天に奏でるは鎮魂歌

海軍(サメ)⁈


 神の名のもとに正義を執行する戦いが幕を開ける。


 ITA(イタリア)に宣戦布告したと同時に、日本帝国軍は一気に動き始めた。


 国の防衛もあるため全員を動かすことは出来ないが、少なくともも半数近くが日本から出兵。


 その数は約10万程。


 空路、海路を使って、俺達はITA(イタリア)を目指す。


 空路はカルマ王とタイタンの王が同行しており、有事の先は指揮を取ってくれる筈だ。


 数時間の空の旅を楽しんだ後、二ヶ国を渡り歩いてITAに向かう。


 そして、俺とアバート王はと言うと、可愛いサメちゃん達の背中に乗ってのんびりと航海をしていた。


 数百匹のサメの上に1万人の兵士たちが乗っている。


 これで海上から上陸作戦を仕掛けるのが、俺たちの作戦なのだ。


 まさか、サメが来るとは思ってないだろう。空に対応するために、空軍の連中も数十名近く待機している。


「ほい。スリーカード。俺の勝ち」

「はぁぁぁぁぁぁ?!またかよ!!なんで俺がかけに乗った時だけこんなに強いんだよ!!」

「ジルハードは分かりやすいからな。表情や仕草で大体なんのカードを持ってるのか分かるし」

「俺そんなに分かりやすいか?俺、そんなにポーカーフェイスが苦手か?」

「いや、グレイお兄ちゃんがおかしいだけだぞ。少なくとも、私にはさっぱりだ」

「超高性能AIを搭載したこの私でも分からないですよ。主人マスターがおかしいだけです」


 海の上でやることなんてそうそう無い。


 これが戦艦ならば、舵を取る必要があるのだが、自動運転付きの船(サメ)となれば俺達はのんびりと遊ぶぐらいしかやることがないのだ。


 結果、こうしてジルハードから金をまきあげている。


 金を賭けた方が圧倒的に楽しいからこうしているが、破産されても困るので賭けている額はめちゃくちゃ低い。


 1ゴールド─2ゴールドのくっそ安い掛け金であった。


 しかも、オールイン額まで決めている。最大掛け金100円の賭けとか、どんなに負けてもちょこっと金が取られるぐらいしかないのだ。


「ふむ、今はどこら辺かの?」

「えーと、GPSによれば、アラビア海辺りねん........え、もうアラビア海なのん?サメちゃん達滅茶苦茶泳ぐの早いわねん」

「フォッフォッフォ。まだ海に出て一日も経ってないというのにのぉ。凄くね?」

「凄いなんてもんじゃないわよん。多分、現存する戦艦の中では最も早いんじゃないかしらん?」

「戦艦ですらないがの。サメだし」


 既に日が沈み、星々が空を照らす中、俺達はアラビア海の上にいた。


 明日にはスエズ運河を渡れるだろう。


 サメちゃんがクッソ早くてちょっとびっくりしているけど。


 今回の戦争はできる限り早い方がいい。現在のITA(イタリア)は混乱状態であり、まともに軍が動かせない状況にある。


 時間をかければ、当たり前だが対応する時間が生まれてくる。


 国民が危機感を持って急に覚醒される前に、一方的に叩き潰してしまう方がいいのだ。


 その方がこっちにも被害が少ないしな。


「かぁーくそっ、もっかいだボス!!」

「そろそろやめにしておけジルハード。明日も早いんだから、寝るぞ」

「うぐぐ........負けたまま終わるのか?この敗北感を味わいながら俺は寝るのか?」

「負けたヤツの特権だな。羨ましいよ」


 俺はそう言いながら、タバコに火をつける。


 一応EGY(エジプト)に“明日あたりに行くから、よろしく”とは言ってあるが、果たしてちゃんと通してくれるのだろうか。


 もしダメだったらアレだな。ドラゴンモードのリィズに新しい川でも作ってもらうか。


 なんか口からレーザービームとか出せるらしいし、それで水を引いて川を作ってもらおう。


 それもダメなら、昔みたいにみんなでジャンプだ。尻尾ビターンで空に飛んでゴリ押ししながら地中海を目指すことになる。


「戦艦も通っていいよとは言われたけど、本当に通してくれるのかな?」

「あの........ボス。そもそも我が国の海軍は戦艦ですらありませんよ」

「........そういえばそうだった。うちの戦艦、サメだった」


 日本帝国ではもはや常識となっている、戦艦=サメちゃんの方程式。


 当たり前だが、これはうちの国がおかしいだけで世界の常識は鉄の塊の船である。


 やばいどうしよう。サメが通るからよろしくとはさすがに言ってない。


 ミルラどうしよう。俺困ったよ。


「........戦艦でゴリ押せないかな?」

「いや、さすがに無理ですよボス。だってサメですもん。サメですもん」

「ほ、ほら、体格とか強さとか戦艦並じゃん?しかもめっちゃ可愛いじゃん?」


 強い上に可愛い。つまりオトクということだ。


 可愛いは正義。きっとサメちゃん達のつぶらな瞳に心を打たれて、通してくれるはずである。


「戦艦は普通可愛くないですし、体格も強さもサメちゃんの方が上ですよ。流石に無理がありますって。戦艦で押し通すのは」

「........EGY(エジプト)がここら辺ゆるゆるなことを祈るか」

「こんなところでポカする辺り、ボスらしいですね。とは言っても、どうせなんとでもなってしまうのがボスです。あまり気にしない方がいいですよ」


 こうして、一日目の夜は静かにすぎていく。


 明日はきっと、騒がしい一日が始まる事だろう。


 今の間にしっかりと寝ておかないとな。




【アラビア海】

 インド洋の北西部、アラビア半島とインドとの間の海域。

 古代ローマではエリュトゥラー海と呼ばれた。紀元前数世紀から大航海時代にかけて重要な交易ルートであった。現在も中東の原油を運ぶタンカーや欧州との間の船舶が頻繁に往来し、ソマリア海賊を取り締まる海域でもある。

 現在(この世界)は海賊が激減。ダンジョンの方が稼げるので闇ダンジョンの管理などが主流となっている(あと単純に五大ダンジョンの影響で人が寄り付かなくなった)。




 その日の早朝。夜遅くまで仕事をしていたEGY(エジプト)大統領アブドルフッタは、電話の音で起こされた。


 朝っぱらからかけてくる非常識なやつは誰だよと心の中で苛立ちながらも、素直に電話に出る。


「はい。どちら様で?」

「あっ、おはよーございますー。すいません早朝から電話をしてしまって」

「........?........?!」


 その声には聞き覚えがあった。


 先日、スエズ運河を通ってもいいかと聞いてきた日本帝国の代表グレイ。その人の声であったのだ。


 なぜ自分の携帯番号を知っているのかなど、疑問は残るがとにかく相手は未承認国家であろうと首相だ。


 失礼があってはならないと、アブドルフッタは電話越しに姿勢を正す。


「ごほん........水だけ飲んできてもいいか?」

「あ、どうぞどうぞ。朝方は口の中が乾きやすいからね。潤してきてください」


 姿勢を正したが、頭がまだ寝ぼけている。


 というわけで、顔を洗って水を飲んだアブドルフッタはスッキリとした顔になりながら再び電話を取った。


「それで、ご要件は?」

「あー、それなんだけど、今スエズの入口にいるんだよ」

「ほう」

「それで、今止められてるのね。順番云々じゃなくて、なんか戦艦に囲まれてるんだわ」

「........え?」


 戦艦に囲まれている。それはつまり、EGY(エジプト)海軍に警告されているということだ。


 海軍には日本軍が通ることを既に通達しており、海域を通過することを許可するようにしている。


 それなのに、なぜ、彼らはグレイを囲んでいるのだろうか?


 意味がわからない。


「な、なぜだ?私はちゃんと通達したはずだぞ」

「あー、多分日本帝国軍だと分かってないんじゃないかな?所属を聞かれてそう答えたんだけど“嘘をつくな!!”って言われちゃって。ほら、日本海軍はちょっと特殊な戦艦だからさ」

「特殊な戦艦........?」

「うん。サメなんだよね。ダンジョンから引き抜いてきた」

「........?????」


 何を言っているんだこいつは。


 アブドルフッタは、相手の言っていることが理解できなかった。


 それもそのはず。この世界の常識として、戦艦は船だ。海軍はその戦艦を動かす兵士や海の上で活動する兵士や兵器のことであり、少なくともサメがその兵士の中に入ることなどない。


 しかも、ダンジョンから引き抜いてきたサメなんて、人生の中で1度も聞いたことがない単語である。


「すまない。何を言っているのか理解できない。もう少し分かりやすく噛み砕いで話してくれ」

「えーと、日本海軍、サメが戦艦の代わり。俺達、移動手段、サメの上。OK?」

「Not OK。何を言っているのかさっぱりなんだが?」

「んじゃ見に来てよ。そして通行許可を出して欲しいよ。大丈夫、この子達優しいし大人しいから。このままだとアンタらともドンパチする羽目になるぞ」

「ちょ!!ちょっと待て!!今すぐにそちらに向かうし、警戒態勢も解かせる!!少し待っててくれ!!」


 史上最悪のテロリストにして、人類の英雄であるグレイと敵対なんて冗談じゃない。


 不可能を可能にしてきた男と戦って勝てる未来が見えなかったアブドルフッタは、慌てて電話を切ると全ての予定をキャンセルしてまずは海軍と連絡をとる。


 そして、自分の現場に向かった。


「クソが!!結局面倒事になりつつあるじゃないか!!これだから歩く厄災とは関わりたくなったんだよ!!」


 しかし、歩く厄災は自らやってくる。


 アブドルフッタは、この厄災を上手く受け流す術を知ることが国の生存に繋がるのだと深く理解するのであった。


 尚、その後現場に向かうと本当にサメがいて、その上に軍隊がいるという訳の分からない光景を見せられる上に、意外とそのサメが可愛かったと言う体験をする。


 そして、快く地中海への道を開いてあげるのであった。


 もちろん、今回は迷惑をかけたので通行料は割引して。


 アブドルフッタは、かなり賢かったのである。





 後書き。

 サメちゃん可愛いやったー‼︎

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