デートの覗き


 レイズがカルマとデートする。


 それを聞いて、俺達の様な人間性が終わっているヤツらが食いつかないはずもない。


 過去に何度かデートをしているのは知っているが、その時はみんな集まってない時が殆ど。


 俺も忙しい時が多く、デートを覗くことは無かった。


 しかし、今は休憩中で仕事は無く、しかも全員揃っている。


 何をするのかなんて、もう決定的だろう。


 覗きだよ覗き。


 詐欺師が本気でカルマ王とデートしているのか確かめる(と言う名分の元、俺たちが楽しみたい)のだ。


 俺達はこの国でもかなりの有名人。普通の格好だとバレるので爆速で変装用の服を着る。


 オフで街に遊びに行く時はいつも変装しているので、その服を着れば大丈夫。


 なんならカツラすら用意してあるから、バレることなんて万が一にもない。というか、別にバレても特に気にしないので。


 握手とかサインとか求めてこなければ問題ないのだ。


 そして、我が国民達はみんな割と空気が読める。レイズとカルマがデートしているところに俺達がいたら、何となく察してくれるだろう。


 あぁ、覗きしてんだなって。


「よし行くぞ」

「レッツゴー!!」

「人様のプライベートを覗くだなんて、やってることがマスゴミと一緒だな。だが、正直楽しいからいいか」

「普段は結構真面目なレイズがどんな顔でかの堅物ダークエルフと会っているのか気になるしな」

「フォッフォッフォ。若い者たちの逢瀬を見るのも悪くないのぉ。絶対ワシ、生き返るわ」

「楽しみねん。久々に肌が潤いそうだわん」

「私はそこまで興味ありませんが、皆さんに合わせます。えぇ、決して興味なんてありませんよ」

「録画の準備はバッチリです。結婚式の時に流す映像の編集はおまかせを」


 レミヤ?既に結婚前提の話をするのはやめよう。それは間違いなく地雷だからね。俺も結婚して欲しいとは思うけども。


 別れた時とかどないすんねんという思いを持ちつつも、やはりくっついて欲しい。


 異種族による結婚をすることで他の人達も種族の壁を越えて結婚しやすくなるという建前はどうでもいいから、幸せになれよ。


 はよ!!はよ!!


 こんなイカれた世界の数少ない楽しみなのだ。人様の恋の味を俺達にも味あわせてくれ!!


 という訳で、追跡開始。


 今回はガチで尾行するために、4チームに別れて無線機で連絡を取り合いながらレイズを追う。


 さらにはナーちゃんの影の力を使って限界まで存在感を消すのだ。尚、ナーちゃんも割とノリノリだった。


 ナーちゃん、あんまりレイズには懐いてないけど、こういう時のノリの良さは異常だな。


「んじゃ、状況開始!!」


 こうして、平和なバカ騒ぎが始まった。


 もちろん、全員に双眼鏡を配布したさ。心ゆくまで覗きしようぜ!!



 ──────────



 というわけで始まったレイズの尾行。


 今回はダンジョンの中ではなく、日本帝国本土でのデートらしい。


 急速に発展を遂げるこの国では、現在様々な店出てきている。


 デートスポットとしては悪くないだろう。それに最近できたばかりの遊園地とかもあるしな。


「カルマ発見。レイズと接触しているな」

「んー、なんて言ってるのか分からないねぇ。あーこちらリーズヘルト。レイズ達の会話が聞きたいんだけどどうしたらいい?オーバー」

『レイズがデートに行くと聞いた時に仕込んだ盗聴器から声が聞けるはずなので、携帯から聞いてください。アプリを送ったのでオーバー』


 レイズ達のデートを見るにあたって、声が聞けないことに気がついた俺達。


 しかし、こういう時は何故か有能なポンコツメイドが既に盗聴器を仕掛けていたらしい。


 携帯に送られてきたアプリをインストールし、俺達はその会話を聴き始めた。


「すいませんお待たせしました」

「........ん。1時間以上も待たされたぞ?仕事だったのか?」

「はい。流石に皆さんが仕事している中で自分だけ抜ける訳にも行かず........いえ、ボスに言えばよかったですね。俺のミスです。すいません」

「まぁ、いい。私も仕事が忙しくてレイズとの予定をキャンセルしてしまった事もあったからな。お互い様だ」


 お?てっきりレイズが怒られるのかと思ったが、そこまでカルマは怒ってないようだ。


 まぁ、カルマも結構忙しいからね。元王の仕事量は半端じゃないのだ。


 それでも王の頃よりはマシになったらしいけど。


 後、レイズが下手に言い訳せずに自分が悪いと認めたのも良かったかもな。後で俺のところに小言が来るのはほぼ確定だけど。


「いい感じだねぇ」

「そうだな。お、移動するぞ」


 最初はどこに行くのかな?


 そう思いながら後を追うと、服屋さんにやってきていた。


 初っ端から服屋かぁ........これは長くなるかもしれんぞ。


 女の買い物はとにかく長い。もうこれでもかと言うほどに長い。


 しかも、それで“いいものがなかった”とか言って何も買わないんだから野郎からしたらかなりキツイ。


 俺も暇な時はリィズの買い物に付き合ったりするが、リィズはそこら辺割と雑で“んーこれでいいや”とか言って買い物は10分ぐらいで終わる。


 俺よりも買い物が早いからねリィズ。決断力が高すぎる。


 さて、カルマはどうなのかなーと思いながら俺達は後を追った。


「あれ?グレイさん?」


 服屋に入ると、俺の変装を見抜いてきた店主が首を傾げる。


 そう。実はこの服屋。この変装用の服を買った場所でもあるのだ。ダークエルフの店主とはそこそこ仲が良く、よってあっさりバレる。


 俺は“シー”と人差し指を立てて口に合わせると、そのままレイズとカルマの方を指さしてジェスチャーで伝えたいことを伝える。


“俺達、今、尾行中、デート、覗き見。おk?”

“おk、普通の客として、扱うよろし”


 話が早い。


 俺がこの店の店主と仲がいいのは、こういう時にちゃんと乗ってくれるからである。


 今後ともご贔屓に。またスーツがダメになったら発注するからね。


 という訳で尾行再開。


 ちなみに、今回は俺達だけが店に入り、ほかのみんなは外で待機である。


 ちゃんと移動中に隠し撮り用の小型カメラもレミヤから受けとっているので、中で何が起きたのかをみんなで鑑賞する準備はバッチリだ。


「これとか似合いそうじゃないですか?」

「そ、そうか?私に似合うのかこれ」

「いやいや。カルマなら似合いますよ」

「そ、そこまで言うなら試着してみる........」


 おぉう。あのカルマが。俺に喧嘩を売ってきていたカルマが。


 レイズに“この服似合いそう”って言われてすげぇ照れてる。


 なんだあのダークエルフ。めっちゃ可愛いぞ。


 初期のThe、女王みたいな雰囲気はどこへ行ったんだよ。これじゃただただ恋する乙女じゃないか。


 だがそれでいい。それがいい!!


 普段凛とした人が、好きな人の前でデレるのすごくいい!!


 このままだと厄介カプ厨になってしまいそうだ。レイ×カル尊いとか言い始める。


 尚、リィズも珍しくかなり興奮気味で“カルマ可愛い!!”とはしゃいでいた。


 カルマちゃん可愛い!!もっとその可愛い笑顔を見せて!!


 恋する乙女は可愛くなる。これ、世界の真理。


「ど、どうだ?」

「すごい似合ってますよ!!」

「そ、そうか?あまりこういうカジュアルな服は着ないから、ちょっと恥ずかしさが出るな........」


 ちなみに、今回カルマちゃんが着た服は、ジーパンとシャツ(2枚)。


 普段から王としての威厳を保つためにカッチョイイ服を着ていたカルマにしては、かなり庶民的な服である。


 しっかし、レイズのセンスはすごいな。


 マジで似合ってるじゃん。


 さっきは貴婦人って感じだったが、これはこれで全然ありだな。というか、個人的にはこっちの方が好きである。


「スタイル良すぎない?なんかレイズには勿体なさすぎる気がしてきたんだけど」

「足は長いし、細いし、くびれもしっかりあったし........まぁ、スタイルはめちゃくちゃいいよな。確かにレイズにはもったいない気もする」

「胸も大きいし........」


 あ、あえて触れなかったのに。


 リィズは小さいからね。しょうがないね。でも、偉い人は言ってたよ“貧乳はステータス”って。


 自信を持って!!正直、俺は小さい方が好みだし。


「どうします?買います?」

「........レイズ、今後私がこの服を着ていたら嬉しいか?」

「もちろん嬉しいですよ。俺が選んだ服を着てくれるのももちろんですし、何より普通に似合ってますからね」

「なら買うとしよう。なんなら、今日はこれで過ごしてみるか」

「それはいいですね。店主さん、これください。あ、お代は俺に」

「はいよ」


 そしてサラッと服を買ってあげるイケメンムーブ。おい誰だよあいつ。俺の知ってるレイズじゃないぞ。


 俺の知ってるレイズは、野郎どもで集まると幽霊が以下にえっなのかを話し始めるド変態だったはずだぞ。


「........今度から給料増やしてやるか。俺達はほぼ金なんて使わないが、レイズは金がかかりそうだしな」

「その方がいいかもねぇ。とは言っても、かなりお金は持ってるだろうけど」


 こうして、買い物を終えたレイズとカルマは店を出ていく。


 俺達は怪しまれないように少し時間を置いて出ようとなったのだが、ここで無線が入ってきた。


『ボス!!ボス!!二人が手を繋いでますよ!!お手手繋いでます!!ふぁぁぁぁぁぁぁぁ!!カルマちゃん可愛いぃぃぃぃぃ!!』

『なんだあの可愛い生物は。レイズと手を繋いでちょっと顔を赤くしてるぞ。可愛すぎる。なぁグレイお兄ちゃん。レイズを毒殺していいか?カルマの隣は私がいい』

『フォッフォッフォ。若いのぉ........先に天へと登った妻を思い出すわい』

『おいボス、ミルラが暴走し始めてる。殴って止めていいか?』

『後でみんなで鑑賞するしかないですねこれは!!機械のはずなのに鼻血が出そうです!!』


 なんだって?!レイズとカルマが手を繋いでる?!


 そんなの見に行くしかねぇ!!


 こうして、俺達は乙女なカルマの可愛さに脳を焼かれながらレイズとカルマのデートを尾行して楽しむのであった。


 くそっ、キスしろよ!!押し倒せよ!!もっと!!もっと甘いのちょうだい!!俺たちの口から砂糖を溢れさせて!!





 後書き。

 カルマちゃんはちゃんと乙女だし、レイズはちゃんと紳士。

 なんだコイツら、はよくっつけよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る