ローマに奏でるは鎮魂歌


 サルディニア諸島で核にも等しい爆音が鳴り響き、北部では魔法の破壊音が鳴り響く。


 では中部はどうなのか?


 それは今から奏でられるのだ。


 ローマから最も近い沿岸部。そこに俺たちは現れた。


 補給の問題などは全て俺一人で解決できる。今の時代、弾丸は魔力によって補われるので、必要なのは食料のみ。


 そして俺は、1人で食料の全てを賄えてしまうのだ。


 嗜好品が出せないので、そこだけは問題だが、軍人として育てられた彼らは1週間チョコを食べずとも問題ない。


 まぁ、何が言いたいのかと言うと、食い物を略奪する暇があったら敵を殺せということである。


「沿岸部からの砲撃なんかを警戒したが、来なかったな」

「軍は政府の要請によって動くことしか出来ない。中枢機関が麻痺している今の状態じゃ、例えエチオピアが上陸してきたとしても対処出来ないだろうよ」

「今のITA(イタリア)は本当にカモって訳だ。この時代にアドルフ・ヒトラーが居たら、間違いなく枢軸国は崩壊していたな」

「そもそも日本帝国がITA(イタリア)を攻撃している時点で崩壊していますよ」


 ローマ沿岸部。俺たちはそこに上陸した。


 一応、激しい抵抗も考慮していたのだが、どうやら彼らにそんな余裕はないらしい。


 自国の対応で手一杯であり、自分達が神の罰を下されるとは思っていない国民は未だに政府やローマ教皇庁に抗議しているのだから。


 危機感の無い国だ。宣戦布告されたのならば、せめて兵士として、国民として国家を守ろうとするべきであるというのに。


「して、ここからはどうする?」

「イカロスの連中は空に上がって街から出ようとする者を1人残らず始末しろ。その他はローマの制圧。今日中に全て片付けるぞ」

「了解。私は自由に動かさせてもらおう。たまには元王として強さを見せつけてやらねばな」

「ローマ教皇庁に対しての攻撃は俺達だけで行う。それさえ邪魔しなければ好きにしてくれ。サメちゃん達は制海権をしっかりと取って来てくれ。奴らを海に逃がすな」

「フゴー!!」


 こうしてやることは決まった。


 戦争の作戦なんて、あくまで指標に過ぎない。


 このぐらい適当な方がいいだろう。あとは自己判断で死なないように立ち回れ。


「んじゃ、行くぞ。Sランクハンターが出た際には報告しろ。ウチの歩く核兵器の出番だからな」

「では、幸運を祈る。顔を知らぬ恩人のために、我らも派手にやるとしよう」


 ........ん?俺、アバートにルーベルトの話なんてしたっけ?


 ........記憶にないけどどこかでしたかもしれんな。まぁいいや、別にそこまで重要なことでは無いんだし。


 というわけで、ここからは自由行動。


 軍隊にあるまじき自由さだが、その緩さがこの国である。


「俺達も行くぞ」

「はーい。全員ぶち殺せばいいんだよね!!」

「何人か生け捕りできないかな........実験台になって欲しいんだが」

「フォッフォッフォ。滾るわい」

「本気で暴れちゃうわよん」

「俺は護衛だな。ぶっちゃけ何も出来ん」

「俺も護衛っすね」

「私もアリカちゃんの護衛に回ります。この世界に天使が存在すると証明して差し上げましよう」

「私は皆さんのサポートに回ります。火力支援、情報操作はお任せ下さい」


 俺がそういうと、仲間たちがのんきにそんな言葉を返す。


 緊張感が無いが、それはいつもの事。いつも通りの方が、俺も安心するというものだ。


 ドガァァァァァァァン!!


 そんなことを思いながらローマ教皇庁を目指そうとしていると、ローマの街の一部が吹っ飛ぶ。


 最初に演奏を始めたのは、我らが巨人兵タイタンの舞台だ。


 身長10m以上もある巨大な種族である彼らは、歩くだけで災害となる。


 力も強く、建築において輸送を担当してくれたりする縁の下の力持ちが本気で暴れればどうなるのか?


 簡単だ。街が壊れる。


 走っているだけで街がぶっ壊され、その家の中にいた人々は衝撃によって殺される。


 タイタンってずるいよな。元の姿に戻るだけで派手なんだもん。


「おーおー、やってんな。イカロスの部隊も既に見えないし、世界樹に生きる種族は派手だなぁ」

「あれ?もうイカロスも行ったのか。みんな行動が早いね。俺たちなんでまだ砂浜で歩いているんだぞ?砂浜は歩きづらい」

「足が取られるな。サメちゃんたちの元へと遊びに行くことがなかったら、この砂浜に足を取られて苦労していたかもしれん。私の体は普通の人間だしな。体力もない」

「抱っこしてあげましょうか?」

「要らん。後、下心が見えるから普通にやだ。リーズヘルトお姉ちゃんの方がいい」

「うぐっ........」


 こんな時でもアリカに触れようとするなよミルラ。


 だからお前は残念美人とか言われるんだぞペドレズ野郎。


 そんなことを思っていると、さらに巨大な爆音が鳴り響く。


 ふとその音の方に視線を向ければ、沿岸部にあった家や店が綺麗に吹き飛んできた。


「ハッハッハ!!王になってからは内政ばかりで退屈だったが、まだまだ腕は訛ってないな!!世界樹様の威光をその身に受けるが良い!!」


 そこには、くっそノリノリなアバートが居た。


 王になってからはほぼ内政ばかりで、まともに戦ったのはニーズヘッグの時が最後。


 多分、ストレスとかかなり溜まってたんだろうなぁ........書類と向き合い続けるのは大変だもんね。


 俺も似たような仕事をやるようになったせいか、アバート王にはちょっと同情している部分もある。


 馬鹿で話の通じない部下の相手に、書類作成や法律などの提案、その他にも市民たちとの交流や税金の使い道など。数多くの仕事を毎日やっているのだ。


 今日ぐらいは派手に騒いでも許してやるべきである。


「ストレス溜まってんな」

「今度、王たちみんなを連れて遊びに行った方がいいかもね。一応、グレイちゃんの配下扱いだし」

「そうしてやるか」


 こうして、ローマに鎮魂歌が流れ出す。


 俺達も鎮魂歌レクイエムを奏でに行こう。奏でる場所は、キリスト教の総本山、バチカン市国だ。




【鎮魂歌】

 ラテン語で「安息を」という意味の語であり、以下の意味で使われる。

 1.死者の安息を神に願うカトリック教会のミサ。死者のためのミサ(羅: missa pro defunctis)。聖公会においても行われる。

 2.上記のミサで用いる聖歌。完全ミサ曲のひとつ。狭義にはこれを指し、本稿でもこれを扱う。

 3.本来の典礼から離れて、単に「葬送曲」「死を悼む」という意味で銘された作品。

 4.正教会におけるパニヒダのことを、永眠者のための祈りであることの類似性から「レクイエム」と呼称することがあるが、西欧と日本以外ではこうした用例は一般的ではない。

 今回の場合は3に当てはまる。尚、鎮魂歌はレクイエムと呼ばれる。




 その日、ローマは血と臓物の臭いに包まれた。


 ありとあらゆる音が死者へと送る鎮魂の義。眠れる魂を天へと送るその曲は、派手に、そして最高に煩い。


 何もかもが派手に鳴り響き、その悲鳴が奏でる音に誰もが耳を澄ます。


 演奏者本人はそれどころでは無いだろうが、それ以外の赤の他人は今頃この派手な鎮魂歌に聞き酔いしれているだろう。


 そんな音が鳴り響く中、俺は四日ぶりにバチカンへとやってきた。


 四日前にもやってきて、今もこの場にいる。


 俺ほど敬虔な信徒もそうはいない。きっと今頃、イエス・キリストは歓喜の涙を流してくれているに違いない。


 そんなことを思いながら、俺は戦争の混乱に支配されたバチカンを歩く。


 彼らの誰もが恐怖し、彼らの誰もが神への慈悲を乞う。


 やがて人々はその闇の中で悲鳴を上げ、天へと導かれるのだ。


 かくいう俺も、通り過ぎる一般人達に向けて弾丸を放つ。


 彼らに罪はない。


 いや、政治家を選んだ罪はあるが、まさか自分たちが選んだ政治家達があそこまでアホだったとは誰も思わないだろう。


 彼らに苦しむ義務はない。死ぬ義務こそあれど、できる限り安らかに殺してやるのが、優しさというものである。


 パンパンパン!!と鳴り響く破裂音とともに、人々が血を流しながら地面に倒れていく。


 俺はその姿を見ながらゆっくりと歩き続けた。


「レミヤ。連中は?」

「未だにここにいます。逃げなかった度胸を認めるべきか、それとも民衆の前に立つことを恐れた臆病者と罵るべきか。悩みますね」

「そんなくだらんことで悩むなよ。度胸があろうがなかろうが、死ぬことに変わりはない。唯一褒めるべき点は、このデモの中で市民を殺すような真似はしなかった事だろうよ」


 俺はそう言いながら、逃げ惑う奴らの1人を弾いて殺す。


 何度も言っている気がするが、普通の人間は頭を弾かれれば死ぬ。


 俺の周りには例外が多すぎて、銃弾を打たれてもピンピンしているのがデフォルトのようになっているが、普通は死ぬのだ。普通は。


 エルフとかドワーフとか、あそこら辺がおかしいだけである。


 一応、眼球を狙えば殺せるんだけどさ。


「それにしても退屈なシューティングゲームだ。向こうからの反撃が一切ない」

「一般市民が銃の携帯をしていると思うか?ハンターですらほとんどないだろうよ。新人でもない限りはな。そして、今はハンターですら逃げ惑う。神の裁きの前で抗うことは許されないからな」

「俺たちはついに神になったのか」

「成り下がる趣味は無いが、熾天使がご丁寧に俺たちを神の使いとして仕立てたんだ。利用させてもらう他ないだ─────」


 ドゴォォォォォン!!


 刹那、灼熱の炎が俺たちに降り注ぐ。


 ミルラとレミヤ、そしてジルハードが素早く反応し、俺たちを守ったからよかったものの、護衛無しなら死んでたな。


「背徳者め。ここに始末する」

「ようやくお出ましか。国家の犬........いや、金魚のフンか?神秘学会アルカナム。権力に繋がれたクソ共が。飼い主は元気か?」


 そこに現れたのは、ローマ教皇庁直轄の部隊“神秘学会アルカナム”。


 そうそう。お前らは俺たちが相手すると決めているんだ。


 こいつらの中には、実験を行う奴もいるらしいからな。


 きっちり借りは変えさせてもらうとしよう。お釣りは要らねぇよ。しっかりと受け取っておいてくれ。

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