大統領は賢い


 なんかみんな乗り気で戦争の準備が始まり、気がつけばあっという間に準備が整いつつあった。


 日本帝国は基本的に平和な国なのだが、他の国と違って街を少し外れると当たり前のように魔物がウロウロしている。


 そんな場所で平和ボケしながら生きているとあっという間に死ぬので、平和な期間が少し続こうとも、腕や思想が鈍ることは無い。


 結果、1週間もせずに軍が集まり、あとは作戦立案だけとなった。


「やっぱりEGY(エジプト)に連絡を取るしかないか........」

「そうだねぇ。島国の面倒なところだよね。それと、二重帝国に軍事通行権を渡して貰いたいかも」

「そっちはすでにPOL(ポートランド)にお願いして手を打ってもらったけど、海から行く方がちょっと難しいんだよなぁ........」


 空からの攻撃に関してはそこまで困っていない。


 ブリテンとPOL(ポーランド)にちょっとお願いして、チェコとオーストリアの軍事通行権をすでに獲得しているのだ。


 世界樹の葉っぱはこんな時にも役に立つ。


 100枚ぐらいタダであげるから通してくれない?それに、今の情勢を見たらどっちに着いた方が正しいか分かるよね?


 とお話したら、快く許可をくれた。


 お話(脅し)な気もするけど、多分気の所為気の所為。


 全世界で暴れ回ったテロリストがトップを務める国家の軍を通すとかやばくね?とは思うが、向かうが快く承諾してくれたのならばそのご好意に甘えるだけだ。


 世界樹パワーってすげー。


 これで、空軍と陸軍を送り込むルートは確保出来た。補給線の確保もそこでできるので問題ない。


 まぁ、最悪ほぼ滅んでるFR(フランス)も使えば何とかなるからね。補給に関しても、水は要らないから食料だけでいいのは助かる。


 魔力という概念がこの世界に生まれ、魔力を弾丸とする銃が生まれたお陰で弾薬などの補給もほぼ要らないというのも大きい。


 現在、我が国の標準装備はあまりにも凄まじく、ブリテンの人たちが軍事演習を見た時は普通に驚いていた。


 魔改造されたM4A1アサルトに魔改造されたG18拳銃。更には、既存の軍用魔弾すらも弾く装備を身につけているのだ。


 全部ドワーフのおかげである。


 ドワーフとかいう技術チートがあまりにも強い。何なのこいつら。ちょっと教えてあげただけで、数百年ぐらい未来の装備を作ってんだけど。


 当たり前のように大陸弾道ミサイルとかも作ってるし、ドワーフってかなりのバランスブレイカーだな。


 更には諜報部隊や暗殺部隊まである。


 闇に紛れることが得意なダークエルフによって作られた部隊。実戦投入したことがないのでなんとも言えないが、少なくともAランクハンター以上の強さを持つ奴らによって構成された部隊が弱いはずがない。


 他にも、単純に質量でごり押すタイタン部隊や、銃器ではなく魔法がメインのエルフ魔法部隊など、他の国では見られない部隊が多く存在していた。


 陸軍戦力はこれで十分だろうな。一人一人がAランクハンター以上のの強さを持っているし、大抵の事は個人で片付けられるだろう。


 で、話が逸れたが問題は海だ。


 今回は本気で潰しに行くため、海に逃がすことなど許しはしない。


 後、離島もあるから、そこも叩きのめしたい。


 しかし、地中海に行くためのルートは限られている。そして、そのどれもが問題を抱えていた。


「アフリカの下を通るルートは時間がかかりすぎる。上を通るルートに至っては今の時期は使えないし、スエズ運河を使うとなるとEGY(エジプト)の許可が居る」

「西側から入るルートはブリテンの許可だけだからなんとでもなるけどねぇ。それが一番丸そうだけど」

「アフリカをぐるっと回るルートは長旅になる。俺達だけならともかく、上陸作戦も視野に入れているから厳しいな。エルフ達があの海の上の生活に耐えられるとは思えん。それに、ITA(イタリア)もある程度の予想ができてしまうからな。入ってくる途中で砲撃されると面倒だ」

「それはスエズでも言えることなんじゃないの?」

「スエズ運河付近で攻撃してみろ。三大大国様のEGY(エジプト)とドンパチが始まるぞ。既に苦しい立ち位置のITA(イタリア)が馬鹿じゃなきゃ、自ら敵を増やすようなまねはしないだろうよ」

「もう1つの入口からは攻撃されると?」

「間違いなくされる。ブリテンとITA(イタリア)の仲はかなり悪いからな。寧ろ、嬉々として殴ってくる可能性が高い........と思う」


 ブリテンとITA(イタリア)は死ぬほど仲が悪い。


 昔はそうでは無かったのだが、200年ほど前に当時の大統領達が失言しまくったお陰で一度国交が断絶したことすらあるのだとか。


 一体何を言ったらそんなことになるんだよ。


 噂では当時初の黒人系の血が入った奴がITA(イタリア)の大統領となり、それをブリカスが煽ったのだとか。


 やはり俺たちのブリカスはやることが違う。今の起きている紛争の七割がブリカスのせいと言われているだけはある。


 そんな訳で、ブリテンとITA(イタリア)の仲はクッソ悪い。普通に俺たちが来たからという理由で殴りかかってきてもおかしくないのだ。


「EGY(エジプト)に嫌われてないといいんだけどな........」

「ハンター協会本部に対して攻撃を仕掛けて、国内の治安を悪くしたり他にも色々としているからねぇ........相当嫌われている可能性は高いかも」

「だよな。俺だったら普通に嫌いだもん。嫌がらせのためにNOっていう自信があるね」


 なんか、こう、俺の知らないところで恩があったりしないかな?


 俺はそう思いながら嫌々EGY(エジプト)の政府へ連絡を取るのであった。


 もしOKが出たら、速攻で動こう。ITA(イタリア)が対処を取ってくる前に。




【スエズ運河】

 地中海と紅海をスエズ地峡で結び、アフリカとアジアを分断するエジプトの人工海面水路である。1859年から1869年にかけてスエズ運河会社によって建設され、1869年11月17日に正式に開通した。スエズ運河は、地中海と紅海を経由して北大西洋と北インド洋を結ぶ水路で、アフリカ大陸を回らずにヨーロッパとアジアを海運で連結することができる。例えばアラビア海からロンドンまでの航行距離を約8,900km短縮する。2012年には、17,225隻(1日平均47隻)の船舶が運河を通過した。運河は北端のポートサイドと南端のスエズ市タウフィーク港を結び、中間点より北に3キロメートルの運河西岸にはイスマイリアがある。

 運河はこの世界でも現在。アフリカ南部が崩壊した際は、この運河によって通商が保たれていた歴史がある。




 その日、EGY(エジプト)政府に一本の電話が届いた。


 相手は何かと話題の日本帝国首相“グレイ”。


 つい先日、同時に五大ダンジョンを攻略したという意味のわからないことを成し遂げ、ついに世界の残る攻略不可能ダンジョンを1つまで減らした人類の英雄である。


 その英雄譚の裏側には数多くの死体の山が転がっているが、後の歴史書では彼が素晴らしくできた人間だと書かれることだろう。


「だ、大統領。お電話です」

「どこからだ?」

「日本帝国、グレイと名乗っております。番号を確認いたしましたが、本人で間違いないかと」


 通常、大統領への連絡はプライベートなものでも無い限りアポが必要となる。


 しかし、彼がそんな常識を守るはずがない。常識を守っているならば、他国へ密入国しながら五大ダンジョンを攻略するような頭のイカれたことをするはずもないのだ。


 グレイ達は感覚が狂っているからこれが普通と思っているが、普通は密入国もしなければ五大ダンジョンの攻略もしないのである。


 言っておくが、どちらも犯罪だ。


「アポ無し電話とは。随分と常識知らずだな。ミスターグレイ」

「それについては謝罪しよう。ミスターアブドルフッタ。だが、常識とはそいつが勝手に決めたものだ。他人に適応されるとさ限らない」

「........まぁいい。それで、なんの御用で?今、我々はハンター協会への追求で忙しいのだが?どっかの誰かさんがハンター協会の裏側を暴いてくれたおかげでな」

「そのどっかの誰かさんには感謝ないとな?おかげで随分と五月蝿い口が減っただろ」

「君の口数も減って欲しいものだ」

「俺の口はひとつしかないぞ」


 皮肉を返しても意味が無い。飄々とこちらの痛いところを着いてくる。


 EGY(エジプト)大統領、アブドルフッタ・アッ・スースーはそう思うと無駄な会話を辞めると本題に入る。


 が、この時期に自分へ話を持ってくるとなれば考えられるのはひとつしかない。


「スエズが使いたいのか?」

「話が早くて助かるねぇ。やっぱりドンパチやろうとしているのは分かってるんだ」

「分からない方が難しい。今、キリスト教の正義は貴方にあるのだからな」

「イスラム教徒には関係の無い話だろう?で、通してくれる?通行料は払うよ」


 アブドルフッタは、この世界で巻き起こった数々の事件を見て何となく察している。


 この男、グレイに関わるとロクな事が起きないと。


 しかし、彼にとって不利益な行動を取れば、それはそれで厄災が降りかかる気がした。


 利益のために下心を持っている近づくのも危険、かと言って突き放しても死神の鎌が飛んでくる。


 適度な距離感が必要だ。あくまでも公平に、そして敵とも味方ともならない位置が最も望ましい。


 FRやUSAの二の舞だけは勘弁である。


“大国潰し”とも言われているグレイに手を伸ばすのはあまりにも愚かなことなのだ。


「許可しよう。だが、我々はあくまでも中立だ。君達の味方をすることは無いし、敵対するつもりもない。それだけは理解していてくれ」

「分かってるよ。ちなみに金はどうすればいい?」

「規定通りに払えばそれでいい」


 こうして、グレイ達は地中海へのアクセス権を手に入れた。


 地中海を取られたITA(イタリア)は、第二次世界大戦の光景を思い出してしまうのだろうか。


 アブドルフッタはそう思いながら、触らぬ神に祟りなしと心に誓うのであった。






 後書き。

 アブドル君、賢い。グレイ君には敵対も味方もしないのが一番だよ。だって味方(金蔓)ですからね‼︎

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