へっくしゅん‼︎


 アリカの異常性癖によって作られた植物兵器は結局活躍することなく、神秘学会アルカナムは滅びた。


 グレネード一発で滅ぶ神の使いを人は神の使いと呼ぶのだろうか?


 全くもって嘆かわしい。


 人はどれほどの叡智を集約したとしても、その神に至ることは断じてない。


 実際に死後、神を見たことがあるからこそ俺は知っている。


 アレに至るのは無理だと。


 ピギーなんかがいい例だ。たとえ、歴史上類を見ない天才が現れて、世界の全てを解明したとしてもそこに神が生まれることは無い。


 そして、ピギーのような存在に自らがなることも無い。


 せいぜい、文明が大きく進歩するぐらいしかないのだ。


 そんな根本的なことすらも知らない哀れな子羊たちが、神の兵士を名乗った所で意味は無い。


 待ち受けている結果に、変わりは無い。


 死して滅びた神秘学会アルカナムは、何もかもが終わりを迎えていた。その先に眠るものはなく天でも地獄でもない、どこかの世界に魂は消えただろう。


「さて、ようやくメインディッシュだ。ローマ教皇庁を潰すぞ」

「既に地下への入口と、その内部構造は把握しております。案内はおまかせを」

「頼むよレミヤ」


 こうして俺達は、鎮魂歌を奏でながらこの戦争のの元凶たるローマ教皇庁へと向かう。


 周囲ではまだまだ心地の良い鎮魂歌が流れ、多くの人々の悲鳴と泣き叫ぶ声が聞こえる。


 そういえば、Sランクハンターが出てきた際に報告するように言ってあるはずなんだがどうなってんだ?


 さすがにそろそろ接敵していてもおかしくないんだが........


 我らが人間核兵器ことおじいちゃんと、人間でありながら人の形を捨てたらリィズによって対応すると決めているから、一応準備はされているんだけどなぁ........


「Sランクハンターは?」

「未だに報告がありません。ですが、ロストした隊員もいないので、まだ接敵していないのか、それとも守りだけに徹しているのか。その辺だと思います」

「案外、アバートのおっさんが派手に暴れすぎでぶっ殺してるかもな。あのおっさん、めちゃくちゃ強いぞ?」

「病気で死にかけてたくせに、半年近くでもう戦線復帰してんだからおかしいよ。エルフってのはみんなあんな感じなのか?」

「さぁな。だが、あのおっさんならやりかねない。日本帝国において、10本の指には入る実力者だろうよ」


 そういえば、ジルハードはアバート王との交流がかなり深かったな。


 アバート王とよく飯に行く関係らしく、事ある毎に飯に行っては仲良くしているらしい。


 ちなみに、レイズもカルマ王と滅茶苦茶仲がいい。


 まぁ、あれは一方的に向こうが惚れているからなんだけどさ。


 カルマちゃん、レイズの前ではちゃんと女の子なんだよなぁ。王の時は威厳たっぷりなのだが、レイズの前ではおしとやかでかわいい女の子を頑張って演じている。


 そんなに好きなのかと思うぐらいには、レイズにベタ惚れであった。


 なお、レイズはどう思っているのかと言うと“いい人”らしい。


 本人の顔の動きからそれは嘘だと分かっていて、本音を聞き出すことも出来たがやめておいた。


 こういうのは、第三者としてワイワイ見ている方が圧倒的に楽しいからね。しょうがないね。


「ちなみに、他には誰が入ってるんだ?」

「純粋な戦闘力という点で言えば、ローズも入るな。後、その他王たちも。これで八人。そして世界樹を国民とするなら世界樹も入る。これで9人。10人目は言わずとも分かるだろう?誰だって一番最初に名前をあげる。産まれたての赤子ですらな」

「........?」


 そんなヤツいたか?


 俺の記憶にある限り、そんな絶対的な強者は存在しない。


 あ、ピギーか。確かにピギーは絶対的強者だよな。


 世界を三度滅ぼし自らを封印した、本来存在してはならないこの世界の異物。


 神々ですらピギーにはきっと敵わない。神としての格を持つ世界樹ちゃんですら、“ピギーは無理”というぐらいにはバカ強いし。


 確かにそれなら納得だ。


 ピギー、強すぎ問題はいつもあるからな。


 強すぎて逆に使いにくいとかいう、強者だけに許された特権。俺も言われてみたいものだ。


「なるほど。確かにそうだな。ちゃんと国民だし」

「........分かってねぇだろボス。まぁ、いいや。どうせ言っても認めねぇしな」

「グレイちゃん、変なところで鈍いよねぇ」

「そこが可愛いではありませんか。私、ふと見せる主人マスターのこういう姿は好きですよ」

「あー分かります。ギャップ萌え?そういうんでしたっけ?」

「普段は察しがいいのにな。グレイお兄ちゃんの悪い所だ」

「フォッフォッフォ。そう言ってやるな。真の強者は強者たる自覚がないのじゃよ」

「まぁ、ボスの悪いところですよね」

「そうねん。悪いところだわん」


 ジルハードは俺の反応に何故か呆れ、そして仲間たちは俺に聞こえない声量でそこそこと話す。


 何を話しているのかは分からないが、なんかみんな顔が呆れていた。


 俺、何か変なこと言ったか?


「ナー........」

(ポヨン........)

『ピギー........』


 そして、癒し枠三兄弟も呆れた反応をする。


 え、ナーちゃん達も?俺、何かやっちゃいました?


 そんな訳の分からない中で混乱していると、ふと鼻がムズムズし始める。


 人間の生理現状、くしゃみ。


 どんな人間であったとしても、これに抗う術はない。


「へっくしゅん!!」


 パァン!!(くしゃみの反動により銃を謝って空に向かって放つ)


「ぐはっ!!」(誰かの声)


 ドサッ!!(その誰かが地面に落ちる音)


 ........え?


 くしゃみをしたら、誰か落ちてきたでござる。


 くしゃみは意外と全身に力が入る。ゲーム中にくしゃみをして、謝ってボタンを押してしまったことは無いだろうか?


 それと同じように、俺は銃の引き金を引いてしまったのだ。


 両手で口を抑えようとしたので、銃口が上をむく。そしたら、人が打たれて降ってきた。


 何を言っているのか分からないかもしれないが、事実なのでしょうがない。


 まさかイカロスの部隊か?と一瞬焦ったが、彼の背中にそんな装置は着いていなかった。


「これ、神秘学会アルカナムの暗部ですね。情報で見た通りの姿です。予想するに、神秘学会アルカナムを殺したと思わせて、油断させた隙を狙ったのではないでしょうか?」

「そういえば、闇に紛れる奴らもいるって言ってたな。透過系の能力を持ったやつか。まっさきにボスを狙ったのが間違いだったようだな。うちのボスがそんなことも見通せないわけが無いだろ。舐めてんのか」

「馬鹿だな。グレイお兄ちゃんを舐めすぎだ。私達のボスは、たとえ世界の終焉が訪れようとも、鼻歌気分でそこを歩く狂人にして最強だぞ」

「フォッフォッフォ........殺す」

「グレイちゃんを狙った........はい殺す。元々殺す予定だったけど、もっと殺す」


 真っ黒な服を身にまとった奴を見て、レミヤがふと暗部の存在を示唆する。


 そういえばそんなことも言ってたな。危な。くしゃみしてなかったら死んでたかもしれん。


 不運なピタゴラスイッチの犠牲となった彼は、あの世で不名誉な呼び名を貰うだろう。


 くしゃみに殺された男とか。


 そんな呼ばれ方したくねぇ........まだ神のために戦った戦士の方が幾分かマシだわ。


 ダーウィン賞貰えちゃうよ。歴代の中でも割と上位のポンコツな死に方だって。


 そして、ウチの問題児2人に変なスイッチが入ってしまった。


 リィズとおじいちゃんは殺意マシマシ。もう今すぐにでもローマ教皇庁を消し炭にしようとする勢いである。


 ステイ。ステイ。


 君たちが暴れたら本当に一種で終わる。俺は、壮絶な苦しみによって彼らに死を齎したいのだ。


 生きたまま人体解剖とかしてやったら、多少はマシになるんじゃないか?


「念の為熱線暗視装置を起動させておきます。奇襲に対しての対策になるかと」

「ボスのおかげで助かったが、そうした方がいいだろうな。ちょっと気が緩んでいたかもしれん」

「そうっすね。ちゃんと気を引き締め直します。現役時代を思い出せ........」

「護衛として失格です。後で処罰は受けますので、今は挽回の機会を。現役時代の感覚を思い出さなければ........」


 奇襲を受けたことによって、急激に気を引きしめる仲間達。


 ものの数秒後には、かつて殺し合いの中で培ってきた歴戦の戦士の目をするようになっていた。


 全員目が静かで座っている。


 そう。普段がめちゃくちゃ過ぎて忘れがちだが、彼らは元ギャングや軍人といった、戦いの中に身を置いてきた戦士なのだ。


 研究者であるアリカやレミヤは違うが、その他は昔の彼らに戻ったのである。


「すごいな。たった一つの行動でここまで味方に危機意識を持たせるとは。あいにくだが、私は昔を思い出しても大抵研究しかしてなくて、あんな顔は無理だぞ」

「私も無理ですね。戦闘寄りの装備や性能はしていますが、元は研究者なので。もちろん、AIの補助を高めてはいますが」


 スッと静かになった彼らは誰が見ても歴戦の戦士。


 これが、彼ら本来の姿なのである。


 なんかかっこいいね。俺には無理だ。俺はいつもヘラヘラとして、適当に街の中を歩いて生きていただけなのだから。


「んじゃ、行くぞ。なんか知らんけどいい感じになったみたいだし」


 俺はそう言って頼れる仲間たちを引き連れて歩いていく。


 彼らはやる時はやるのだ。だからこそ頼もしい。


「まぁ、一番ヤバイのはグレイお兄ちゃんだがな。これだけ引き締まった空気の中、いつも通り普段の表情をしている。戦場の中だぞ?多少なりとも顔が険しくなってもいいものだがな」

「アリカちゃんですらちょっとは緊張してますからね。だから、私達のボスにして主人マスターなのですよ。私が初めてであった時ですら、彼に緊張感などありまそんでした。困った顔はしていましたがね」


 後ろでコソコソと話す研究者2人の声は、俺の耳に入ることは無かった。





 後書き。

 新作を上げました。タイトルは『異世界ローグ〜異世界転移したらローグライクができるそうなので、上振れ理論値を出して気持ちよくなりたい〜』です。

 よかったら読んでね‼︎

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る