終わりの始まり


 スエズ運河を渡り、地中海へと突入した俺達は海の上をのんびりと漂う。


 EGY(エジプト)の軍艦に囲まれるという不測の事態こそあれど、俺達は問題なく先へと行くことが出来た。


 正直、今回に関してはEGY(エジプト)軍は悪くないと思っている。


 だって考えてみろよ。普通“日本軍の艦隊だとおりますよ〜”と言われて、まさかその艦隊がダンジョンから引き抜いてきたクソデカサメちゃんだとは誰も思わない。


 日本帝国軍の軍備に関してはほぼ知られていない。


 第三次世界大戦でも暴れたのはおじいちゃんぐらいだし、サメちゃんたちが目立つ機会は無かった。


 そんな中で、自分たちの海域に魔物を引き連れた奴が来たらそりゃ警戒もする。


 彼らは自分たちの責務を果たしただけなのだ。少なくとも、彼らが悪い訳では無い。


 先に“うちの艦隊はサメちゃんたちだからね”と言っておかなかった俺が悪い。


 よくよく考えなくても、魔物を引き連れた艦隊って頭がおかしいよな。日本ではダンジョンの住民達と住むのか当たり前の国だから、そこまで違和感は無いけど。


 ちなみに、俺達が他の国に行っていた時は、エルフやダークエルフなどが面倒を見てくれている。


 彼らの中にもサメちゃんの可愛さに心を打たれた人は多く、気がつけば結構仲良くなっていたなんてことがよくあるのだ。


 サメちゃん達は可愛いからね。仕方がないね。


 事実、今サメちゃん達の上にいる兵士たちは、サメちゃん達と滅茶苦茶仲が良かった。


 背中を撫でてやる度に喜んでくれる可愛らしいサメちゃん達に、勝てるはずもないんだよ。


 我が国の海軍はアイドルだな。


 サメちゃん達でアイドルグループとか作ったら金になりそう。というか、今まで貯金してきた金全部使ってグッズも買い漁る自信がある。


 そこにアリカもプラスしたら最強だな。


 可愛い×可愛い=正義。


 いつの時代も可愛いは正義なのである。


「どうしたんだ?グレイお兄ちゃん。そんな熱い視線を向けられても、薬しか出せないぞ」

「いや、アリカとサメちゃんでアイドルグループ作ったら俺の貯金が溶けると思って」

「........おい、頭は大丈夫か?この地中海性気候が体に合わなくて頭がおかしくなったのか?」

「........ボス........天才ですか?!やりましょう!!作りましょう!!アリカちゃんの可愛さとサメちゃんたちの可愛さを全世界に知らしめることが出来ますよ!!」

「グレイちゃん、天才じゃん。帰ったら作ろうよ。私達がお金出してあげるからね。いっぱいグッズ買うよ」

「いい歳こいたおっさんが10歳そこらの女の子に向かって金を貢ぐ光景が出てきちまうな。アリカ、俺の娘に似てるんだよなぁ........」

「フォッフォッフォ。老人の楽しみがひとつ増えるわい」

「いいじゃないのん。私もお金を出すわよん?と言うからお兄様とその門下生にも出させるわん。入門の条件にグッズ買ってねってことにしましょうかしらん?」

「いいじゃないんすか?俺も買いますよ」

「プロデュースはお任せ下さい。世界で1番のアイドルにさせてあげますよ。もちろん、野郎どもが近寄らないようにしっかりと守ってあげます。天使に触れていいのは神だけです」

「ゴフー!!」


 俺がアリカアイドル計画を口にすると、仲間達全員が賛同する。


 やはりアリカは可愛いのだ。我らがアイドルの可愛さは世界一であり、アリカに勝てる人間なんでほぼ存在しないのである。


 人間のみならず、エルフやダークエルフ、ドワーフにタイタンからも人気がかなり高いってアリカは知ってるのかな?


 ちなみに、野郎どもよりもお姉様方に人気が高かったりする。


 保護欲を掻き立てられるんだろうな。もちろん、野郎共からも人気は高い。


 あれ?そう考えたら、国内の活性化という名目でアリカをアイドルに仕立てあげられるのでは?


 金が回ればそれだけ経済も回る。


 イベントをやれば、その時のスタッフにも給料が入り、その給料で買い物をするだろう。


 グッズもドワーフたちに委託して作ればドワーフに金が入る。


 警備はダークエルフやタイタンに任せればいいし、エルフの魔法でステージの演出だってできるはずだ。


 そう考えると、アリカアイドル計画は悪くない気がするな。サメちゃん達の可愛さも宣伝できて、海軍に対する親近感も湧くだろうし。


「なんか真面目にアリカアイドル計画をやりたくなってきたぞ」

「おーい。私の意思は無視か?」

「あー、アリカが人気になったらアリカの薬を体験したいって言う変態達が増えるんだろうなー(棒)。そしたら、被検体のサンプルが増えて研究がやりやすくなるんだろうなー(棒)」

「........それは魅力的だな」


 うーん。これぞアリカちゃん。


 被検体が増えるのは有りだなとか本気で考えている当たり、まじでアリカちゃん。


 後遺症も残らない薬の被検体として、ファンを呼び寄せるとか普通にできそう。薬物系アイドルとかいう新ジャンルの開拓ができそうじゃない?


 名前からして絶対やばいけど。


「なっ!!それでは私のアイデンティティが!!私のお仕事が減ってしまいますボス!!」

「被検体は仕事じゃないんだよ。それに、アリカの薬はいろいろな人の役に立つしな。毒とか幻覚剤とかをよく使うから忘れがちだけど、普段は世界のためになる薬を作ってるんだぞ?」


 言っておくが、アリカは常に毒物を作っている訳では無い。


 ちゃんと風邪薬とか最近の流行病とかに効く薬なんかを作っている方が多い。


 リィズたちが被検体となる時は大抵毒物なので、そっち系の話をよく聞くが、身体能力の向上を目的とした薬とか、免疫力を高める為の薬とか結構作っているのだ。


 そして、毎回“サンプルが足りない”と嘆いている。


 それ、ファンをサンプルにしたら完璧じゃね?


 握手会ならぬ、薬摂取会である。普通にやってる事やべーな。


「まぁ、今適当に思いついたことだし、そんな深く考えなくてもいいさ。でも、もしやる気があったら言ってねアリカ。国を上げて押し出してあげる。こういう時に権力ってのは使わないとな」

「推しのアイドルのために国家権力を使うバカがどこにいる........まぁ、考えておく」


 完全に否定しない辺り、ちょっと興味がありそうだな。


 アイドル業よりも薬の実験サンプルが手に入ると言う点でしか考えていないところは、とてもアリカらしいとは思うが。


 こうして、地中海の中をのんびりと泳ぐサメたち。そろそろITA(イタリア)本土が見えてくる時だ。戦艦だろうが航空機だろうが、たたきつぶしてやるよ。




【地中海】

 北と東をユーラシア大陸、南をアフリカ大陸(両者で世界島)に囲まれた地中海盆地に位置する海である。面積は約250万平方キロメートル、平均水深は約1500メートル。海洋学上の地中海の一つ。

 この世界でも基本何も変わっていない。母なる海は不変である。




 ココ最近のITA(イタリア)は混乱続きだ。


 市民の反発により政府の動きがほぼ停止しており、そんな中で日本帝国に戦争を仕掛けられている。


 本来ならば戦争のために準備をしなければならないのだが、政府が身動きひとつ取れない今の状況では軍に指示が出されることもなかった。


 緊急時の対応マニュアルはあるものの、これらを自己判断でやらなければならない。


 軍の中にはデモに参加しているものも多く、結果としてITA(イタリア)海軍の敷いた防衛戦はかなり薄くなっていた。


「国内が滅茶苦茶だ。神への祈りも大事だし、政府への追求も大事だが、今はそんなことをしている暇もないだろうに」

「全くだ。今は戦時中なのだ。そんな中、力をひとつに合わせられない国に勝ち目はない。だが、我々は軍人だ。不当な侵略は必ず阻まねばならん」

「どんな手段でこの国に来るのかは知らんが、少なくとも海から来る可能性は高い。なんとしてでも奴らを足止めし、国内の情勢を安定させなければな」


 現場の指揮をとる海軍大将や中将は、口ではそう言いつつも国内がもうしばらく荒れることは理解していた。


 自分たちだって政府に向かって抗議したいぐらいだ。キリスト教徒でありながら、人体蘇生の禁忌に手を出したローマ教皇庁に文句を言っても許されるだろう。


 しかし、彼らは軍人であり国家の犬。


 飼い犬が飼い主に噛みつけば、次の日には土の味を知ることとなる。


「はぁ、難儀な時代に生まれたものだ。もう100年、早く、もしくは遅く生まれていれば、こんな時代を経験せずとも済んだのだがな」

「だが、歴史の証人にはなれる。私としてはこの時代に生まれて良かったと思っているよ。何せ、人類史の大きな転換点だ。あの人類最悪のテロリストにして人類の英雄が世界を変えた日は、新たな西暦となるかもしれん」

「それは、キリスト教に対する批判に聞こえるが?」

「少なくとも、今のキリスト教よりも大きな成果を残しているだろう?」


 彼らはそんなことを話しながら、敵が来るのを今か今かと待ち受ける。


 来るとしたら戦艦だ。潜水艦はスエズ運河を通れず、そしてジブラルタルは既に他の国軍が抑えている。


 海の上だけを見ておけば問題ないし、潜水艦ならば特有の反応が帰ってくるはず。


 だから、既に自分たちの下に潜んでいる海の捕食者たちに気がつけない。


 彼らは既に、サメの口の中に入ってしまっているのだ。


「ん?........いや、これは海の生物反応だな。潜水艦の反応にしてはちょっと形が違う」

「サメの群れか?珍し........おい、なんかこの反応デカすぎねぇか?推定100m以上あるように見えるんだが」

「ハハッ、ジョーズでも7mちょっとだぜ?そんなわけないだ─────」


 ドゴォォォォォォン!!


 刹那、ひとつの戦艦がサメの牙によって噛み砕かれる。


「なっ........!!」

「何が起き─────」


 ドゴォォォォォォン!!ドゴォォォォォォン!!


 彼らは事態を把握する前に、海の王者によってすでを噛み砕かれて地中海の藻屑となって消えるのであった。




 後書き。

 みんなノリよくて好き。流石はサメちゃんだ‼︎

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