過激派ファン


 2度目となるUSA(アメリカ)。


 えーと、最初に来た時は何してたっけ?


 CIAに追われて、アリカを虐めていたゴミともをシバいて、ギャングとやり合って、アメリカ分断されて、ディズニーが血祭りになって、サメちゃんを仲間にしたな。


 ........うん。自分でも何を言っているのかさっぱりだ。


 CIAに追われるのもヤベーし、アメリカがなんか知らん間に分断(物理)してたし、KKK見たくヤベー連中が暴れて俺がキレるしで滅茶苦茶だった。


 良かった点は、アリカの過去の因縁が終わり、サメちゃんを仲間に出来たことぐらいだろう。


 それ以外はだいたい殺しあってた気がする。


 あ、あとミルラのご両親とも会ったか。


 日本にやってきたミルラの両親は、既に小さなテーマパークを作って経営を始めている。


 とりあえずは普通のテーマパークだが、カジノ経営ずらしていた人だ。なんやかんや大きくなって、日本一のテーマパークとなるだろう。


 いや、そもそも日本にはテーマパークが1つしかないから、既に日本一か。


 尚、ミルラはその経営やらに駆り出され、こってり絞られたらしい。


“必要ならこき使ってやってください”とご両親から頭を下げられているが、流石にあんな死んだ顔をしたミルラに仕事のお願いはできないよ。


 しかも、家の手伝いはファッキン無給。可哀想である。


 アリカも流石に可哀想と思ったのか、この2週間ばかりはミルラに優しかったそうだ。


 というか、ミルラに関わる全員が優しかった。


 ナーちゃんですら優しくしてあげていたのを見るに、ミルラの顔は本当に死人同然だったと言えるだろう。


「ふふふっ、こんなにも護衛の仕事が楽しいと思える日もありません。あぁ、生きてるって素晴らしい!!」

「おい、グレイお兄ちゃん。ミルラが壊れたぞ」

「いつもの事だ気にすんな........そっとしておいてやれ。なんか見てるこっちが悲しくなってくる」


 子供はいつまでたっても子供。親に敵わないミルラは、ようやく自由の翼を手に入れたのだ。


 また国に帰ったら地獄が待っているだろうし、この仕事の間ぐらいは楽にさせてやろう。


 でも、アリカにセクハラするのは許さんからな。どさくさに紛れて胸を触ろうものなら、今度国を出る時は連れていかないぞ。


「ミルラ、本当に顔が死んでたもんねぇ。さすがに可哀想すぎて、ちょっと優しくなるぐらいには」

「あれは死人の顔だったよ。俺でも見た事がねぇ」

「普段の仕事よりも、身内がいる時の仕事の方がミルラさんにとってはキツイんでしょうね。それでもなんやかんや、やっている辺り、両親への罪滅ぼしでもあるんすかね?」

「そりゃ、一時のテンションに身も任せてハチャメチャやってたんだぞ?大きくなって多少は反省しただろうし、親孝行も考えてたんだろうよ。ミルラはアリカが絡まない限りはまともだからな」

「その一点が全てを台無しにしているという自覚を持って欲しいがな。普通にしているばかなり美人でできる奴なのに........」


 ミルラのアリカちゃん大好き病は重症だ。


 そこさえ、そこさえ何とかしてくれたら、マジで良い奴なんだけどなぁ。


 人間、どこかしら欠落している部分があるとは言うが、なぜ神は人をこんなにも不完全な状態で作ってしまったのやら。


 あのファッキン神どもめ。やはり奴らは人類の敵だ。


 そんなことを話しながら、カシャカシャとうるさいシャッター音を聞いていると、彼女が目の前に現れる。


 配信者系大統領とかいうとんでもジャンルの生みの親にして、俺と同じく一般人で大統領となってしまったちょっと可哀想な子。


「お待ちしておりました。ミスターグレイ。私の事、覚えていますか?」

「もちろん覚えておりますよ。ミズアーリ。いや、勇敢なる少女ジャンヌ・ダルクと呼んだ方がいいかな?」

「あはは!!私はかの英雄ではありませんよ。色々と巻き込まれて、知らない間に大統領になってしまった、ただの女の子です」


 アーリ・カルストフ。


 彼女とは1度しか顔を合わせたことは無いが、少なくとも俺が出会ってきた中では割とまともだと思える部類の人物。


 彼女の動画を見た事があるが、中々にファンキーで面白い子であった。


 1番再生数のある動画は、俺達が出演したあのスタンピード。


 未だにピギーについての考察がされているのは笑った。


 大半は俺の能力じゃないかという意見で締められていたが、中には“神の類では無いのか?”というほぼ正解みたいなコメントすらもあった。


 君、大正解。


 正確には、この世に存在してはならないはずのナニカである。


 で、次点で再生数が多いのは“ゴブリンチャレンジ”という動画である。


 再生回数、なんと脅威の1億超え。


 その内容は、ゴブリンだけが出てくるというなんのメリットもないダンジョンを貸切って、全力で殺し回って一日で幾らになるのかというもの。


 実は、この動画は彼女が発端となり様々な動画投稿者が真似をするようになり、結果としてその街の町興しにすらなっている。


 何が面白いかって、アーリは相当な悪食らしく、クソまずいことで有名なゴブリンの肉を丸焼きにして食っていたのだ。


 さすがの俺でもちょっと引いたね。一緒に動画を見ていたリィズもこの時ばかりは顔を顰めていた。


 ゴブリンの肉を食うぐらいならブリテンの飯を食った方がマシと言われるほどにやばいやつを、パクパク食い続ける美少女。


 絵面が強すぎる。


 そりゃ人気も出るわ。


 尚、最近も配信活動はしており、休暇が取れたからと言ってはダンジョンに潜って配信している。


 護衛のお姉さんがくそ美人であったことも相まって、オネロリの波動が世界を平和にさせていた。


 なんでこっちのオネロリは気色悪いのに、あっちは綺麗に見えるんだろうな?


 あれか?ロリが甘えるかオネが甘えるかで決まるのか?


「ミスターグレイ?」

「あ、すいません。ちょっと出会った頃を思い出しておりまして」

「ふふっ、あれは私の人生の全てを変えた出来事でした。ですが、私が今こうして生きているのはあなたのおかげです。本当にありがとうございます」

「いえいえ。誰であろうが、正しき人は報われるべきですよ。きっと、ミズアーリの行いを神が見ていたのですよ」

「........ITA(イタリア)を滅ぼしたのに?」

「あはは!!イエス・キリストが神ならば、全人類が神ですよ。俺が行っているのはそんな紛い物ではなく、もっと上にある神です。まぁ、彼らは俺達に干渉してくることは無いでしょうがね」

「?」


 おっと、話しすぎたか。


 俺はとりあえず手を差し出し、アーリと握手する。


 パシャパシャとシャッターの音がさらに煩くなり、明日の朝刊に乗る写真が決まったことだろう。


 明日は新聞を買うか。どんな書かれ方をするのか気になるし。


 こうしてら俺達は明後日に控える国連を待つのみとなった。


 あぁ、なんで一般高校生が国連の場で日本代表として行かなきゃならないんだ?


 やってられないぜ。




【ゴブリンチャレンジ】

 ゴブリンしか出てこないダンジョンで一日幾ら稼げるのかというチャレンジ。元々は破壊されそうであったダンジョンだったのだが、アーリが貸し切って行った動画が大バズり。以降、ダンジョン攻略系の配信者達の定番内容となり、未だに根強い人気がある。

 結果的に地域活性化につながり、田舎は大盛況。今ではアーリの硬い支持層となっておりなぜか選挙の役に立つという事例が起きている。




 グレイ達を案内したアーリは自分の家に帰ってきていた。


 基本はホワイトハウスで生活するのだが、彼女にだってたまには本来の家に帰ることが許されている。


 もちろん、護衛はつけられているが、彼女たちが入れるのはリビングまでだ。


「はぁぁぁぁぁぁぁ!!グレイ様と握手しちゃった!!この手は絶対に洗えない!!」


 そして、完全防音となっているアーリの部屋。そこではアーリが悶え苦しんでいた。


「やっぱりグレイ様は神!!私を救ってくださっただけでなく、私のことを覚えてくれているだなんて!!マジで神!!やはり神は存在するんだわ!!」


 グレイによって人生の色々を変えられてしまったアーリだが、彼女はグレイを恨んでいる事はない。


 むしろ、心酔していた。


 無理もない話だ。死に間際に助けられた。それだけで人は恩を感じるものである。


 結果─────


「グレイ様グレイ様グレイ様!!あぁ!!最っ高!!写真で見るグレイ様もいいけど、やっぱり生のグレイ様が1番!!」


 とんでもない厄介ファンができてしまったのである。


 彼女の部屋には大量のグレイの写真。そして、自作のグッズ。抱き枕さえも作っているのだ。


 一応言っておくが、彼女はグレイに対して恋愛感情を持っていたりはしない。


 愛ではなく崇拝なのだ。


 なので、子供が欲しいとかそういう思考にはならない。恋人がいようと、妻がいようと、神への崇拝が終わることは無いだろう。


「これでマスコミがグレイ様のことを悪く書いたらその新聞社には徹底的に圧力をかけよう。後、ネットでグレイ様の悪口を書いてるやつは殺す。この時のためのコミュニティなんだから!!」


 そして、彼女は全世界に存在するグレイファン達を纏めるファンクラブの会長でもある。


 国家権力を持ったやつが、一人の男のために貢ぐ(ある意味)のだ。


 この国でグレイの悪口を言えるやつはいない。


 そう。全て大統領が揉み消して挙句の果てには犯罪者となりかねないから。


「はぁ........アーリ大統領、あの心酔しきった頭がなければ可愛いんですがね........」


 もちろん、護衛はそれを知っている。


 一番のグレイの被害者は、実はこの護衛なのかもしれない。


 そして、どこぞのポンコツメイドは、その全てを知っておきながら“面白そうだから”という理由で主人には黙っているのであった。




 後書き。

 国家権力を持ったファン。よくよく考えなくてもやばくて草も生えない。

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