終末
接敵から僅か数十秒。ITA(イタリア)海軍は類を見ない程の速さで壊滅した。
まさか100m級のサメが下から襲ってくるとは思ってなかったのだろう。
CH(中国)とのドンパチをやった際にどう戦艦をこわせばいいのか理解していたサメちゃん達は、一撃で相手を粉砕していた。
鉄を噛み砕くその牙も凄いし、単純な体当だけで相手を沈められそうだしな。
こうして、彼らは海の藻屑となり、地理となって消えてゆく。
サメちゃんを相手に海で勝とうなんて無謀が過ぎるんだよ。我らがサメちゃんは海の王者なのだ。
そして、その背中に乗っている俺達がどうやってサメちゃんたちと同じく海に潜ることが出来たのかと言うと、魔法を使うエルフのお陰だ。
彼らの魔法は自由自在。魔法陣の構築さえしっかりとできていれば、どんな現象だって起こせてしまう。
俺達人間は魔法を使うことが出来ないのでよく分からないが、なんかこう、いい感じに魔法陣を作ってこの世界に力を発揮するらしい。
「ハッハッハ!!上手く行ったな!!」
「まさか、空気の層を作って潜水を可能にするとは思ってなかったよ。普通に海の上で魔法をバカスカ撃つのかと思ってた」
「エルフの魔法はなんだってできるのだ!!その気になれば、この世界だって滅ぼせる!!」
自分の作戦が上手く行ったのが楽しいのか、海面に浮上したアバート王が楽しそうに笑う。
近未来の乗り物のように、空気の泡を作って短時間の潜水を可能にしたのだ。
サメちゃん達の背中に空気を作り、俺達はそこにしがみつく。
そして、爆速で泳いで海底からの奇襲。
潜水艦とは違った反応を見せるだろうから、相手も俺たちとは認識していなかったはずだ。
結果、戦艦は噛み砕かれて大爆発。気がつけば、海の上には死体と鉄くずしか残っていない。
いや、一応運が良かった奴らがそこそこ残っているか。
子ザメちゃんたちが片っ端からパクパクしてるけど。
「や、やめ─────」
「助けてくれぇぇぇぇぇぇ!!」
「来るな!!来るなぁぁぁぁぁぁ!!」
凄まじい程の阿鼻叫喚ぶりだ。
純粋に助けを求める者、サメちゃん立ちを恐れて逃げ惑う者、神に祈りを捧げる者。
とにかく煩くて、耳が痛い。
だが、鎮魂歌の序章には悪くない。最初からクライマックスの鎮魂歌はナンセンスだろう。
やるなら徐々に大きくしていかないとな。
そんなことを思っていると、1本の連絡が入ってくる。
魔力を用いた無線機に、報告が入ってきた。
「今より、北側からの侵攻を開始します。繰り返す。今から北側からの侵略を開始」
どうやら、既にオーストリアまで移動してきたらしい。滅茶苦茶早い気もするが、多分車とか使ったんだろうな。
ちなみに、我が国に戦車部隊は存在しない。
ロマンはあるし、500年前ならば絶対的な戦闘力を誇っていたが、今の時代ではただの鉄の塊に過ぎないのだ。
能力者は割と簡単に戦車を破壊するからな。
それと、今の時代は生身の人間でも当たり前のように弾丸を弾く。
機動力さえ確保出来ればそれで良く、殲滅は個々の力次第。これが現代の戦争の形なのだ。
ミスリルで出来た戦車とからなまた違うかもしれんけど。
「どうやら向こうも侵攻を開始するらしい。俺達も行くとするか。レミヤ、本国に連絡を取れ。ドワーフのヤツらが作ってた新兵器やら何やらを試す時間だ」
「かしこまりました。南部を中心に攻撃するよう、指示を出しておきます」
「俺達は首都に直接お邪魔するとしよう。イカロスを背負ったヤツらは空から好き勝手に暴れろ。死ぬんじゃないぞ。これは戦争の皮を被った蹂躙だ。1人でも死んだら、それは戦争になる」
ルーベルトの為に奏でる鎮魂歌なのだ。お前らの分まで奏でるつもりは無い。
好きに暴れていいが、死ぬのだけは許さん。後で家族に“あなたの子供は勇敢に戦いました”なんて訃報を聞かせる趣味は無いのだ。
今から行うのは、ただの演奏である。
コンサートで死人だでたら大問題だろ?
「少しでも身の危険を感じたら逃げろ。別に戦線を死守しなきゃならんわけじゃない。敵前逃亡も許してやる。だが、死んだら死刑だからな」
「いや、ボス。死んだら死刑にできないって。死んだらそこまでだぞ」
「言葉の綾だよ馬鹿野郎。話の腰を折るんじゃねぇ」
俺はそう言うと、ちょっと意味は違うがお決まりの文句を告げる。
こういう時はビシッと決めないとね。
「皇国ノ興廃コノ一戦ニ在リ。各員一層奮励努力セヨ」
さぁ、神罰の時間だ。
洒落てもないゴスペルの鐘を打ち鳴らし、サンタマリアへの祈りの代わりに南無阿弥陀仏を唱えてやろう。
【Z旗】
船同士の意思疎通のために用いる国際信号旗の1つ。
日露戦争時の1905年5月27日-28日にかけて行われた日本海海戦の際、連合艦隊司令長官の東郷平八郎は、トラファルガー海戦の信号文「英国は各員がその義務を尽くすことを期待する」に倣い、「皇國ノ興廢此ノ一戰ニ在リ、各員一層奮勵努力セヨ」という意味を持たせたZ旗を旗艦「三笠」のマストに掲揚した。
日本帝国には、様々な兵器が存在する。
使用者本人に装着し空を自由に舞うことの出来つつも、機動力や速度に優れた兵器イカロスや、軍用魔弾をさらに改造し威力を底上げした魔攻弾など。
ドワーフと言うこの世界とは異なった技術力を有した日本は、世界の中でも最先端を行く技術国家として存在しているのだ。
当然、その技術を欲しがるものもいる。
日本帝国との国交を持つブリテンやPOL(ポーランド)は特にその技術力を欲していたが、グレイは国の力は技術にあると知っているため、ほぼその情報を漏らしていなかった。
一応、取引の際に少しだけ技術を出してはいるが、それでも日本の優位にはかわりない。
そして何より、これら全ての技術はダンジョンの中でのみ研究され、レイズとの契約によって口を固く閉ざされているためどんな方法を用いても資料を盗み出せないのだ。
衛生からの監視による技術盗みもできなければ、そもそも侵入することすら難しい。
もし、中に入り込めたとしても、ドワーフの国は国民でなければ行くことが不可能。
更には厳しい検閲まで待っており、日本帝国が以下に技術と言うのが大事なのかを理解していた。
そんな中、僅か1年足らずで数多の兵器を開発していたドワーフ達は、自分達の兵器が実行させる瞬間を今か今かと待ち望む。
彼らは人間と近い知的生命体ではあるが、何度も戦争を経験し人が死ぬことに対してそれほど危機感を抱いているものでは無い。
もちろん、隣人が死ねば悲しむが、赤の他人のために流す涙は持っていなかった。
研究狂いの彼らはむしろ、自分達の兵器がどれほどの威力と破壊力を秘めているのかを測るのに忙しい。
たとえそれが人類を滅ぼす兵器だったとしても、ごく一部の人間以外が死ぬことを彼らは許容するだろう。
「議長!!戦争が始まりました!!我々にも援護要請が届いております!!」
「お、ようやく来たか。いやー遂にこれを使う時が来たな!!大陸弾道ミサイルと言う、人類の兵器と我々ドワーフの技術を合わせた、世界初の兵器!!圧縮した魔力をエルフの魔法によって増大させ、周囲10km範囲の尽くを滅ぼす破壊兵器のお出ましか!!ニブルヘイムで実験した時の破壊力は凄まじかった。遂に、我々も国のために役に立つ時が来たのだ!!」
遂にITA(イタリア)との戦争が始まった。
入伝によれば、グレイたちはローマを目指して進行中であり、数多くの戦艦を破壊している。
北部はイカロスや陸軍部隊が。中部はグレイ率いる本軍が。そして、南部は兵器開発の実験台となる。
ドワーフ達は、南部をまるまる任されているのだ。
失敗は許されない。
特に、戦争と関係の無い国に攻撃してしまうのは大問題となる。こればかりはグレイにも口煩く言われているので、ドワーフ達も細心の注意を払っていた。
「計算は?」
「既に終えています。あとは発射すれば問題ありません」
「うむ。我々には失敗が許されない。だが、研究の失敗を続けてきた我々が、成果物において失敗するような真似はしない。お前ら気合い入れろよ!!ここでミスでもしようものなら、グレイ殿にクッソ怒られた上で世界樹様からも馬鹿みたいに怒られるからな!!」
「「「「「ウヲォォォォォォォ!!」」」」」
ドワーフの王はそういうと、兵士達に指示を出す。
やれることはやった。あとは良い結果が訪れることを祈るのみだ。
「大陸弾道ミサイル“
「発射!!」
日本帝国のとある場所に設置された大陸弾道ミサイルが、火を吹いて空に高く舞い上がる。
とりあえず地上で爆発しなかったことに心から安堵したドワーフの王は、空を見上げて小さく呟くのであった。
「鎮魂歌は派手にやらんとな。顔も知ら英雄よ。我らからはこの曲を送るとしよう」
それから1時間と数十分後。ITA(イタリア)の南部にある島の一つに終末が降り注ぎ、草木も残さず全てが消え去るのであった。
【大陸弾道ミサイル“
人類の技術とドワーフ達の技術によって開発された、核に匹敵する超高火力ミサイル。
内部には圧縮された魔力が詰め込まれており、衝撃によって解き放たれる。しかし、それだけでは威力が薄いので、エルフの魔法を使って火力を倍増。結果、10km範囲の尽くを滅ぼす兵器となった。
尚、放射線問題は全て解決しており、魔力によって周囲を吹き飛ばすだけなので二次被害が少ない。
それよりヤバいのは、その気になれば超小型にして人間サイズぐらいの兵器も作れるということ(かなり低コスト)。人類がこの技術を手にした場合、終末戦争が巻き起こっても不思議では無い。
後書き。
使い方次第ではガチのヤベー兵器。戦争のあり方が変わるレベル。
なんてものを作ってんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます