北の戦況


 ITA(イタリア)に日本帝国が宣戦布告をしてから3日後。


 遂に本格的な戦争が勃発した。


 始まりは戦艦が砕ける小さな音から始まり、その数時間後には500年以上聞くことのなかった核に近い音が聞こえ始まる。


 世界各国は衛生観測やその他特殊な観測を用いて戦争を観測し、日本帝国という馬鹿げた軍事力を目の当たりにする。


 本格的な攻勢が開始されてから約2時間弱。


 イタリアの西側に位置するサルディニア諸島は完全な更地となり、周囲に絶大な被害を及ぼした。


 残っている人類はほんの僅か。運良く世界の終焉から逃れられた、数少ない人々だけ。


 ドワーフが作った終末の兵器は、たった二時間でひとつの島を滅ぼしてしまったのである。


 核兵器に匹敵する魔力兵器の運用。


 世界は初めて、魔力という名の真の兵器を目の当たりにした。


「本国から入伝。サクラサクとの事です」

「サルディニア諸島への攻撃が成功したか。まぁ、ここにも聞こえるぐらいの爆音だ。ツァーリ・ボンバよりはマシだった事を喜べばいいのかね?」

「いや、あれよりも絶対やばいだろこの兵器。今回は大陸弾道ミサイルだったのと、偽装のために大きく設計していたが、人間サイズでも作れるんだろ?ロケラン気分で核が打てる時代が来るかもしれないってことじゃないか」

「エルフとドワーフの合わせ技は凄いな。その内、ビー玉サイズの核ができる。子供が飲み込まないように注意してくださいって張り紙が必要になる時代が来るだろうよ」

「そんな時代が来て欲しくは無いがな。世界中のテロリストどもがこぞって買いに来るぞ」


 サクラサク。


 つまり、作戦は成功したということ。


 ドワーフの技術によって作られた現段階の人類の叡智を超えた兵器は、狙い通りの場所にちゃんと落ちてくれた。


 一応世界樹の下にある極寒の大地で実験はしたが(世界樹ちゃんの許可済)、実践で使うとなるの不安が残るよな。


 なんの関係の無い国に落ちなくて助かった。落ちてたら絶対やばかっただろうし。


「フォッフォッフォ。この歳になって“サクラサク”を聞くことになるとはのぉ。主はワシを喜ばせるのが得意な様じゃ。この老人、楽しくなりすぎて少しばかり剣が震えるわい」

「その震えはSランクハンター相手に取っておいてくれ。今回は爺さんとリィズにそれは任せているからな」

「まっかせてよグレイちゃん。きっちり殺してあげるからね」


 ITA(イタリア)にはSランクハンターが二人いる。


 確か、雪の悪魔スノーデビルと呼ばれている雪に関する能力者と十字架の審判クロスジャッジメントと呼ばれる敬虔なるキリスト教信者だ。


 彼らの戦闘力は凄まじく、場合によっては軍に大きな被害をもたらす。


 という事で、我が国の最高戦力であるおじいさんとリィズにこれらの対処を任せることにしたのである。


 場所は分かっているので、そこに突っ込んでいけばあとは勝手に対処してくれるだろう。


 第一次、第二次世界大戦を生き残り、第一次ダンジョン戦争そして、第三次世界大戦すらも生き残ったウチの化け物老人と、エンシェントドラゴンの核を体に宿した人造人間に勝てるやつなんてそうはいない。


 どっちも冗談みたいな強さをしているしな。時代が違えば、世界の覇者になれたような化け物達である。


「撃鉄を上げ、引き金を引く。そろそろ北側からの進行も始まる頃だ。俺達も首都に乗り込んでやるとしよう。最初の目標はローマ教皇庁。あそこだけは、俺たちの手で始末をつけなきゃならん」

神秘学会アルカナムからの妨害が想定されますが、どういたしますか?」

「んなもん全部纏めてぶち殺せ。お前らならできるだろう?アリカ、一番きっつい奴を頼む」

「既に準備してある。一滴でも皮膚に触れれば、悪魔だって裸足で逃げ出すような劇薬がな」

「いい子だ。この戦争が終わったらいっぱい抱きしめてやるぞ」


 俺はそう言いながらアリカの頭を撫でる。


 アリカは小さな声で“やった!!”と呟くと、嬉しそうに目を細めた。


 アリカは俺とリィズに抱きしめられるのが異様に好きだからな。ちなみに、ちょっと強めに抱きしめて苦しいぐらいが好きらしい。


 俺はアリカが穢れを知らぬ女の子が相手だからと言うとことで、前から抱きしめるようなことはしないが(胸が当たるから)、リィズはよく前から抱きしめて頬擦りしてあげているよな。


 そしてその横で大体ミルラとか言う人類の汚点が興奮している。


 やはりミルラ。ミルラがノイズ。


「なんですかボス?」

「いや、ミルラって黙っていれば本当に美人なのに残念だなって思ってただけだよ」

「あれ?今私急に殴られました?それとも褒められたと喜ぶべきですか?」

「ポジティブすぎるだろ。今のはどう見ても貶されてたぞ」

「まぁ、顔がいいのは確かだよねぇ。それ以外が残念すぎて全く可愛くないけど」

「これで顔も酷かったら救いようがありませんでしたね。ご両親には感謝してくださいよ」

「酷い!!酷すぎませんか?!最近私の扱いが雑な気がします!!講義です!!抗議します!!」

「何一つ間違ってない事実なので却下。ミルラは自分の言動をよく考え直しましょう」


 ギャーギャーと騒ぐミルラ。


 でも、ミルラがいじられ役なお陰で戦争という緊張感のある場所でも和やかな空気が流れている。


 尚、近くにいた女エルフの1人が凄い蕩けた顔でミルラを見てたんだけど、あれ大丈夫か?


 ミルラの貞操が危険に晒されている気がするんだけど。


「さて、そろそろローマだ。前奏は終わったんだし、派手に鎮魂歌を奏でるとしよう。あの世できっと、耳を済ませて聞いてくれるだろうよ」

「そうだね。せっかくなんだから、あの熾天使にも聞こえるぐらい大きく、そして派手にやらなきゃ」


 死者との別れを済まし、約束も守った。


 最後はこの曲を持って、お前を天に送り出そう。


 俺はそう心に誓うと、ローマに上陸を開始するのであった。




【ツァーリ・ボンバ】

 冷戦下のソ連が開発した世界最強の水素爆弾。

 単一兵器としての威力は人類史上最大であり、1961年10月30日にノヴァヤゼムリャで、唯一の大気圏内核実験が行なわれて消費され、現存していない。TNT換算で約100メガトン(第二次世界大戦中に全世界で使われた総爆薬量の50倍)の威力を誇り、実験では50メガトンに制限されたものの、それでもなお広島原爆「リトルボーイ」の約3,300倍もの威力を有し、その核爆発は2,000キロメートル離れた場所からも確認され、衝撃波は地球を3周したとされる。

 別名、“爆弾の皇帝”。




 ITA(イタリア)北部。オーストリアから進軍を開始したイカロス部隊及び陸軍部隊は、ITA(イタリア)国内に入ると同時に戦闘を開始した。


 ITA(イタリア)の現状を知ってもなおこの国に残っているということは、彼らはITA(イタリア)国民である。そして、国民は女子供、果てには赤子すらも殺せというのが今回の指示だ。


 元々、世界樹の世界における戦争では女子供問わず、相手を殲滅することが当たり前であったが故に、軍は誰一人としてその作戦に疑問を持つことは無い。


 そして、殲滅は始まった。


「標的確認。第四部隊のみ残し、残りは移動。第四小隊は魔法を展開し、あの村を焼き付くせ」

「了解」


 ITA(イタリア)北部に存在する小さな村。


 アルプス山脈が見えるその村の空には、イカロスの姿が見える。


 彼らは事前にITA(イタリア)の地図を確認し、様々なな情報を元に村の位置を特定。人一人残さぬ殲滅作戦を行っていた。


 空軍が村や航空機を殲滅し、陸軍が大都市の殲滅を試みる。


 それが簡単な作戦内容だ。


 そしてそれは、躊躇われることなく実行される。


 イカロス部隊の第三師団第二大隊所属、第五中隊第四小隊分隊長のマルーザは、地面に見える村を標的として魔法の準備に入った。


「まだまだ先は長いんだ。魔力を使いすぎるなよ」

「もちろんですよ分隊長。派手にやりつつも、ちゃんと力の加減はしますって」

「それならないい。別に鎮魂歌は爆発だけど決まっている訳では無い。人々の悲鳴もそのひとつだ。どうせなら、人の手によるコーラスでも聞かせてやろう。悲鳴と言うな」


 顔も知らぬ英雄へと捧げる鎮魂歌。


 それは必ずしも爆破音だけとは限らない。


 時には人々の悲鳴だって立派な鎮魂歌となりうる。


 マルーザはそう言うと、天に向かって手を掲げ、小さな魔法陣を幾つも展開した。


「風の斬撃よ。地に落ちて尽くを刻め。次いでに燃えろ」


 雑な詠唱から放たれた一撃は、その村の終焉を呼び出す。


 天から降り注ぐは風の刃と炎の雨。


 村は一瞬にして斬撃と炎に覆われて、多くの人々は何が起きたのか分かる前に死体となった。


 運良くその攻撃を回避したものもいる。だが、彼らはそれすらも見逃さない。


 殲滅という点において、過去の戦争からの経験で彼らよりも右に出る者など存在しない。


 銃を携えた兵士達は空から舞い降りて、銃を乱射し人々を殺す。


 悲鳴をあげる間も無く、その村には死体の山が築かれた。


「状況終了。人間の反応はありません」

「よし。それでは次の地点に向かうぞ。戦闘機と接敵した場合はそちらを優先しろ。奴らが唯一我々を殺しうる手段だ」

「「「「了解」」」」


 こうして、小さな村は滅びた。


 少しは良い音色を出すことが出来ただろうか?マルーザはそう思いつつ、こっそり集めているグレイのコレクション(グレイのファンが勝手に作っているグッズ(グレイ未公認))を見て神の顔を崇めるのであった。


 ........そう。彼女は、世界樹の世界には多くいるグレイのファンの1人なのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る