帰ってきたぞUSA
オオカミ大好きファック英雄王事、アーサーがこの国に来てから一週間後。
俺達は国連に向けた準備を進めていた。
今回俺を招待してくれたのは、USA(アメリカ)大統領アーリ・カルストフ。
俺達がUSA(アメリカ)旅行に行っていた時に出会った、あの動画配信者だ。
確か、ポートランドにいた時に起きたダンジョンスタンピードで助けたことがあったはず。
実力はそこまでだが、市民が逃げる時間を稼いでいたいい子だった。
あれがあるべきハンターの姿だよ。国民の為に、彼らは魔物と戦う盾となるのだ。
まぁ、彼女は俺達との繋がりを疑われ、CIAに拘束された挙句、それが生配信されて大炎上(国家が)。
政治家達への怒りが爆発したUSAでは各地でデモが巻き起こり、気がつけばアーリは神輿に担がれていた。
USA(アメリカ)革命の象徴。
そう呼ばれた彼女は次の選挙で出馬もしていないはずなのに圧倒的な得票数を集め、これが民意だとして大統領の座に着いてしまうという前代未聞の大珍事を引きこ起こしている。
配信者大統領。
そんなふうに呼ばれるのも仕方がない。
どちらの党にも属さず、それでいながら大統領となった彼女は明らかに生贄の羊であったはず。
しかし、そこで巻き起こった第三次世界大戦。
アーリ大統領は思わぬ采配を発揮し、多少軍に被害が出てもMEX(メキシコ)を完全に破壊した。
俺達が暴れたお陰でアメリカ国民は、MEX(メキシコ)に対してかなりの憎悪を持っていた。
そんな時に憎き敵を破壊し尽くした彼女は、紛れもない正義だっただろう。
お陰で今となっては老害以外は彼女に肯定的だ。下手に楯突くよりも、大人しくしておいた方が結果的に被害は少ないと言える。
そんな彼女が、俺に招待状を送ってきたのだ。
なんと言うか、似た境遇を持っているから俺は勝手に親近感を覚えていたりする。
大変だよな。何も知らないただの一般人が国のトップをやるのは。
正直、恨まれていても仕方がないとすら思っている。だって大統領になった原因、俺だからね。
「フェル〜こっちおいでー」
「クゥン!!」
そんな彼女に呼ばれた国連で、俺はどのように立ち回るべきなのかと考えながら書類を整理していると、俺の部屋に入り浸っているこのファッキン英雄野郎は恋人とイチャイチャし始める。
なぁ、殴っていいか?こいつ殴っても許されるか?
人が仕事してる目の前で遊んでんじゃねぇよ。ぶっ飛ばすぞこのファッキンクソッタレが。
「おいアーサー。いつまで部屋にいるんだよ」
「ん?いや、だって僕一応君の護衛として来てるから。部屋にいた方が対処できるでしょ?」
「寝言は寝てから言え。出来れば永眠してからほざけ。この国にいる限りは俺は完全なんだよ。この国における神様が俺を守ってるからな」
「神様?グレイ、いつから敬虔な信徒になったのさ?」
「俺は神なんざ信じない。だが、俺を守ってくれる健気な神様は信じている。なぁ?精霊ちゃん。そこにいるんだろ?」
俺が部屋の隅に向かって話しかけると、精霊ちゃんは“見つかっちゃった!!”と言わんばかりにぴょん!!と飛び出して俺の元へとやってくる。
世界樹の分身にして、この国における守護者の世界樹。
この子はこの国にいる間はいつだって俺の護衛をしてくれる。だから、この国の中では護衛をつけてないんだしな。
俺はいつもありがとねという意味を込めて、精霊ちゃんの頭を撫でた。
精霊ちゃんは嬉しそうにふよふよと飛ぶと、俺の手を堪能する。
また今度、世界樹本体の所に遊びに行ってやるか。
ナーちゃんとも仲がいいので、遊ばせてやろう。
「あー、確か世界樹の精霊だっけ?そうか。この国における神様はちゃんと人に利益をもたらしてくれる神だったね」
「名ばかりの人の手によって作られた神じゃないんだよ。ほら、跪け。神のお成りだぞ」
「─────」
ノリノリで“頭が高い!!”とやってくれる精霊ちゃん。
精霊ちゃんはいつもノリがいいから好きだよ。世界樹にも言えることだが、かなりノリが良くて楽しい。
それでいながら、普段は優しく見守っているだけだしな。
ちなみに、世界樹は様々な恩恵を齎しているが更には働いていてくれたりする。
学校のイジメにおける問題についてどうしようか悩んだ挙句、世界樹に子供達を監視してもらう事にしたのだ。
この国では、子供によく“悪いことをしたら世界樹様の天罰が下る”と教えられており、それならいっその事本当にしてしまおうということにしたのである。
子供達が世界樹の偉大さを知る機会にもなるし、それで正しく育ってくれれば結果的に世界樹を守ってくれる。
今の今まで動こうともしなかった世界樹だが、俺がお願いしたら秒で承諾してくれた。
世界樹、チョロい。
そんな訳で、学校のいじめ問題は解決している。
ちなみに、10人ほど軍学校に送られており、二度と悪いことをしたいとは思えない程にしごかれているだろう。
なお、軍学校でもいじめをやった場合は、即牢屋にぶち込まれる。
子供だから?まだ若い命だから?
知るか。まだ先が長いからこそ、悪いことに対しての罰が辛いということを知らなければならないのである。
拘留期間は二ヶ月。軍学校の時はまだ犯罪者として扱わないようにしているが、拘留された時点で犯罪者となり犯罪者用の施設にぶち込まれる。
ここまでやってダメだったら、もうそれは救いようがない。
子供だろうが、未来に悪影響しか及ぼさないので、生かす価値がないのだ。
この国、昔のエルフ達の法律をそのまま流用していることが多いから、割と死刑が軽い。
殺人をしたら即死刑だし、なんども軽犯罪を繰り返すのも死刑。
“お前、死刑な”が割と簡単に通る国なのだ。正直、これだけは見直す必要がありそうな気もするが、これだけ気軽に死刑にできるからこそ治安が保たれている面もある。
酒に酔っ払って殴り合いするぐらいでギャーギャー騒いでいられるのも、この死刑の軽さにあるのかもしれない。
まぁ、結局のところ悪いことをしなければいいだけだしな。本当に何も知らず犯罪に手を染めてしまっていた場合なんかはかなり、優しい対処が取られるし。
犯罪者には厳しく行こうぜ。
それで言ったら俺は、何回死刑になるのか分からないぐらいこの世界で犯罪しまくっているが。
っと、話が逸れた。今は精霊ちゃんが可愛いことを布教する時間だった。
「可愛いだろ?」
「んー、緑色の光ということしか僕には分からないんだけど、グレイには違った姿が見えるの?」
「いや?緑色の光だけど?ほら、光の揺れ方とか動きで嬉しいとか楽しいが伝わるじゃん?」
「いや、無理だよ?グレイ、君が当たり前のようにやっていることが、全人類にできると思わないことだよ。君の数少ない悪い癖さ」
「流石に魔物の言葉を分かれとは言ってないんだ。何となく嬉しいとか楽しいぐらいはわかるだろ?悲しいとか」
「それは........まぁ、分かるかな。僕もフェルの言葉は分からないけど言いたいことは何となくわかるし」
「それと一緒だ。で、その感情を表す時の仕草が可愛くないか?って言ってんだ」
「ごめん、流石に光だけの存在を可愛いとは思えないかも」
「──────!!」
あ、精霊ちゃんが怒ってる。
私は可愛いだろ!!って。
本心は多分なんとも思ってないが、ノリでキレてそう。精霊ちゃんはノリがいい。
「この国の神様を怒らせたぞ」
「おっとそれはまずいね。えーと、ドゲザ?だったっけ?それで許してもらえるかな?」
「聖剣くれたら許すって」
「絶対いってないでしょそれ」
こうして、俺は数少ない友人との会話を楽しむのであった。
仲間達とは違った、気を使わない相手。
アーサーは俺にとってかなり貴重な友人なんだよな........狼相手に腰振ってるヤベー奴だけど。
なんで俺の周りにはこんな奴しかいないんだ?
【軍学校】
更生施設。イジメ問題を起こした子供達をぶち込んで、性格を叩き直すための学校。もちろん、初めから軍人になるつもりの生徒も通える。
問題児クラスと普通クラスに別れており、軍学校内部でもいじめが発覚した場合は問題児クラスに入れられる。そこでも更生しなかったら、牢屋行き。更にそこでも更生しなかったら、救いがないので死刑。
イジメは犯罪だからね。酒を飲んで酔っ払ったおっさん達が殴り合うのとはまた違う。
今のところ牢屋行きになったやつはいない。軍学校が厳しすぎて、子供たちは二度といじめをしたくなくなるという。
もちろん、初めから入ってきている人達には優しい。
更に1週間後。
俺達はUSA(アメリカ)ニューヨーク・マンハッタン島にやってきていた。
今回はちゃんと招待された側なので、堂々と入国である。
あれ?ちゃんと正規のルートで国に入ったのって何気に初めてじゃね?
大抵の場合は密入国だったからなぁ。偽造パスポートを使うか、上空からスカイダイビングするか、山を超えるかのどれかだったと思う。
もしかして、俺、とんでもない犯罪をしまくっているのでは?
今更ながら俺の犯罪歴がとんでもない事になっている事に気が付きつつ、ブリテンが手配してくれた飛行機を降りると、そこには大量のマスメディアが待ち構えていた。
もちろん、安全のために相当離れた位置にいるのだが、数が多すぎる。
俺達が今回の国連に参加することは既に全世界に知らされており、世界のおさがわせ者がどんなやつなのか人目見たいのだろう。
勘弁してくれ。俺はパパラッチされる趣味はないんだ。
「セレブにでもなった気分だ。クソみたいな気分だな」
「全くだ。世のセレブ達を尊敬するよ。頼むから死んでくれ」
あぁ、既に帰りたくなってきたぞ。
俺はそう思いながらも、あることを思いつく。
ここでアリカの可愛さを全世界に知らしめれば、アリカちゃんのファンが増えるのでは?
........いや、やめておこう。アリカにマジで嫌われそうだし。
後書き。
アメリカ「帰ってこないで」
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