれは勘弁して欲しいな。どれだけこの大陸に川があると思ってんだ」
そんなことを話しながら川を眺めていると、スっと霧がかかり始める。
お、どうやら俺は当たりを引いたらしい。
一応周囲の警戒をしながら、全員が背中合わせになって俺とアリカ、そしてレイズを守るように動く。
いつもなら俺とアリカだけが守られていたが、帰る場所ができたレイズも守られていた。
カルマちゃんが待ってるからね。しょうがないね。
「おい、川から何かやってくるぞ」
「カロンであることを望むとするか。というか、そうでないと困る」
霧の向こうから何かがやってくる。
静かにその影がやってくるの待っていると、全身黒い姿で纏った人型の何かが船を漕いでやってきた。
「地獄へ行くもの。乗り込むが良い。定員は9名までだ」
「冥府の渡し守カロンですね?この船に乗れば、私たちはようやく本陣へと乗り込むことができる言う事なのでしょう」
「なら乗り込むとするか。ここまで来て引く選択肢はない。さっさと終わらせて、帰るとしよう。このクソみたいな場所はもううんざりだ。研究したいし」
「全くだよ。早く帰って私たちはレイズとカルマの結婚式の準備をしなきゃ行けないの」
「そうだな。ついでにボスとリーズヘルトの結婚式もするか?お前らまだ結婚してなかっただろ」
「俺とリィズはそういうの必要ないんだけどな。でもまぁやってもいいか?既婚者だって分かれば多少騒がれなくなるだろ」
「フォッフォッフォ。良いではないか。ワシも頑張るかのぉ」
「あら、いいじゃない。お兄様も呼んでくれるとありがたいわねん」
「あのー皆さん?なんでそんなに死亡フラグを建てるのですか?死にたいんですか?」
「そうっすよ。みんなして俺を殺そうとしてるっすよねこれ。ある意味殺人未遂だと思うんすけど。訴えたら勝てると思うんすけど」
死亡フラグなんてへし折ってなんぼだろ。みんなわかってて言ってるしな。
あえて死亡フラグを建てることで死亡フラグを回避するという高等テクニック。
レイズには分からないかー!!
あからさまに“あ、こいつ死ぬな”みたいなフラグをたてたやつは、最近生き残るのだトレンドなんだよ。まぁ、普通に死ぬこともあるけど。
結局、フラグだなんて関係ない。そいつの運が良ければ生き残れるのだ。
全部パワーで解決すれば無問題。
パワー!!パワーこそ正義!!イッツジャスティス!!
「地獄までの片道切符を頼むよ。それと、転職先を考えておいた方がいい。この職場は今日、無くなるよ」
「........9人乗り込んだな。では、出発する」
けっ、こう言う冗談を返してくれないとはお宅の従業員はユーモアが足りないんじゃないか?
俺はそう思いながら、アマゾン川を渡るのであった。
【アケローン川】
ギリシア北西部のイピロス地方を流れる川。アケローンは「嘆きの川」「苦悩の川」と訳すことができ、古代ギリシア神話ではカローンが死者の魂を冥界ハーデースへと渡す、地下世界の川ステュクスの支流と信じられた。
のだが、メタい話、ヨーロッパに2つも五大ダンジョンを作ったらなんか色々と不便がありそうだなと言う私(作者)の都合によりアマゾン川をアケローン川としている。なので、ギリシャにも同じ名前の川がある(はず)。
南米全域を支配下としているダンジョン、
このダンジョンはグレイ達の想像通り、ダンテ神曲“地獄篇”をモデルとして作られているダンジョンである。
しかし、あくまでもモデルとして作られているだけであり、攻略方法は異なる。
ダンテはベアトリーチェの案内によって旅をするが、このダンジョンに女神はおらずそしてあまりにも初見殺しすぎたのだ。
グレイたちは知る由もないが、まず、攻略に最低でも9人が必要である。
それぞれの罪に最適な人員が置かれ、そこを攻略することでこのダンジョンは幕を閉じる。
なお、第九圏においては、割り当てりた罪を攻略することによって移動することが出来るが、そこで第九圏を何とか攻略したとしても、ほかの罪が攻略されていない場合は閉じ込められる。
具体例を出すと、一人で攻略を試みた場合。
第三圏の罪にその者が送られたとしよう。
彼はその罪に打ち勝ち、見事勝利を収める。
すると、第九圏への道が開かれる。彼は先に進まなければならず、第九圏の罪へと足を踏み入れた。
そして、そこでも勝利を収めたのする。
しかし、それではダンジョンの攻略には至らない。
残りの七つの罪を彼ら攻略しなくてはならないのだが、それは不可能だ。罪はその場所に送らず、永久にダンジョンの中に閉じ込められる。
9つ目の罪に行けるのだから、最低人数は8人では無いのか?
否、最初から第九圏に送られた場合、ひとつだけ罪が残る。
よって九人による攻略は必須。さらに言えば、その罪を乗り越えることができるだけの力を持った9人が必要なのである。
「フォッフォッフォ。はぐれたのぉ」
第一圏“辺獄”。上泉吾郎。
「あら?急に飛ばされたかと思ったら、私一人になってしまったわねん」
第二圏“愛欲”。マリー・ローズ・ゴリアテ。
「みんなとはぐれちゃった。ダンジョンのギミックかな?ともかく、みんなとの合流を目指すべきだね?これ」
第三圏“貪食”。リーズヘルト・グリニア。
「困ったな。みんなとはぐれた。兵隊を呼び出して周囲の警戒をするべきか。チッこんなことなら、グレイお兄ちゃんとリーズヘルトお姉ちゃんに手を繋いでもらえばよかったな」
第四圏“貪欲”。アリカ・シュトラトス。
「全員との連絡がつきませんね。強制的な転移?そう考えると、合流地点があると思われるのですが........」
第五圏“憤怒”。レミヤ(自律型魔導人形No.038)。
「おいおい。どこだよここ。そしてあちぃ。ナーちゃん、スーちゃんいる?」
「ナー!!」
(ポヨン)
「良かった。いるみたい。ピギーはいつも一緒だから、問題ないか」
「ピギー!!」
第六圏“異端”。グレイ(&ナーちゃん、スーちゃん、ピギー)。
「チッ、はぐれた。どこだよここ。真っ赤な趣味の悪い川があるのは分かるが、センスがないな」
第七圏“暴力”。ジルハード・ゴリレフ。
「はぐれた........やばいっすね。俺一人だと普通に死ぬんですけど」
第八圏“悪意”。レイズ・アッカダモン。
「さ、寒すぎます........ところで皆さんどこに消えたのでしょうか?はぐれたってことでしょうけど、普通に困るんですけど」
第九圏“裏切”。ミルラ・ルベルストン。
それぞれがそれぞれの罪と向き合う時間である。
地獄は、罪の重さを図り、そのものにふさわしい罰を与える。
が、その罪が必ずしも罪人を殺すとは限らない。
9つの罪と9つの罰。
罪が勝つか、罰が勝つか。
この世界の戦いが今始まる。
後書き。
これがやりたかった。いいよね、一人一人が別々の敵と戦うの(敵=罰)。
このダンジョン、想像以上のクソゲーです。九人必要だし、初見殺ししかないゴミ。単純に強いからと言うよりは、あまりにも初見殺しすぎる。
エルフの王倒したら一応クリア扱いされる世界樹のダンジョンを見習ってどうぞ。
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