お前は暇なんか?


 国際連合に呼ばれた。それはすなわち、国際連合の連中が日本帝国を一国家として認めていると言う証明である。


 元々、どこかの国に属していた訳でも無く、本来あったはずの国を解放して再建したのだ。


 台湾と中国のように、何か軋轢がある訳では無い。


 そして、この世界の常任理事国はかなり様変わりしている。


 USA(アメリカ)に、FR(フランス)、EGY(エジプト)はもちろん、みんな大好きブリカスことブリテン、そして俺達とほぼ関わりは無いが経済的にはかなり裕福なスペインが常任理事国として存在している。


 まぁFR(フランス)くんは消し飛んだけどね。エンシェントドラゴンとかいうヤベー奴によって。


 そして、この顔ぶれを見てもらえれば分かるが、常任理事国にアジア圏の国はない。


 一応中国が非常任理事国としての地位を持っていたが、はっきり言って相手にされてなかった。


 そう。この世界ではアジアの力が弱いのだ。


 前の地球で言うアフリカ諸国並に力がない。


 第一次ダンジョン戦争時に日本が勝っていたら、希望はあったことだろう。


 しかし、中国も日本もかなりの力を失って国際的には弱者の立場に置かれたのだ。


 仕方がないと言えば仕方が無いが、今の日本帝国からすれば面倒なことこの上ない。


 第三次世界大戦勃発時にろくに仕事もせず、挙句の果てには常任理事国が紛争を裏で引き起こしていたりしているというこの世の中。


 正直行くだけ意味が無い気もするが、日本帝国が正式に国家として認められる事にはメリットがある。


 主に、貿易面で。


 現在、日本帝国はブリテンとPOL(ポーランド)のみに対してものを売りつけ、買っている。


 その取引先が増えてくれるのはありがたい。もちろん、世界樹の葉をそう簡単に出回らせるつもりは無いが、日本帝国では他にも売れるものは沢山あるのだ。


 エルフのつくる薬とか、ドワーフの武器とか。


 とくにドワーフの武器は質がいいのか、ブリテンやPOL(ポーランド)からも評価が高い。


 銃器がものを言う世界だが、この世界ではハンター達に向けた武器の製造もあるのでそっちで金が稼げるのである。


 鉄の剣1つが数万ゴールドで売れるのだ。貿易ちょろい。


 最近ではDEU(ドイツ)も取引したいと言ってきているし、いいタイミングと言える。


 問題は、その国際連合がある場所がUSA(アメリカ)だということぐらいか。


 俺、あの国で好き勝手やりすぎてかなりの有名人になってるんだけど。


 レミヤから聞いた話だけでも、全世界からかけられている懸賞金が80億ゴールドを超えそうなんだけど。


 海賊王を超えちゃったよ。ひとつなぎの大秘宝を見つける前にとんでもない事になってるよ。


 そんなわけで、命の危機を感じているのだ。いつもの事だけど。


「........で、なんでお前はここにいるの?」

「ん?いやー、ITA(イタリア)を滅ぼしたキリスト教の敵の顔が見たくなってね」

「暇なのかこのファック野郎。狼相手に腰を振るので忙しいんじゃないのか?」

「あはは!!それは忙しい。フェルと仲良くやって行けるのは楽しいよ。いつも愛し合ってる」

「クゥーン」


 で、そんなどうしようか迷っている中で暇人英雄はやってきた。


 愛しの狼ちゃんの顎を撫で、ニヤニヤと俺を見る。


 英雄王アーサー。


 こいつ、気がつくとうちの国にいるんだけど、お前なんでいるん?


 暇なの?暇人なの?


「仕事はどうしたんだよ。英雄王様は呑気でいいな?暇そうで羨ましいよ」

「僕も忙しいんだよ?こう見えて。後、これも仕事だからね?」

「なんだ?観光が仕事とは羨ましいな」

「いやいや、グレイ?君がこの世界においてどれだけ重要な人物なのか理解してる?君との友好を深めることも仕事になってるんだよ。僕は特に君と仲がいいからね」

「ご機嫌取りが仕事か。英雄王様も格が落ちるな」

「あはは!!君を相手に落ちる格なんてないよ!!むしろ、僕の格が上がるさ!!」

「なんでだよ」


 アーサー、俺のご機嫌取りも仕事だったのか。


 通りでよくうちの国にやってくるわけだ。


 それだけブリテンは俺を警戒しているのか、それとも世界樹の葉をそれだけ欲しがっているのか。


 理由は分からないがともかく、アーサーはご機嫌取りが仕事らしい。


 人類の英雄と呼ばれた人物が悲しいものだ。いや、アーサーなら英雄扱いされないここは心地がいいから喜んで行くだろう。


 ここでアーサーを英雄と呼ぶやつは一人もいない。


 この国において、英雄は俺なのだ。クソありがたいことにな。


「で、ご機嫌取りだけが仕事じゃないんだろ?何しに来た」

「お、鋭いね。今回、グレイには招待状が送られたでしょ?」

「国連の?」

「そうそう。国連の。グレイは世界中からラブコールが飛んどくるほどに人気者だからね。僕はこの護衛として派遣されたんだよ。まぁ、ブリテンは君と仲がいいですよっていうアピールがしたいってことだね」

「なんだ?ブリテンは全世界を敵に回す趣味であるのか。俺達が世界でなんて呼ばれてるのか知ってるだろ」

「いや?意外と君たちは嫌われてないよ?そりゃ、被害を直接こうむった国は、君達のことを地獄の底に叩きつけて串刺しにしても満足しないぐらいには怒ってるだろうけど、外野から見ている国々は割と好印象なんだよ」

「なんでだよ」

「人類が500年かけても解放できなかった場所の解放をしたのが大きな要因じゃないかな?今、オセアニアとインド及び南アジアは、どこの国も狙ってる。今回の国連は、そのことに関する話も出るだうね」


 要は、自分たちの利益になりそうなことをしてくれたから、好きだよって言っているわけだ。


 現金な国だ。反吐が出る。


 今から攻め込んだら手のひらを返すのが分かりきっているというのに。


「まさか、五大ダンジョンが攻略されるとは思ってなかったからね。開放された土地をどうするのかなんてもちろん決めてない。今はグレイ、君の目が光っているから誰も手を出してないけど、時間が経てばあそこは紛争地帯になりかねないよ」

「........正直に言っていい?」

「どうぞ?」

「日本帝国以外の場所はぶっちゃけどうでもいい。ブリテンに全部くれてやろうか?植民地時代に逆戻りするのもアリだろ。その代わり、もう少し貿易を有利にしてもらうけど」

「あはは。それは有難いけど困るね。今度はブリテンが世界の敵になっちゃうよ」

「でも、正直いらねぇなんだよな。世界樹の加護がない場所まで進出するつもりは無いし、国土もダンジョンを含めたら間に合ってる。しかも、エルフやドワーフ達は人口が爆発的に増える種族でもないしな。子供が出来にくいらしい」


 俺の目的は、五大ダンジョンの攻略。


 日本帝国だけは祖国の復興という目標もあったので国として使っていたが、それ以外の場所は正直興味の欠けらも無い。


 ご自由に取り合ってどうぞ。俺の持ち物だと言うなら、競売にかけてやるよ。


 日本の強みは、島国であるということだ。これにより安全が多少なりとも担保されている。


 しかし、インドやオセアニアはそもそもが遠いし、インドに至っては大陸だ。正直要らん。


 オーストラリア?


 砂漠しかない場所になんの価値がある。精々、コアラとカンガルーを出荷する程度だろう。


 不毛な大地に興味はない。欲しけりゃどうぞご勝手に。


 そんな事を言っていると、リィズが部屋にやってくる。


 戦争を終えてからは、基本アリカと俺の間を行ったり来たりしている。昼はアリカ、夜は俺だな。


「およ?ウルフファッカーじゃん。来てたんだ」

「酷い呼び名過ぎないか?僕でも傷つくことはあるんだよ?」

「口角を上げるやつが傷ついているようには見えないよ。あ、フェル!!元気だった?久しぶりだね」

「グルっ!!」


 リィズは魔物の細胞を埋め込まれた改造人間。人間の形をした魔物と形容してもおかしくはないほど人のそれとはかけ離れた性質を持っている。


 そのためか、リィズは結構魔物と仲良くなりやすかった。


 ピギーの圧に耐えられるのも、魔物の細胞のおかげなのかね?


 フェルはリィズに呼ばれると、近づいてリィズに頭を撫でてもらう。


 これだけを見たら微笑ましい光景だが、こいつがこの変態英雄に犯されていると考えるとな........


「フェルが魔物だとバレてないのか?」

「いや?バレてる。でも、聖なる魔物って適当ぶっこいたらなんか何とかなった。こういう時、人類の英雄っていう肩書きは強いよね。流石にあれこれしているのは話してないけど」

「当たり前だろ。英雄王が魔物とファックしてましただなんて、誰が聞きたいんだ。まだガチムチのおっさんにケツをファックされた方がマシだろ」

「いや、それはさすがに嫌なんだけど」


 そうか。フェルは魔物だとバレたが、英雄王の力で何とかなったのか。


 やはり権力。権力は全てを解決するらしい。


「聖剣ちゃんとは?」

「最近、声が届かないようにする術を身につけて、機嫌が悪くなることは無くなったよ。偶に構ってあげないと拗ねるけど」

「うちに家くるか?聖剣ちゃん。俺なら毎日遊んであげられるよ」

「─────」

「あの、悩まないでもらえる?」


 聖剣ちゃん、割とガチで悩む。


 そりゃこんなオオカミ大好きファック野郎よりは、俺の方がマシだろう。


 俺はちゃんと遊んであげるからな!!


 仕事が忙してくても毎日30分ぐらいは癒しの三兄弟(ピギー、ナーちゃん、スーちゃん)と遊んであげているからな!!


 まぁ、この子達優しすぎるから、俺が疲れているのを察して横に居るだけとかなんだけど。


 出来た子達だ。俺が疲れているのに、容赦なく問題事を起こしてくるどっかの誰か達には見習って欲しいものである。


 いやマジで。


「........なんというか、グレイも大変そうだね。顔が死んでるよ?」

「ただの一般人がいきなり大統領だぞ?仕事が出来ると思うのか?」

「なるほど。君も君で大変そうだ」


 こうして、暇人アーサーは日本帝国でしばらくお世話になることとなった。


 国際連合が開かれるまで残り2週間ほど。


 え、それまでずっとここにいる気なの?

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