死体


 デートをみんなで覗いていたことがレイズにバレ、五大ダンジョンのど真ん中で正座させられて怒られると言う珍事を引き起こした俺達は、それから2週間ほど移動に費やした。


 結局、普通に移動していてはあまりにも遅いという事で、爺さんに森をぶった切って貰ってからローズが拳で道を切り開き、台車にみんなで乗って移動するという手法が取られる。


 レミヤは疲れ知らずの機械であり、俺たち全員を載せて楽々飛んでくれるぐらいには凄かった。


 と言うか、足を車のような車輪に変形させて背中からジェット機のように噴射しながら移動できるとか初めて知ったわ。


 アイアンマンという名はレミヤの方がふさわしいのかもしれない。


 おい、ジルハード。その名前を返却してレミヤにくれてやれ。


 そんなこんなありながら、俺達は普通に歩くよりも凄まじい速度で移動を続け、アマゾン川より少し手前の辺りまでやってきていた。


「これ、ボスが居なかったら終わってたな。人が一人で持ち込める食料や水はそんなに多くない。常に警戒をし続けながら、襲ってくる蛇と蜂を対処しつつ歩いて次の場所に使うのはあまりにも難易度が高いぞ」

「でかくて広く、そして定期的な物資の補給が見込めない。それだけでかなりの脅威だ。グレイお兄ちゃんが居なかったらと考えるとゾッとするな」

「もし物資が補給できていたとしても、サバイバルできていたとしても、絶対に迷うでしょうしね。これだけの樹海ともなれば、方向感覚だって失われます。私達にはレミヤさんが居るから何とかなってますが、思っている以上に凶悪なダンジョンですよこれは」


 移動を一旦中止し、昼飯を食べる俺達。


 干し肉だけは大量に持ち込んでいるので、後はそれを調理して俺が食料を出せばあら不思議。


 ダンジョンの中でそこそこ豪華なサンドイッチが食べられる。


 だからこそ、皆このダンジョンの厄介さを理解していた。


 あまりにも広く、そしてあまりにもやってくることがえげつない。


 魔物は正直、そこまで強くはないだろう。


 いや、俺がタイマンしたら多分普通に負けるのだが、このダンジョンに挑む奴からすればという話だ。


 しかし、恐ろしいのはその広大さとイヤらしさ。


 まず、バカ広い。


 広いということは、それだけ移動をしなくてはならない。そして、移動が多くなるということは早期の攻略が難しくなるということ。


 レミヤのように食事を不要とする身体でも無い限り、俺たち人間は生命活動のために何かを食べて飲まなければならないのだ。


 最初は持ち込んだ食料で事足りる。だが、持ち込んだ食料が無くなればどうか?


 どこからか調達しなければならない。


 魔物を食べればいいじゃないかと言う案も浮かぶだろうが、ここがこのダンジョンの嫌らしいところだ。


 俺たちの敵として立ち塞がる蛇と蜂の魔物。実は体内にも人間からはどもう毒となる成分が検出されており、普通に食えないのである。


 というか、食ったら死ぬ。


 アリカのような天才ちゃんが解毒剤を用意するか、リィズのようにそもそも毒が効かないような体質でなければ、食べられない。


 さらに言えば、水も汚染されて飲めないのだ。


 これらのことから、物資の補給は絶望的。


 あまりにもやってる事がエグすぎる。


 ........そういえば、黙示録のダンジョンも似たような構図だったな。


 水も食料も確保できないから、結果的に俺の能力で全て何とかした気がするわ。


「そりゃこの時点で適正のないハンターは死ぬわな。生存に特化した、もしくは何らかの手段で毒を無効化できるやつじゃないとそもそも挑めないんだから」

「こうやって大人数で挑む場合は、ボスのような能力が必要になっちまうな。やっぱり無人島にひとつ持って行けるならボス一択だわ。会話の相手にもなるし、遊び相手にもなるし、何よりサバイバル要素が全部無くなる。最強か?」

「サバイバルという点においては、ボスの右に出る能力者は居ないっすからね。そもそも、複数のものを具現化できるって時点で超貴重な存在なんすよ。まぁ、俺がこの能力を貰ったからと言って、使えるとは思えませんが」

「パン屋を開くぐらいしか思いつかないわねん」


 サバイバルという点においては、俺の能力は最適である。


 ある程度のものは出せるし、生存に必要な水と食料をだせるのはあまりにも貴重だ。


 そう考えると、俺能力は恵まれている。だが、火力が........火力が足りないよ。


 そんなこんなで昼食を終え、俺達は再度移動を開始。


 しばらくレミヤを応援していると、ピタリとレミヤが止まる。


「どうした?何か見つけたのか?」

「........死体があります。どうやら、骨だけが残った死体が」

「どこに?」

「三時の方向、丁度運良くお爺さんとローズさんの一撃を避けた死体です。調べますか?」

「リビングデッドじゃなければ調べよう。なにか情報があるかもしれん」


 いつの死体かは分からないが、どうやら先人の残してくれたものらしい。


 ならば、調べてみるとしよう。


 この時はまさか、身内の関係者だとは俺も思うはずがなかったのであった。




【リビングデッド】

 死後、再び活動を始めた死体のこと。有名なのだと、某HA☆NA☆SEなカードゲームの“リビングデッドの呼び声”などだろう。ちなみに、余談だが、リビングデッドの呼び声は蘇生したモンスターが“破壊”以外の方法で場から離れると残り続ける。

 難しいよコンマイ語。そりゃ最強サイクロンが出来上がるわけだ。




 五大ダンジョンに残された死体。


 俺達はもしかしたら有益な情報を得られるかもしれないとして、死体漁りをすることにした。


 日記とか書いていてくれると有難いんだが........そんなことを思いながら骸骨となった死体と向き合う。


「骨が毒によって侵食されている。おそらくだが、食料に困って魔物を食ったんだろうな。もしくはほかの原因で死んだ後、魔物に食われて毒が回ったか。そのどちらかだ」

「アリカ、本当に万能だな。検死までできるだなんて。就職先には困らなさそうだ」

「ボス。このロリータはかつて大企業に務めていた天才児だぞ。俺達とは違って、真面目に就職して働いてたんだからな」

「やめてジルハード。何気ない事実が1番傷つく」


 アリカは元大企業勤めのエリートちゃんなのだ。生まれてこの方、裏稼業しか経験してこなかった俺達とは訳が違う。


 大体みんな後暗い経歴を持っているからな。真っ白な経歴を持っているのはレイズぐらいかもしれない。


 一応あいつ、軍人の中でもエリートだったし、やってることは真っ黒でも公務員扱いだったし。


 あれ?そう考えるとレイズっていうかなりの優良物件だな。やはりカルマの目に狂いは無かったのか。早く結婚しろ。


 そんなことを思いながら、死体が残したバックパックの中を漁る。


 すると、そこから出てきたのは一枚の写真であった。


 ........この人にも家族とか居たのだろう。どのような経緯でやってきたのかは知らないが、せめて安らかに眠ってくれ。


 と、そんなことを思っていた時であった。


「あら?お父様じゃない。こんな所で死んでたのねん」


 サラッととんでもない爆弾発言が落ちてくる。


 多分、この瞬間は地球のどこかに核が落ちてきた時よりも緊迫した空気になったと思う。


 ローズが俺達の組織に入った理由は、父親を探すため。


 その父親がこんな所で死体で見つかったとなれば、言葉を失っても無理はない。


「ボス、ちょっと見せてもらえるかしらん?」

「あ、あぁ」


 俺は見間違いであって欲しいと思いながら、ローズに一枚の写真を渡す。


 ローズはそれを懐かしそうに眺めると、ペッと死体に唾を吐きかけた。


「ペッ!!お母様を残して勝手に死にやがってこのクソ親父が。死体だから殴れないじゃない」

「........あー、ローズ?彼が?」

「こんな写真を持っているのは私達の父ぐらいしかいないわよ。ようやく見つけて殴れるかと思ったら、こんな骸骨になっていたとはねん」


 こんな反応に困る態度を取られるぐらいなら、悲しんでくれた方がマシだ。


 そう思うぐらいには、ローズはその死体に対して敵意が溢れている。


 まぁ、家族をほったらかしてあちこちに行っていたような人だったらしいし、仕方がないと言えば仕方がないのかもしれない。


 でも、そのローズと話す俺達が気まずいのは言うまでもない。


 勘弁してくれ。頼むから。


「ありがとうボス。これで正式にお兄様が道場の跡を継げるわん」

「お、おう。とりあえず、探し物が見つかって何よりだ。それよりも、大丈夫か?」

「あら、私が肉親の死を見て悲しむと思ったの?お母様ならばともかく、クソ親父のために流す涙はないわよん。それに、悪魔の国のダンジョンで姿を見つけたという時点で、どこかで野垂れ死んでいたと言う想定はしていたわん。グレイちゃんでも無い限り、こんな場所で生きて帰ってくるよりも死ぬ可能性の方が高いもの」

「そ、そうか」


 至って、至っていつも通りのローズである。


 俺も流石に反応に困るよ。下手に何か言ったら地雷を踏むことになりそうで怖い。


 だから、俺はそれ以上何も言わなかった。


 いつもは空気が読めない仲間たちも、この時ばかりは無言を貫く。


「微妙な空気にさせてしまったわねん。でも心配しないで。お母様ならば咽び泣いていたでしょうけど、お父様相手に泣く涙は持ち合わせてないのよん」

「........そうか。なら骨だけ拾って先に行くとしよう。火葬ぐらいはしてやれ。ローズをこの世界に産み落としてくれなかったら、俺達と出会えなかったわけだしな。クソ親父とは言えど、その功績は認めてやれよ」

「そうねん。そのぐらいはしてあげましょう。借りにも父親なのだしねん」


 俺はナーちゃんに頼んで死体を回収してもらうと、再びその死体のあった場所に手を合わせる。


 顔も知らない父親よ。あなたが残した宝のおかげで俺は生きている。


 どうか、せめて安らかに眠っていてくれ。


 その時まで、そちらの子供はウチで面倒見ておくよ。





 後書き。

 五大ダンジョンを巡ってたんだから、そりゃ死ぬよ。どっかのサバイバル特化のヤベー奴でも居ない限り。

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